元国税局職員さんきゅう倉田です。好きな経営方式は「三店方式」です。
不正の多い業種として、パチンコがよく挙げられます。パチンコ業に不正が多くなるのは、「現金商売であること」「“たまたま”納税意識の低い方が集まる」といったことが理由になると思います。
現金商売で、かつ不正が多いので、無予告での調査が行われることが多いようです。通常の税務調査は、顧問税理士に連絡があるか、顧問税理士がいなければ会社に直接連絡があり、調査の日程をすり合わせて、約束の日の朝、9時とか10時から行われます。無予告の場合は、調査官がステーキよりいきなりやってきます。7時とか8時に来ることもありますし、人数も多い。調査されるほうは、たまったもんじゃないと思います。
映画『マルサの女』(東宝)では、内観調査も行っていました。印をつけた紙幣を前日に投入し、翌日の営業時間中に事務所で確認する。社長のカバンもチェックして、売上除外を見つけていました。会社からすれば、税務調査を受けるメリットはほとんどありません。しかし、調査は断ることができませんし、申告納税制度において必要なものです。そんななか、パチンコ業界に、大きく税務調査が入ったことがありました。それは、ひとつの会社を狙ったものではなかったのです。
2012年、全国各地でパチンコ店を運営する約40のグループが、東京国税局などの税務調査を受け、1000億円の申告漏れを指摘されました。会社分割などを利用し、不動産の含み損を損金計上していたことが、租税回避行為にあたると判断されました。これは都内の元税理士が指南していましたが、発覚時は海外に移住しており、取材にも応じませんでした。パチンコ店は、数店から数十店のホールを持つ準大手ばかりで、その方法は複雑な税制を利用したものでした。
元税理士の指南では、親会社から子会社に不動産を現物出資する方法が取られていました。親会社の不動産の帳簿上の金額が、そのときの時価の金額と差がある場合、100%子会社にその不動産を譲渡しても税金がかかりません。これは、会社を分割したり、合併したりしやすくするための制度と考えられます。逆に、税金がかかるように工夫すれば、不動産の価値が下がっていたときに、損失を計上できます。
今回の事案では、子会社の株主に従業員を加え、100%子会社にならないように装って、親会社から子会社へ不動産を譲渡しました。そのときに、帳簿上の価格である簿価と時価の差額が重要になります。時価が下がっていれば、損失が出るわけです。親会社は、子会社の株式を取得して損失を自ら計上していました。パチンコ店で店舗用の不動産をたくさん持っており、地価が下がっていたところで、この方法を実行したようです。
会社が、持っている資産を譲渡した場合は、時価で取引があったとして、利益や損失が発生します。しかし、経済実態に実質的な変更がない場合、つまり会社名は違うけれど実際は同じ会社といった場合があるわけですが、そのような場合は、そのような取扱いをしないことがあるのです。
同年には、パチンコをやっている方ならみなさんご存じの有名な会社が、税務調査で所得隠しを指摘されました。その事案では、従業員の水増しや役員の個人的な支払いを経費にしていたという“よくある手法”で、重加算税を賦課されました。子会社を使う方法と比べると、昔からある可愛い手法です。見つけるのも、否認するのも簡単でしょう。
パチンコは現金商売なので、売上除外も行われがちです。しかし、1000億円という巨額の申告漏れになると、一般的な方法とは異なる複雑な手法で納税額を圧縮しています。そういったスキームは、税制に明るい人間にしか考えることができません。課税の公平性を維持すべき税理士の先生には、適正な申告を勧めてほしいものです。
(文=さんきゅう倉田/元国税職員、お笑い芸人)