
「日本企業には優れた技術があるが、マーケティングのノウハウがないために海外企業に負けてしまう」という解説がよく聞かれ、書店にはマーケティングに関する書籍があふれているなか、本連載でもマーケティングの基礎の基礎を解説している。前回、“無形の商品”であるサービス財全体の特性について紹介したが、今回はサービス財を取引形態によって分類してみよう。解説は立教大学経営学部教授の有馬賢治氏だ。
仲介財型サービスは常に取引を模索
――サービス財には、主に「無形性」「同時性」「消滅性」「異質性」の4つの特徴があるとのことですが、サービス財自体を分類するとどのようなものに分けられるのでしょうか?
有馬賢治氏(以下、有馬) 取引形態に着目しますと、サービス財には「創造財」と「仲介財」の2種類があるというのが私の仮説です。創造財は小説、マンガ、音楽データなどのように知的所有権のあるもので、印刷による出版やダウンロードなどでオリジナルをコピーしたものにも価値が見いだされ、取引の対象になる財のことを指します。コピーの回数が多ければ多いほど著者や版元などに収入が入るため、最初に作品を創造すれば、あとはコピーで収入が得られるのが創造財の特徴です。
――いわゆる印税というものですね。では仲介財は?
有馬 仕入れた有形の商品の販売(いわゆる小売業)や旅行の手配、株取引の仲介、運転代行など、顧客にサービスを仲介や斡旋することで取引の手数料を得るのが仲介財です。多くのサービス業はこの仲介財型サービス業にあたりますが、創造財と違い、その都度の取引が発生・成立しないと手数料が発生しないので、常に取引を作り出す努力、つまり“営業”が求められます。しかも、仲介財ビジネスの企業は規模が大きくなると、従業員の人件費確保などを含めて多くの取引がないと会社を維持できません。これは以前の別連載で紹介しています。
プロ、アマ問わず創造財で稼げる時代へ
――会社を維持できる以上のサービスを毎日売り続けないといけないと。創造財と比べると、仲介財型ビジネスは非常に大変という印象を受けます。
有馬 ただ創造財をメインとしながらも、仲介財型の側面を持つビジネスもあります。たとえばミュージシャンのリリースする楽曲は創造財ですが、コンサートは仲介財になります。音楽という無形のサービスを、自分を通して会場に来ている観客に提供しているということですね。