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山崎将志「AIとノー残業時代の働き方」

グーグル社、チームの生産性を高める方法を大規模調査…解明された衝撃の“答え”

文=山崎将志/ビジネスコンサルタント

「心理的安全」

 さらに調査を進めた結果、一つ統計的に有意な特徴が判明しました。

 それは、優れたチームは「心理的安全」という状態にある、ということです。

 心理的安全という言葉は、英語のpsychological securityの直訳ですので、少しわかりにくいかもしれませんね。心理的安全を私なりに解釈すると、チームのメンバーが、このチームで自分は、恥をかかされたり、拒絶されたりすることはなく、全面的に受け入れられていると信じている状態です。

 そして、心理的安全状態にあるチームのメンバーは、自分の声のトーンや、言い回し、そのほかの言葉以外の合図に対して、相手がどう感じるかについて非常に敏感です。生産性の高いチームは心理的安全状態にあるという相関関係は明らかになりましたが、どうしたらそれが仕組みとして組織に落とし込めるかは、わかっていませんでした。心理的安全という用語の意味からしてそうですが、厄介で難しいのです。

 そこで、プロジェクトチームはチームリーダークラスの有志を募って、彼らに心理的安全を実現するアイデアを、それぞれで考えてもらうというアプローチをとりました。するとチームリーダーの一人が手を挙げました。彼は自分のチームの生産性が上がらないことに悩んでいました。

 そこで彼はプロジェクトに手伝ってもらい、チームメンバーへのアンケート調査を実施しました。すると、「社内におけるチームの役割や目的が不明確」で、「自分たちの仕事が会社に与えるインパクトが小さい」とチームメンバーが考えていることがわかりました。

 この結果に衝撃を受けたリーダーはチームの全員を集めて、インフォーマルなミーティングを開きました。そこで彼は「これからみんなの知らないことを打ち明けよう」と断った上で、自身が末期がんに冒されていることを告白しました。

 全員が驚いて呆然としていましたが、しばらくするとメンバーの一人が立ち上がって自分の健康状態を打ち明けました。するとそこからは堰を切ったように、チームメンバー一人ひとりが自らのプライベートな事柄を語り始め、それが終わるころには、自然に今回のアンケート結果についての議論になったそうです。

 プロジェクトチームはもちろん、病気のことを話すようにリーダーに指示したわけではありません。プロジェクトが示唆したことは、自分自身の困難を打ち明けることが、組織の規範について話すためには欠かせない、ということだけでした。

チームメンバーへの心遣いや共感

 チームが結束するためには、重病のリーダーが病気を打ち明けることが不可欠だと言っているわけではありません。職場によっては、自分の気持ちについて話すのは違和感がある、という雰囲気のところもあるでしょう。実際、IT企業にはこうした傾向が強いものですが、心理的安全が組織の生産性を高めることがデータとして示されたことで、この状態にある組織をつくろうという意識が従業員に生まれたのです。

 たとえ意見の合わない同僚と難しい会話をするときにも、効率的に仕事の話だけをすることはできません。どんな時も、我々は相手が本当に自分の話を聞いてくれているかどうかを知りたいのです。自分の仕事が大切だと相手に思ってもらいたいのです。

 このプロジェクトの発見は、社員一人ひとりが会社で本来の自分を曝け出すことができること、そして、みんながチームメンバーへの心遣いや共感を持っていること、つまり心理的安全状態にあることが、チームの生産性を高めることにつながるということでした。

 心理的安全の重要性は以前から指摘されていたことです。しかし、この結論を皆さんにお伝えする価値があると私が考えるのは、ときにはただの主観や好みであるとされがちな、組織運営に関する諸説のなかで、統計的に有意に意味があるものが特定されたことにあります。

 それを組織内に取り入れようとしても、先ほど申し上げた通り一般的な処方箋はありません。まずは、あなたの所属する職場でこの話題を取り上げてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。
(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)

山崎将志/ビジネスコンサルタント

山崎将志/ビジネスコンサルタント

ビジネスコンサルタント。1971年愛知県生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業。同年アクセンチュア入社。2003年独立。コンサルティング事業と並行して、数社のベンチャー事業開発・運営に携わる。主な著書に『残念な人の思考法』『残念な人の仕事の習慣』『社長のテスト』などがあり、累計発行部数は100万部を超える。

2016年よりNHKラジオ第2『ラジオ仕事学のすすめ』講師を務める。


最新刊は『儲かる仕組みの思考法』(日本実業出版社)

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