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三菱UFJ、数学科出身社長就任の衝撃…“IT銀行化”と180店舗削減で果敢な改革断行

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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三菱UFJ銀行の支店(「Wikipedia」より/Mkl238)

 1月17日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)が代表執行役の人事を発表した。最も注目されるのが、理系出身の亀澤宏規副社長が社長兼最高経営責任者(CEO)に就任することだ。この人事には、MUFGの危機感が表れていると考えられる。

 危機感の背景には、日本経済の状況と、世界的なフィンテック・ビジネスの拡大などが大きく影響しているはずだ。国内では人口の減少などを受けて資金需要が低迷し、銀行は収益性を高めるためにコストの削減などに取り組まなければならない。同時に、世界的に最先端のIT技術と金融ビジネスを融合したフィンテック・ビジネスに取り組む企業は増え、銀行は熾烈な競争に直面している。

 また、2019年4~9月期、MUFGの連結純利益は前年同期から6%減少した。地政学リスクや米中の景気先行き不透明感など、MUFGを取り囲む不確定要素は増している。市場関連業務、リスク管理、さらには銀行のデジタル化への取り組みを担当し、数学のバックグラウンドを持つ亀澤氏が、どのようにして収益を落ち着かせ、デジタル技術などを用いた新しい銀行のビジネスモデルを確立するかに注目が集まるだろう。

銀行収益を下押しする国内経済の低迷

 国内大手、三菱UFJ銀行を傘下に抱えるMUFGは、急速かつ大きな環境の変化に直面している。その変化に対応するためにMUFGは銀行業務に加え、最先端のネットワーク・テクノロジーに長けた亀澤氏を次期CEOに指名したと考えられる。

 まず、MUFGは国内経済の低迷に直面し、貸し出しなどを通して収益を増やすことは難しい。1990年代初頭、日本では資産バブルが崩壊した。景気は低迷し、97年頃から日本経済はデフレに陥った。企業の設備投資は伸び悩み、資金需要は低下した。金利(国債の流通利回り)には低下圧力がかかり、銀行が融資を増やし、利ざやを稼ぐことは難しくなった。

 さらに少子化、高齢化、さらには人口の減少が3つ同時に進行している。人口が減少すると、その国の国内総生産(GDP)は徐々に縮小する。その上、2013年4月以降、日銀がデフレ経済からの脱却を目指して“異次元の金融緩和”を導入した。これは、銀行が収益を獲得するために重要な短期と長期の金利差を大きく縮小させた。国内において、貸し出しや国債のディーリングなどで銀行が収益を確保し、成長を実現することは難しい状況にある。

 その状況のなかで成長を実現するには、成長期待の高い分野に進出し、収益獲得を目指すことが重要だ。この考えに基づき、三菱UFJ銀行は米国に加え、タイやインドネシアなど相対的に経済成長率の期待が高い東南アジアへの進出を進めた。19年9月末の貸出金残高に占める海外の割合は約40%に達している。国内金利の低下を反映し、相対的に利得が期待される外国債券運用の重要性も増している。

 一方、国内においてMUFGはコストを抑制し、収益性を維持・強化しようとしている。その一つの取り組みとして、自然減と採用の抑制などによる人員の削減が目指されている。また、23年度までに三菱UFJ銀行は店舗数を180削減し、窓口業務の負担を軽減する方針だ。当初、100店舗の削減が目指されていたことを考えると、コスト削減の重要性は高まっている。

デジタル化による競争の激化

 次に、MUFGは世界的に進む、銀行のデジタル化(スマートフォンなどを通してネット空間で銀行サービスが提供されること)にも対応しなければならない。それも亀澤氏が次期CEOに指名された理由の一つだろう。世界的なデジタル化のスピードに対応し、信頼できるシステムを構築するためには、理論と実務の両面で最先端の内容を的確に理解し、自社の向かうべき方向を明確に提示できる経営トップ人材が不可欠だ。

 現在、世界的にネットワーク・テクノロジーの高度化とその実用化によって、フィンテック・ビジネスに取り組む企業が増え、銀行を取り巻く競争は激化している。端的に、スマートフォンなどの普及とともに、急速にIT先端企業などに銀行の機能が染み出している。

 良い例が、中国のIT大手企業、アリババ・グループだ。同グループは、スマートフォンを用いたモバイル決済や、ビッグデータを用いた個人の信用格付けのビジネスなど、最先端のIT技術を用いて多様な金融ビジネスを展開している。

 また、ケニアなどでは同国の通信企業であるサファリコムなどが「エムペサ(M-Pesa)」と呼ばれるモバイル決済サービスを提供している。エムペサにより、伝統的な銀行サービスにアクセスできなかった人々が、携帯電話を通して資金の決済サービスなどを利用している。

 さらに分散型のネットワークシステムであるブロックチェーンを用いてビットコインの発行と取引が実現され、送金などが行われている。ビットコインの取引は、特定の監督者を置かず、参加者の相互の承認によって成立している。その有用性に着目し、ブロックチェーンを使って、価値が安定した(投機の対象となりにくい)独自のデジタル通貨を開発し、決済サービスの提供を目指す企業も増えている。

 そうした民間企業の取り組みを受け、中国やスウェーデン、米国などの中央銀行も、法定通貨のデジタル化に関する研究開発を進めている。さらに、業務の省人化・自動化の分野でもブロックチェーンの活用が重視されている。競争への対応、新しい通貨制度への対応などの面で、銀行が最先端のネットワーク・テクノロジーへの対応を進めることは避けて通れない。

早期の収益安定と新しいビジネスモデル構築

 今後の展開を考えた時、MUFGにはデジタル化への取り組みに加え、早期の収益安定も求められる。昨年4~12月期、MUFGが買収したインドネシアの中堅銀行バンクダナモンの株価下落から損失が発生した。

 すでに、アジアを中心に新興国各国では中国経済の減速やそれを反映した資源需要の低迷から、景気減速懸念が高まっている。アジアを中心に海外事業を強化してきたMUFGへの逆風は強まりつつあるといえる。世界経済の先行き不透明感が高まりつつあるなかで、より厳正にリスクを管理し、コストの削減を進めて収益性を回復させるためにも、最先端のネットワーク・テクノロジーを導入する重要性は増すだろう。

 このように考えると、MUFGにとってさまざまな強みを持つ企業とアライアンスを結ぶことの重要性は一段と高まっていくはずだ。その上で傘下の三菱UFJ銀行などが国内外で蓄積してきた個人や企業などの信用審査のノウハウを活用することが目指されるとよいだろう。

 たとえば、中小企業向けの事業承継のコンサルティング・サービスをオンライン上で提供するシステムや、銀行の信用審査のノウハウを応用した(他の企業には再現が難しい)クラウドファンディングのプラットフォーム構築、それを通じたスタートアップ企業の経営支援など、さまざまな展開が考えられる。その上で、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションが求められる場合に、専門性の高い人材が付加価値の高いサービスを提供できれば、MUFGの収益は上向き、競争力は高まる可能性がある。

 今後、亀澤氏の指揮の下、MUFGの収益基盤の安定化と、デジタル技術を用いた新しい銀行のビジネスモデル構築がどう進むかに注目が集まるだろう。重要なことは、実用に耐えうるしっかりとしたシステムを構築することだ。激化する競争への対応を急ぐあまり、システムの不備が発生するなどすれば、収益の回復により多くの時間がかかることも考えられる。亀澤氏の下でMUFGがどう変わるかは、他の国内銀行勢の経営にも無視できない影響を与えるだろう。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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