関西の中堅チェーン「スーパー玉出」の創業者が12月3日、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)の容疑で大阪府警に逮捕された。激安路線を独走する食品スーパーの名物経営者として地元ではよく知られる存在。が、ここ数年、病院乗っ取りなどアングラビジネスの金主という別の顔で一部からひそかに注目されていたのも事実だ。
逮捕されたのは不動産会社「玉出ホールディングス」を現在経営する前田託次社長。1970年代後半に大阪市西成区に玉出1号店を開業。「1円セール」を打つなど徹底的な激安路線が特徴で、後発ながら店舗網は50店近くまで拡大、売上高を500億円前後まで成長させたやり手だった。
今回の容疑は意外なものだ。端緒は大阪の有名風俗街「飛田新地」における売春防止法違反(周旋)事件。今年5月に逮捕された山口組系暴力団の元幹部とその内縁の妻は売春目的で料亭「銀河」を実質経営。その建物を資産管理会社「ケイ・アイ・クリエイト」名義で所有していたのが前田社長だった。犯罪行為に使われることを知りながら賃料として収益金の一部を得ていたことが今回問われたわけである。
じつは前田社長はここ数年、信用調査会社などの間ではアングラビジネスの金主として警戒される知る人ぞ知る存在だった。資金を提供していた先は大阪市内のある経営コンサルティング会社社長で、その人物は今年7月に警視庁が摘発した医療法人「徳友会」(千葉県木更津市)をめぐる不正リース事件の犯行グループとも一時期密接な関係にあった。
件のコンサル社長が注目されだしたのは2011年のことだ。神戸市の六甲アイランド内にある大型施設「神戸ファッションプラザ」の登記簿にコンサル会社の名前が突然現れたのがきっかけだった。どういうわけか、資金難が囁かれていた運営会社が所有する持ち分を担保に1億円余りの根抵当権を設定したのである。この時の債権者が前田社長の関係企業「ジョイフル・タマデ」だった。その頃、コンサル社長は神戸市内の社会福祉法人「有隣会」にも介入していた。
そうこうするうち、コンサル社長が次に登場したのは大型倒産事案。12年7月、日用品メーカー「サン・ジャパン」(大阪市)が負債100億円近くを抱え民事再生を申し立てたが、その時の代表取締役はコンサル社長の密接関係者だった。以後、サン・ジャパンの倒産手続きはコンサル社長の主導で進んだとされ、翌年2月には虎の子の事業がコンサル社長支配下の別企業に譲渡され、同年7月にサン・ジャパンそのものは破産してしまうという不透明な経過をたどった。
「粉飾アレンジャー」
その前後からコンサル社長は東京でも暗躍し始める。接点を持ったのは前述の徳友会に財務部長の肩書きで乗り込んでいた元税理士の吉富太可士被告だった。吉富被告は富士バイオメディックスをめぐる粉飾事件で11年5月、東京地検特捜部により逮捕、12年3月には東京地裁で執行猶予付きの有罪判決が下り、確定していた。当局は外部から乗り込み不正会計を経営陣に指南した吉富被告らを「粉飾アレンジャー」と呼び、悪質性の高さが際立つとしていた。
吉富被告は富士バイオに介入する以前から全国各地の不振病院を次々手玉に取る乗っ取りグループの一員として知られていたが、有罪判決が下った前後も“ビジネス”を続けていた。徳友会ではキヤノンマーケティングジャパンの課長級社員と組んで医療機器の不正リースを画策。そうして得た約9億円のリース融資金は大半が使途不明となった。
12年秋、吉富被告は徳友会からの足抜けを考え始めたようだ。そこで新オーナーとして現れたのが件のコンサル社長だった。当時、コンサル社長は大阪で医療法人「手島会」の買収に動いており、その資金調達の過程で吉富被告と接点を持った可能性がある。結局、この時の買収資金はスーパー玉出の前田社長が用立てたとされる。
これ以後、コンサル社長と吉富被告とはある種の“ビジネス・パートナー”となる。吉富被告はこの頃、東京都内の化粧品会社にも入り込んでいた。一緒に外部から経営を牛耳っていた出版会社社長も交え、さまざまな案件をめぐり思惑は絡み合い、カネのやりとりは複雑になっていった。この出版会社社長もすねに傷を持つ身で、04年に摘発された中央官庁職員への贈賄事件で逮捕歴があった。
彼らの“ビジネス”のネタは大阪市内の競売ビルや医療法人「真心会」、医療法人「敬裕会」など。それらをめぐって貸し借りが行われ、隠れていた損失が明らかになると片方が「念書」を差し入れてその場を凌ぐといった化かし合いが展開された。前田社長のケイ・アイ・クリエイトがカネの出し手になることが、たびたびあったことはいわずもがなである。
ある民事事件の記録によると、コンサル社長と吉富被告のやりとりは当時こんな具合だった。
コンサル社長「(徳友会が)商工中金から融資が受けられたら、その中から5000万円貸してやるよ」
吉富被告「●●社長(=出版会社社長)がうっとうしいので一筆書面を書いてくれないか。書面は私の方でつくるから。書面には徳友会と●●さん(=コンサル社長)の判子をもらいたい」
コンサル社長「いいよ。書いてやるよ。判子も押してやるよ」
結局、コンサル社長らの協調関係は1年ほどしか続かなかったようだ。その後は複雑に絡み合った債権債務を解きほぐすため、裁判での攻防が展開された。一人になったコンサル社長は、大阪の医療法人「佑成会」に経営介入、東京では六本木の有名寺院跡地の地上げ合戦に参入したり、日本ユニシスが源流の印刷関連会社「エヌユーエス」を1円で買収しさらに玉突きで東京都内の「未来ホールディングス」なる正体不明の会社を総額32億円で買収しようとするなどした。
暴力団へ恒常的な資金提供の疑い
が、15年頃からスーパー玉出の前田社長はコンサル社長を信用しなくなったようだ。カネ詰まりに陥ったコンサル社長はその年11月頃、前述のサン・ジャパン関連の会社の経営権を失い、翌年2月にはエヌユーエスも破産した。支配下に置いていた真心会では17年6月に診療記録の誤廃棄が発覚、杜撰な運営の一端が明るみにもなった。この間、前田社長は提供資金の保全に走ったとみられ、一部の医療法人を実質支配下に置いたようだ。
前田社長とアングラ人脈との付き合いは、そもそも今に始まった話でもない。スーパー玉出は1998年、フィリピン人を不法就労させていた入管法違反事件を起こしているが、その際の家宅捜索では山口組系暴力団の代紋入り灰皿や湯飲みが押収されていた。さらに出入り業者による任意団体をつくっていたところ、そこで集めた会費の一部が暴力団に流れているなど、恒常的な資金提供の疑いも複数浮上していた。
コンプライアンス(法令遵守)に対する意識がかつてとは比べものにならない今の世の中、そのような企業が隆々と経営を続けられてきたことは、関西ならではのことなのか、じつに不思議な話ではある。いずれにせよ、ここ数年はこれまで述べてきたようなコンサル社長との関係がひそかに注目されてきた。今年7月、スーパー玉出は主力の流通事業を鶏卵大手、イセ食品創業者が代表取締役を務める企業に売却。70代半ばとなり、いわばハッピーリタイアメントを遂げた前田社長は余生を不動産事業で過ごすとしていた。
じつは今回の事件の舞台となった料亭「銀河」の建物は、もともとスーパー玉出が持っていた土地の上にコンサル社長の親密者が代表を務める不動産会社が2014年3月に建てたもの。登記簿によれば、木造合金メッキ鋼板ぶきの2階建てで、延べ床面積は約250平方メートル。それを前田社長のケイ・アイ・クリエイトは代物弁済により15年11月に取得していた。おそらく提供資金を保全する過程でコンサル社長から取り上げたのだろう。あまりに脇が甘かった報いだが、関西の名物経営者は思わぬババを引いた可能性もある。
(文=高橋篤史/ジャーナリスト)