
先日、金融庁が「老後の30年間で生活費が約2000万円不足し、資産形成の自助努力が必要」との報告書を発表した。年金暮らしの高齢夫婦では生活費が月約5万円不足し、その不足額は老後の20~30年間で1300万~2000万円になるという内容だ。
のちに麻生太郎財務大臣が「(表現が)不適切だった」と釈明したが、平均寿命が過去最高を更新(女性87.26歳、男性81.09歳)し、「人生100年時代」といわれるなか、少子化による労働力人口の減少や公的年金の財源不足など、現在の日本が抱える“最大の問題点”が浮き彫りになった感もある。
確かに、老後の資金不足については誰もが不安を覚えるところだが、金融庁はそれを理由に「資産運用が必要」としている。これはどういうことか。また、どう対処するべきか。専門家に解説してもらった。
タンス預金を吐き出させたい政府の思惑
「今回、金融庁が資産運用を推奨した理由のひとつに『タンス預金を吐き出させたい』ということがあります。年金は先々の財源不足が確実なので、家の中に眠っているカネを市中に回したいというわけです」
こう語るのは、都内の投資信託会社に勤める山里達夫(仮名)氏だ。今、日本国内のタンス預金は推定で50兆円ともいわれている。国民ひとりあたり40万円以上のカネが金庫やタンスなどに眠っているわけで、これが消費に回れば経済が活性化することは明白だ。
「政府は4月、2024年から新紙幣を発行することを発表しました。5年も前に発表したのは、紙幣刷新が消費を伸ばすことにつながるからです。ATMや自動販売機、駅の券売機などは改修や買い替えを迫られ、業界によっては特需も期待されています。また、心理的に『旧紙幣を使っておこう』という動きにもつながり、タンス預金の吐き出しにも寄与しそうです。現在、政府はキャッシュレス決済を推進していますが、それも消費の気運を高めたいというのが狙いのひとつです」(山里氏)
つまり、政府の金融政策は「眠っているカネを使わせること」がベースにあり、そのために資産運用を推奨しているわけだ。
6割の投資家が“負け組”に
とはいえ、いきなり「老後のために投資を」と言われても、戸惑う人も多いだろう。
「100%確実に利益が出る=元本保証の資産運用は、定期預金や個人向け国債しかありませんが、リスクが小さいと同時にリターンも小さいです。また、貯蓄型保険も、満期前に解約すると保険料より解約返戻金のほうが少なくなります。いずれも資産運用というより貯蓄に近いイメージで、『月5万円の不足』を補うにはやや物足りないでしょう。
となると、リターンが期待できるのは、ある程度のリスクを負うかたちの資産運用となります。株式投資や投資信託、不動産投資、金やFX(外国為替証拠金取引)、仮想通貨などです」(同)
ここで問題が生じる。多くの人は投資や資産運用に馴染みがなく、不勉強であるという点だ。つまり、政府が投資を促しても、プレーヤーのほとんどは初心者ということになる。
そして、ここからが大事なポイントだ。投資をしている人のうちで利益を出している割合は「ジャンルや投資のパターンにもよりますが、投資家のうち約1割です。3割がトントン、6割が負け組です」(同)という。つまり、初心者が投資を始めても資産を減らす可能性が高いわけだ。