
7月の西日本豪雨の際、安倍晋三首相の初動対応が遅れたことが批判された。当時の「首相動静」欄(新聞によって呼び方は異なる。朝日新聞は「首相動静」、日本経済新聞は「首相官邸」など)を見ると、7月7日は「10時1分、7月5日からの大雨に関する関係閣僚会議」に出席し私邸に帰り、8日は「9時2分、非常災害対策本部会議」を行ったあと、ポンペオ米国務長官の表敬を受けている。
9日は平日のためさまざまな人に会っているが、西日本豪雨への対応は午前中の「非常災害対策本部会議」と夜間の小此木八郎防災担当相との面会しか見当たらない。翌10日になってようやく本格的に動き出した感じだ。災害対応にあたる各大臣などに面会している。災害のため訪欧を断念した首相は、フランスのマクロン大統領や、サウジアラビアのムハンマド・サルマン皇太子と電話協議をしている。
このように、当時の「首相動静」を見ると、政府が災害にどう対応しようとしたかがわかってくる。
なぜ「首相動静」か
首相の動きを見ることは、この国の動きを見ることである。首相が現実に対してどう対応するかで、その能力がわかりやすく見えるからだ。
8月2日付朝日新聞によると、「首相の面会や動向を記録する首相動静は、総理番の記者が主に首相官邸の正面玄関や首相が出席する会合の会場前で、出入りする面会者に確認して執筆している」とのことだ。なぜ、そんなことをしているのか。「最高権力者たる首相の動きや発言を確認するのは、国民が政治の動きを知る上で必要な情報であり、権力監視の基本だ」からである。
新聞によっても「首相動静」に類似した欄の内容に濃淡はある。首相が会った人がいても書かなかったりする場合もあるが、全国紙のなかで朝日新聞は丁寧に書いている。
では、たとえば安倍政権において重要な役割を担っている、北村滋内閣情報官について調べてみよう。北村氏は長年、警察官僚として仕事をしてきた人物である。北村氏は頻繁に安倍首相に会っている。2~3日おきに安倍首相に面会し、おそらく内外の情勢を報告し、対応を話し合っていると考えられる。
7月27日付朝日新聞によると、さまざまな情報が北村氏に集まり、毎週金曜日は定例で安倍首相に説明しているとのこと。安倍首相の情勢判断には、北村氏の考えが反映されていると言ってもおかしくはない。
ただし、安倍首相が世界の情勢を正しく判断できているかというと、そうではない。米朝交渉や日ロ関係など、日本の思惑通りに進まず、とくに米朝交渉ではトランプ米大統領に振り回され、日本側もその対応に追われていたところがある。日本は国際情勢についていけていないというのは、安倍首相の情報判断能力の問題もさることながら、北村氏の情報収集・分析能力の問題もある。こうなると、しょっちゅう会って何を相談しているのか、と考えたくもなる。