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住宅ジャーナリスト・山下和之の目

新築住宅、高騰止まらず4千万円台に…中堅メーカーなら1千万円台、耐震性等も遜色なし

文=山下和之/住宅ジャーナリスト
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「Getty Images」より

 わが国では、人口の減少に続いて間もなく世帯数の減少も始まる見込みで、新築住宅へのニーズが減少します。しかも耐久性など、住宅の基本性能は年々高まっていて、建替えまでの期間が長くなっています。政府も、住宅を建てては壊す使い捨てをやめて、いい住宅を建てて長く大切に使っていく方向に軸足を移しています。新築一辺倒の支援策ではなく、中古住宅やリフォーム市場の拡大に力を入れているわけです。これらの要因から、長期的にみた新築住宅の市場は縮小していかざるを得ません。

 そのため、野村総合研究所の予測では、2018年度の新設住宅着工戸数95万戸に対して、30年度には63万戸まで減るだろうとしています。日本人の新築指向の強さ、技術革新などもあり、筆者はそこまで減少するとは思いませんが、大幅な縮小が避けられないのは間違いありません。

市場縮小のなかでの生き残り戦略が問われている

 そのなかで、住宅メーカーやビルダー、工務店はどう生き延びていくのか、生き残り戦略が問われています。大手は、基本性能、デザイン力、信頼度など他社との差別化を背景に1棟単価の引上げに向かっています。市場全体が縮小して、販売戸数が1割落ちても、単価を2割引き上げることができれば、むしろ売上高は増加するという理屈です。

 それに対して中堅のメーカー、ビルダーは低価格路線を維持したまま、性能の向上を図って、販売戸数を拡大することによって売上高の拡大を目指しています。どちらが勝つのかは興味深いところですが、消費者としてはどちらを選ぶのが賢い選択なのか――その判断が問われることになりそうです。

大手住宅メーカーで建てると数百万円高くなる

 実際に一戸建てを建てた人たちが、どれくらいの予算をかけているのかに関しては、いろんな調査があります。まず、リクルート住まいカンパニーの一戸建てに関する調査では、19年の建築費の平均は2902万円で、18年の2807万円から3.4%のアップです。また、住宅金融支援機構が行っている住宅ローンである「フラット35」を利用して注文住宅を建てた人の建築費の平均は、2018年度で3390.4万円でした。17年度の3353.5万円から1.1%のアップです。

 これに対して、大手住宅メーカーを会員とする住宅生産団体連合会(住団連)が、会員企業を対象に行った調査では18年度が3605万円で、17年度の3535万円から2.0%の上昇です。リクルート住まいカンパニーや住宅金融支援機構の調査は、大手から町場の工務店まで含めた全平均ですが、住団連の調査は主に大手住宅メーカーで建てた人の平均になります。大手メーカーだと全平均に比べると数百万円高くなっているといっていいでしょう。

積水ハウスの1棟単価は4000万円台が目前に

 この差が今後は、さらに大きくなる可能性がありそうです。というのも、大手住宅メーカーのほとんどが、市場縮小という宿命のなかで、1棟単価の引上げによって売上高を維持していこうとする戦略を明確にしているためです。

 図表1をご覧ください。これは、19年度第2四半期の決算資料から、大手4社の1棟単価の推移を抜粋して作成したグラフです。最も平均価格が高い積水ハウスでは、16年度通期の平均で3729万円だったのが、18年度には3875万円に上がり、さらに19年度第2四半期には3932万円まで上がっています。いよいよ4000万円台が目前に迫っています。2年半の間の上昇率は5.4%です。

 大和ハウス工業をみても同様です。16年度通期が3430万円に対して、19年度第2四半期は3830万円です。この2年半の間に11.7%も上がっている計算です。住友林業はさほど上がっているわけではありませんが、その間の平均床面積は38.4坪から36.8坪に減少しているので、実質的には数%上がっているとみていいでしょう。

 積水化学工業のセキスイハイムも同様です。他社に比べるとやや価格は安くなりますが、それでも2年半の間に2.6%価格が上がっています。

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図表1 大手住宅メーカーの1棟単価の推移(単位:万円)

さまざまなレベルの高付加価値化が価格押し上げ要因に

 こうした単価の上昇にはもちろん理由があります。理由もなく価格だけを引き上げたのでは、お客は付いてくるはずがありません。

 第一には住宅の建設費が高騰していることが挙げられます。図表2でもわかるように、14年度から16年度にかけては落ち着いていたものが、再び上がり始めています。それだけではありません。大手の動きをみていると、たとえば積水ハウスが価格上昇の要因に挙げていのるのが、一戸建て住宅の高付加価値化です。

 同社では、ゼロエネルギーハウス(ZEH)である「グリーンファースト ゼロ」の販売に力を入れていて、19年度第2四半期の実績ではその比率が85%に達しています。ZEHにするためには、太陽光発電設備の設置のほか、建物の高断熱・高気密化などが必要で、大幅なコストアップになります。

 また、独自の制震システムの採用率は96%に、空気環境配慮仕様は90%に、鉄骨住宅上位商品モデルであるIS(イズ)シリーズは87%、木造住宅シャーウッドのオリジナル外壁ベルバーン採用率も91%とほとんど標準化しています。これらのさまざまな要素が重なって、価格押し上げ要因になっているわけです。

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図表2 建設工事費デフレーターの推移(2011年度=100)

価格が高くなっても十分に元は取れるのが売りに

 高くなるには高くなる理由があり、そこに納得してもらうことが大切になります。制震システムなどは、相次ぐ地震災害に備える上で納得度が高まっているはずですし、ZEH化についても、高断熱・高気密化、太陽光発電などの創エネ、蓄電池になる蓄エネによって、生活が快適になるだけではなく、光熱費がダウンするというメリットがあります。

 太陽光発電設備設置住宅の実績世界一としてギネス認定を受けているセキスイハイムの調査によると、太陽光発電を設置したセキスイハイムを建てたオーナーの年間光熱費は、それまでに比べて10万円から20万円ダウンするという結果になっています。年間10万円としても、20年、30年の間に太陽光発電設置費用を回収でき、決して損にはならない計算。しかも、高断熱・高気密の住宅で、健康で快適な生活を送れる上、地球環境に貢献しているという使命感をくすぐる効果もあります。 

 それに、有名メーカーで建てた、一流ブランドの家に住むといったプライドをくすぶる精神的な効果も大きいでしょう。

中堅クラスのメーカーなら大手の半額で建つ?

 ただ、そうはいっても、最近は中堅クラスの住宅メーカー、ビルダーの技術力も向上しており、基本性能レベルでは大手に負けない製品が多くなっています。よくいえば、大手に学び、うがった見方をすれば、いち早く盗み取って(あくまでも合法的に)、基本性能の高い住宅を、大手に比べてはるかに安価に提供する体制を整えています。

 あいにく、中堅クラスのメーカーは株式非公開のケースが多く、大手のように1棟単価がクリアになるわけではないのですが、たとえば年間4万戸以上の一戸建てを供給している飯田グループでは、グループの一建設、飯田産業、東栄住宅、タクトホーム、アーネストワン、アイディホームのグループ6社すべてにおいて、住宅性能表示制度に基づく第三者評価機関からの評価取得を標準化しています。

 それも、耐震等級、劣化対策、維持管理対策等級などにおいて、最上級の等級3の取得を義務づけています。大手の基本性能に比べて、さほど遜色のないレベルといっていいでしょう。その飯田グループの一戸建て注文住宅の単価は不明ですが、一戸建て分譲住宅の平均価格は公表されています。それが図表3にある通りです。

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図表3 飯田グループの分譲一戸建ての平均単価(単位:万円)

安くても基本性能は大手のレベルに近づきつつある

 これは、建物の価格ではありません。土地・建物を合わせた分譲価格の平均です。それが、19年度第2四半期の平均で2710万円です。先の図表1にある、大手住宅メーカーの建物価格よりも安くなっています。分譲住宅ですから、このうち土地価格が500万円から1000万円程度かかっているとすれば、建物価格は1700万円台から2200万円程度になります。積水ハウスなどの大手に比べるとほぼ半分の水準といっていいでしょう。

 そのほか、タマホームの決算資料をみると、17年度、18年度と注文住宅の1棟当たりの単価は1700万円台の前半で推移しています。タマホームでは18年12月に利益確保のために価格改定を実施していますが、それでも19年度第1四半期の実績で1757万円です。多少高くなったとはいえ、1700万円台を維持しており、大手の半分程度の価格水準です。

 タマホームでも、基本性能の向上を推進し、長期優良住宅への対応を可能にしています。耐震等級では長期優良住宅の基準が「等級2以上」であるに対して、タマホームでは「等級3」を基本としています。劣化対策等級も最高等級の「等級3」を基本として、100年程度継続して使用できる住まいを目指しています。

住宅展示場で大手と中堅の住まいを確認してみる

 実際の選択に当たっては、一度総合住宅展示場を見学してみてはどうでしょうか。できれば、モデルハウスが20棟、30棟と建っている大規模な展示場がいいでしょう。それだけの戸数があれば大手住宅メーカーから、中堅メーカー、ビルダーだけではなく、その地域で活動している工務店のモデルハウスが建っていることもあります。工法的にも、在来工法、プレハブ工法、ツーバイフォー工法から、鉄筋コンクリート造までさまざまな建物を見ることができます。

 大手から中小まで、自分の目でチェックして、その違いを実感してください。それと、坪単価など聞いてみて、価格とのバランスから、どの物件がいいのか判断を下すようにしたいところです。価格優先で中堅以下にするのか、あるいは多少高くても大手の安心感を選ぶのか、自分たちの年収などの条件や価値観に合わせて最終決断をくだすのがいいでしょう。

(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)

山下和之/住宅ジャーナリスト

山下和之/住宅ジャーナリスト

1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(執筆監修・学研プラス)などがある。日刊ゲンダイ編集で、山下が執筆した講談社ムック『はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド』が2021年5月11日に発売された。


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