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オーケストラ演奏中の指揮者の「ジェスチャー」の秘密…コンサートマスターは特別な存在

文=篠崎靖男/指揮者
オーケストラ演奏中の指揮者の「ジェスチャー」の秘密…コンサートマスターは特別な存在の画像1「Gettyimages」より

 テニスの大坂なおみ選手が全米オープンで優勝したことは、日本全国を感動させるほどの快挙だといえるでしょう。たった数年前、ショットがうまくいかないだけで、コート上で泣き出してしまい、まともに試合にならなかったティーンエイジャーの選手とは、まったく別人に成長したことにも驚きました。ものすごい努力の賜物だと思います。

 そんな大坂選手が、全米オープン決勝の試合中に起こった彼女と関係のない状況に世界の興味が注がれていることは、とても残念に思います。

 アメリカの観客が、優勝セレモニー中にもかかわらずブーイングしたのは、テレビの解説を聞いているわけでない彼らにとっては、詳細がわからないゲームペナルティがあったあと間もなく、自国の“絶対女王”セリーナ・ウィリアムズが負けたことに対する興奮もあったと思います。アメリカ人はおおよそ、そういう盛り上がりが大好きなところがありますが、このひとつの出来事で、アメリカ人全体を評価づけることは単純すぎるかもしれません。

 そもそも、これらの観客が、世界を席巻した初めての黒人テニスプレーヤーであるヴィーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹に対して、長い間差別的な感情を持っていたわけですし、それをこの姉妹は強さと文句を言われないプレイ内容で跳ね返してきたのです。

 だからこそ、コーチングでペナルティを取られたときには、これまでの自分のフェアプレーをも否定されたのだと、セリーナは試合中にもかかわらず涙を流しながら激高したのでしょう。もちろん、彼女の不相応な行動は許されるものではありません。ただ、彼女が実際にコーチングを見たのかどうかの判断は別として、僕の個人的見解は、パトリック・ムラトグルーコーチが、審判からもはっきりと見えるようなジェスチャーをしている自体が、世界中の注目を浴びる女性テニスプレーヤーのコーチとして失格だと思います

 しかし、テニスのコーチは選手から遠く離れている上に、野球やサッカーのように声もかけられない時に、なんとか必死で伝えようとジェスチャーをする気持ちは、指揮者として、ものすごくよくわかる面があるのです。

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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