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山田修「間違いだらけのビジネス戦略」

ライザップ、どん底状態に…プロ経営者・松本晃氏すら「手に負えない」と半年で逃げ出す内情

文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント
ライザップ、どん底状態に…プロ経営者・松本晃氏すら「手に負えない」と半年で逃げ出す内情の画像1ライザップ(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 RIZAPグループ(以下、RIZAP)は6月の株主総会で中井戸信英(のぶひで)氏を取締役会議長として選任し、創業経営者である瀬戸健社長を強力にバックアップする体制に入る。外部から再びプロ経営者を招聘したかたちだ。

 中井戸氏の前に招聘されていた松本晃氏は同総会で取締役を退任する。松本氏は昨年10月に代表取締役COOを退任したときが、実質的にRIZAP経営のトップから退いたときとなった。

 本連載では2回にわたって中井戸氏の着任事情、と松本氏の退任事情を分析してきた。今回は、「松本氏退任の3つの事情」について、残り2つの要素を解説する。

外部から舞い降りるプロ経営者が直面するのが社内の抵抗勢力

 松本氏がカルビーからの退任を発表したその日に、RIZAPの瀬戸健社長が自ら松本氏に電話を入れてRIZAPへの入社を懇請した。この迅速さ、率直さに打たれた松本氏は、その要請を受け入れたわけだ。

 瀬戸社長の電光石火の働きかけは、創業社長でなければできないものだ。また、相手の懐に飛び込むという率直さは、新将命(あたらしまさみ)現最高顧問を迎え入れたときにも発揮されていた。まだ若手経営者といってもよい瀬戸社長の年齢(41歳)もあり、瀬戸社長には「ジジ殺し」の性向があるのだろう。

 松本氏を招聘したとき、そのタイミングや成り行きから、瀬戸社長が社内で衆議に諮ったとは考えられない。「経営家庭教師」ともいうべき新社外取締役(当時)にも相談せずの行動だったと思われる。

 瀬戸社長が新氏に事前に相談していたら、松本氏の着任はあのような電光石火の展開にならなかったのではないかと私は思っている。というのは、新氏は1990年まで8年間ジョンソン&ジョンソン日本法人の社長を務めていた。松本氏は93年に同社に参画し、やがて社長を務めた。J&J社で2人の社歴が重なり合っているわけではないが、同じ会社で近い時期にCEOであった経営者同士が意識し合わないことはない。そんな事情を忖度せずに松本氏招聘に走った瀬戸社長の行動は、拙速だったのではないか。

 招聘された松本氏は昨年6月の株主総会で代表取締役COOに着任した。すると、その総会で新氏は取締役を退任して最高顧問という職に引き下がってしまった。新しい首相が決定したらそれまでの与党幹事長は入閣に応じずに無役に下ってしまったような現象が見られたのである。

 私は、新氏が松本氏にとっての反対勢力だった、と言っているわけではない。しかし、着任したRIZAPで「J&Jつながり」がある有力者から協力体制を取り付けるかたちは取れなかった。

 松本氏に対する社内からの反発は、さらに強いものがあった。瀬戸社長が松本氏を電光石火に招聘決定した昨年3月のRIZAPの決算数字が、未曾有の好結果となったことがあげられる。昨年5月に発表された2018年3月期のグループ売上高は1,362億円(対前年比43%増)、経常利益120億円(同25%増)と大幅な増収増益であり、株価はその時点で964円と18年の最高値をつけていた(今回の決算発表翌日5月16日の株価は245円)。

 いわばグループ挙げての好況感に沸いている状態で、社員や関係者はさぞ“ハイ”な心理にあったことだろう。

 一方、松本氏が着任する数年前から加速していたM&A路線の結果、18年9月の段階でグループ傘下の企業数は85社までに拡大していた。いわば、2週間に1社、外部企業の買収が発表されてきたのである。そんな好決算とM&Aフィーバーに水をかけたのが、外部からひとり落下傘降下してきたプロ経営者だったのだ。

 人間というものは、それまで自分が正しいと思って一生懸命やっていたことを否定されるとおもしろくないものだ。まして、その結果として好成績が出ているとすれば、それに異を唱える人物に対しては不信感を抱く。そして、それは理由のない嫌悪へとつながることがある。

 松本氏の「M&A路線凍結」提言を受けた瀬戸社長自身も、路線変更に当初は大いにためらいがあったとされている。しかし、結局新参COOの提言を受けて、18年秋に路線変更を発表した。その結果のひとつとして、財務担当とM&A担当役員が年末に解任されている。突っ走っていた組織に鉈をふるってしまった再生経営者が、既存の組織成員からは反感を持たれることは覚悟の上のことでもあったろう。

「週に1回しか出社しないのに年俸1億円だって?」

 吐き出すように話したRIZAP社内の人の言葉が、私の記憶に残っている。念のために書き添えると、松本氏のRIZAPでの報酬は開示されていないので、この金額が事実かどうかは確認できない。

 居心地の悪い会社、それが新任COO松本氏にとってのRIZAPだったと私は見ている。

パートタイムでは企業再生はやりとげられない

 松本氏のRIZAPにおける最大の蹉跌は、氏の多忙さということに尽きるだろう。瀬戸社長の要請を受けてRIZAPに乗り込んできた松本氏は、瀬戸社長に対して、外部ですでにコミットしてしまっている業務の続行を条件とした。

 その結果、名が知れたこの会社のCOOが週に一度程度の稼動という態勢しかとれなかった。そして、管掌業務は80を超すといわれる子会社群の担当及び立て直しとされた。週に1度しか顔を出さないトップがどうやって業種、業態、規模が異なるそんな数の会社群の経営、あるいは経営指導ができようか。

 RIZAPに着任した松本氏は、すぐにそれまでのM&A拡大路線の無理筋を読み取り、それをストップさせた。しかし、すでに買収してしまった企業群の立て直し、さもなければ売却は短期間では不可能だ、およそ豪腕を誇る自分でも難しいことだということも悟った。

 ところが、社内では瀬戸社長以外は四面楚歌、自らは社外活動もあり経営にフルコミットできない状況である。当然ながら実績、業績は確保できないだろう。そんな判断を下したプロ経営者は半年もたたずして当社の代表取締役COOの座を自ら滑り降りた。

「RIZAPは手に負えない」

というのが、松本氏の苦い判断でなかったか。

中井戸氏はRIZAPをどこへ連れて行くのか

 では、プロ経営者が匙を投げた会社を引き受けた中井戸取締役会議長は、RIZAPを立て直せるのだろうか。

 私は、松本氏のときほど中井戸氏はこの会社の経営に手を焼かないのではないかと見ている。

 ひとつは、同社の業績が今どん底にあるような状況だということ。発表された19年3月期の決算数字、特にその利益額は恐ろしく悪かった。そうすると、「これ以上は悪くならない」という状況でもあるのだ。底を打った業績を回復させることは、実は絶好調の業績をさらに伸ばせと要請されることより容易なのだ。

 おもしろいことに決算発表がされた5月15日の同社の株価終値は288円だったが、個人投資家の予想株価は419円(株式投資の総合サイト「みんなの株式」より)だった。つまり、一般投資家はRIZAPは今底を打ったような状況だと思っていると読むことができる。

 2つ目は、極端な悪業績が現出したことによる、組織内の危機意識の醸成である。一部には倒産の可能性さえ報道された。こうなると従業員や役員までもが改革を望み、受け入れる状況が出来上がる。

 3つ目が、社内に充満していたであろう“松本アレルギー”だ。中井戸氏を連れてきたのが松本氏と距離をおいていた新最高顧問ということもあり、今度は意外と受け入れられるのではないか。経験豊富な中井戸氏はうまく人心一新をアピールできるかもしれない。

 RIZAPを企業再生させるには、子会社群の「選択と集中」しかない。その方向性はすでに示されている。そちらの方向に舵を切った松本氏は悪役を買って出た上で舞台から退場した。「選択」ということなら、RIZAPで知られている「結果にコミットする」というコピーに合致した、あるいは関連した事業に絞るということだろう。RIZAPが自ら掲げている「自己投資産業No.1へ」に回帰しなさい、ということだ。

 最悪期という、機は整ったRIZAPをこれから中井戸氏がどう浮上させていくのか。手腕の発揮どころがきた。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)

山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役

山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役

経営コンサルタント、MBA経営代表取締役。20年以上にわたり外資4社及び日系2社で社長を歴任。業態・規模にかかわらず、不調業績をすべて回復させ「企業再生経営者」と評される。実践的な経営戦略の立案指導が専門。「戦略カードとシナリオ・ライティング」で各自が戦略を創る「経営者ブートキャンプ第12期」が10月より開講。1949年生まれ。学習院大学修士。米国サンダーバードMBA、元同校准教授・日本同窓会長。法政大学博士課程(経営学)。国際経営戦略研究学会員。著書に 『本当に使える戦略の立て方 5つのステップ』、『本当に使える経営戦略・使えない経営戦略』(共にぱる出版)、『あなたの会社は部長がつぶす!』(フォレスト出版)、『MBA社長の実践 社会人勉強心得帖』(プレジデント社)、『MBA社長の「ロジカル・マネジメント」-私の方法』(講談社)ほか多数。
有限会社MBA経営 公式サイト
山田修の戦略ブログ

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