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曽和利光「人と、組織の可能性を信じる世界のために」

なぜ部下の教育を頑張れば頑張るほど育たないのか…「盗んで学べ」が意外に効果的なワケ

文=曽和利光/株式会社人材研究所代表

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「Getty Images」より

「採れない」から「大事に育てよう」に

 少子化が根本的な理由である「採用難時代」が続いています。そのため企業の中には「何をやってももう採れない」と無気力に陥っているところが増えています。そういう企業に限って採用をやりきっていないことも多く、「まだやれることはありますよ」と言いたくなります。

 しかし、その結果、採れないなら今いる人を大事に育てていこうという志向が高まっているのは大変良いことだと思います。ふるいにかけられて、這い上がってきた人だけ生き延びるというような目にあっていた世代などから見れば、うらやましい限りでしょう。

今度は「どうやったら人は育つのか」に悩む

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『コミュ障のための面接戦略』(曽和利光/星海社新書)

 ところが育成を強化しようとしても、何をしたらいいのかわからないところも多いようです。「人は大事」と言いながら、実際には選抜の論理で、勝手に伸びてきた人をピックアップしてきたような会社ほど、いざ人を育てるとなっても、思いつくのは研修とか資格試験の補助ぐらい。しかし、「仕事経験7割、上司の薫陶2割、研修1割」(ロミンガー社)というように、研修はもちろんプラスではあるものの、それだけでは人はなかなか育ちません。一番大事なのは「どんな仕事をアサインするか」です。人は仕事で育つのです。

ところがOJTもなかなか機能していない

 それではと、具体的な仕事を実際にさせながら教えるOJT(On The Job Training)や、1on1ミーティング(上司と部下のサシで定期的に育成的ミーティングを行う)が改めて見直されており、本腰を入れて実施する企業が増えています。しかし、それがまたなかなか功を奏していない。上司が仕事のやり方を一から十まで懇切丁寧に部下に教えているのに、部下はいつまで経っても成長せず、成果が出ない。詳しいマニュアルを作ってもうまくいかない。マネジャーに教え方を教えてもダメ。なぜこんなことになるのでしょうか。

育てる方向性が間違っているのかも

 人が育たない理由はもちろんいろいろあります。育成対象者個人の素質の問題もあるでしょうし、育成者の教える能力の問題もあるでしょう。しかし、その両者が問題ないはずなのに、なかなかうまくいかないのは大抵の場合、育成のゴールが間違っているということが多いのです。育てる方向性が間違っていれば、学ぶほうや教えるほうがどれだけ努力したとしても、むしろ頑張れば頑張るほどうまくいきません。間違った方向に全力で走っていれば当然そうなってしまいます。

プロは自分がやっていることを意識していない

 そして育成のゴールがなぜ間違ってしまうのか。最も多いものが、教えている側自身が教えようとしていることをきちんと理解していないということです。できている人でも、自分が何をしているか理解しているかどうかは別です。例えば、日本語を流暢に話せる人が日本語の文法を意識しているかというとそうではありません。むしろ無意識に自動的にできるからこそ流暢なのです。つまり、あることができる人はそのことを意識できていない可能性があるということです。

言葉で教えるより、観察させるほうが正しく伝わる

 それなのに、教える側がなんとか自分がやっていることを言葉にして教えようとしたら、やっていることと違うことを伝えてしまう場合があります。無理に言葉にするから本当のやり方とは違うことになるのです。それよりも、できているのであれば、そのやっている様をそのまま見せてあげて観察してもらう方がダイレクトに伝わるかもしれません。山本五十六の有名な「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かじ」でも、最初は「やってみせ」ています。言葉で説明するのではなく、観察して学んでもらう。これはまさに昔から言われている「盗んで学べ」ということではないでしょうか。

難しいことほど、「盗んで学べ」

 特に、たくさんのプロセスが重なって構成されている複雑なスキルであればあるほど、言語化が難しくなるために、「盗んで学ぶ」効果が高くなる可能性があります。例えば、自転車に乗るスキルは、動かす筋肉の一つ一つをすべて言語化して説明しようとすれば大変複雑なことになってしまいます。それを、実際に自転車に乗っているのを何度も見てもらって、わからないなりに試してもらい、ダメならまた観察してもらうということを繰り返すことで身につけることができるのです。ビジネスでのスキルも、単純で少ないプロセスの作業なら言語で教えるのも容易ですが、複雑になれば「盗ませる」ほうがよいかもしれません。

「古い」ものは「悪い」ものではない

 このように考えると、あまり細かく言葉で説明せずに、自分がやっていることを相手によく観察させることによって物事を学ばせる「盗んで学ぶ」というのも、そんなに悪い方法ではないと思いませんか。ビジネスの世界では、新しいものがよくて、古いものが悪いと思われがちですが、昔ながらの古いやり方が合理的である場合も多い。長く続いたことにはそれなりの良さがあるものです。それを理解できない、言葉にできないからと言って、捨ててしまうのはあまりに惜しい。皆さんの近くにいる「育て方のうまい人」をよく観察して、ぜひ育て方も「盗んで」学んでみてください。

(文=曽和利光/株式会社人材研究所代表)

曽和利光/人材研究所代表

曽和利光/人材研究所代表

京都大学教育学部教育心理学科卒。新卒でリクルートに入社、2009年まで人事や人事コンサルティングを行う。人事GMとして、最終面接や人事担当者トレーニングなども担当。その後、ライフネット生命などのベンチャー企業の人事責任者を経て、現職。現在は、日系大手から外資、ベンチャー、中小企業様に至るまで、様々な会社の、人事や採用に関するコンサルティング、トレーニング、アウトソーシングの事業を推進中。
日本採用力検定協会理事/日本ビジネス心理学会理事/情報経営イノベーション専門職大学客員教授
株式会社人材研究所

Twitter:@toshimitsu_sowa

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