テニスの大坂なおみ選手が全米オープンで優勝したことは、日本全国を感動させるほどの快挙だといえるでしょう。たった数年前、ショットがうまくいかないだけで、コート上で泣き出してしまい、まともに試合にならなかったティーンエイジャーの選手とは、まったく別人に成長したことにも驚きました。ものすごい努力の賜物だと思います。
そんな大坂選手が、全米オープン決勝の試合中に起こった彼女と関係のない状況に世界の興味が注がれていることは、とても残念に思います。
アメリカの観客が、優勝セレモニー中にもかかわらずブーイングしたのは、テレビの解説を聞いているわけでない彼らにとっては、詳細がわからないゲームペナルティがあったあと間もなく、自国の“絶対女王”セリーナ・ウィリアムズが負けたことに対する興奮もあったと思います。アメリカ人はおおよそ、そういう盛り上がりが大好きなところがありますが、このひとつの出来事で、アメリカ人全体を評価づけることは単純すぎるかもしれません。
そもそも、これらの観客が、世界を席巻した初めての黒人テニスプレーヤーであるヴィーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹に対して、長い間差別的な感情を持っていたわけですし、それをこの姉妹は強さと文句を言われないプレイ内容で跳ね返してきたのです。
だからこそ、コーチングでペナルティを取られたときには、これまでの自分のフェアプレーをも否定されたのだと、セリーナは試合中にもかかわらず涙を流しながら激高したのでしょう。もちろん、彼女の不相応な行動は許されるものではありません。ただ、彼女が実際にコーチングを見たのかどうかの判断は別として、僕の個人的見解は、パトリック・ムラトグルーコーチが、審判からもはっきりと見えるようなジェスチャーをしている自体が、世界中の注目を浴びる女性テニスプレーヤーのコーチとして失格だと思います
しかし、テニスのコーチは選手から遠く離れている上に、野球やサッカーのように声もかけられない時に、なんとか必死で伝えようとジェスチャーをする気持ちは、指揮者として、ものすごくよくわかる面があるのです。