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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

ベートーヴェン、幻の『交響曲第10番』が4月に世界初演奏…クラシック音楽CDの特殊性

文=篠崎靖男/指揮者
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【完了・2月1日掲載希望】ベートーヴェン、幻の『交響曲第10番』が4月に世界初演奏…クラシック音楽CDの特殊性の画像1
「Getty Images」より

 今年は日本のみならず、世界中でベートーヴェンの演奏会が多い一年となります。というのは、今年はベートーヴェン生誕250周年だからです。しかも、ベートーヴェンは交響曲の作曲家として有名なわけで、もちろんオーケストラにとっても、お祭り騒ぎとなります。

 これをCD会社も黙って見ているはずはありません。あるCD会社などは、ベートーヴェンの交響曲や協奏曲はもちろん、管弦楽曲、ピアノ、歌曲、オペラなどのほぼすべての作品を網羅したCDセットを発売しており、なんと80枚入りで1万2000円です。つまり、CD1枚が150円という驚くべき安値です。しかも演奏家は超一流を揃えているのにもかかわらず、なぜここまで安くできるのでしょうか。

 そこには、発売した時に売り切らないとブームがあっという間に過ぎて在庫の山になってしまうポップ音楽CDとは違い、爆発的には売れなくとも長く売り続けることができるクラシック音楽CDの特殊性があります。たとえば、第二次世界大戦前の1935年に録音された、イタリアの名指揮者トスカニーニのライブ録音などが、今でもマニアの間では売れるという世界なのです。

 もうひとつ、クラシックの場合、同じベートーヴェンの交響曲であっても、違う指揮者やオーケストラによっての演奏が、大きな魅力を持つという点もあるでしょう。一方、ポップス音楽は、特定のアーティストに対して作曲されていることがほとんどです。北島三郎の『祭り』は、やはり北島三郎でなくてはいけませんし、山下達郎の『ラストクリスマス』は、山下達郎が歌わなければカラオケに聞こえてしまいます。

 しかし、クラシックの場合、個々のアーティストの解釈の違いで、同じ曲でも違った魅力を感じることができます。極端な話、同じ指揮者であっても、オーケストラが違ったり、録音した年代が違うだけで、それはそれで大きな魅力になるので、クラシックCD会社の倉庫にある膨大な録音は、今もなお宝の山なのです。数十年前の古い録音であっても、セットの中に入れ込んで売ったり、「懐かしの巨匠の指揮」といったタイトルを付けたりするだけで、今年録音したばかりの新しいCDと一緒に店頭に並べることができるのです。

 ところで、僕がイタリアの指揮者コンクールで受賞し、指揮者としてキャリアを始めたばかりの20代の頃、ある市民オーケストラからベートーヴェンの『交響曲第9番(第九)』の指揮を依頼されました。駆け出しの指揮者には大作すぎる作品ですが、若さゆえの無謀さも手伝い、なんとか演奏会を終えました。ちなみに、市民オーケストラを代表するアマチュアのオーケストラのコンサートの後には、必ず打ち上げがあります。「演奏会もいいけど、この打ち上げのビールがたまらないんだよね」と言う人も少なくなく、僕も「このビールのためにやっているのかも」とか言いながら何度も乾杯を続けます。結局、僕が一番楽しむことになってしまうわけですが、そんななか、あるアマチュア奏者の方から、こんな質問を受けました。

「僕は『第九』のレコードとCDを合わせて90枚持っているのですが、篠崎さんは、“○○指揮のCD”を聴いて勉強したのですか?」

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