2011年に公開された、スティーブン・ソダーバーグ監督の映画『コンテイジョン』が、新型コロナウイルスの状況を予言していたのではないか、と話題になっている。この現象について、数多くの企業広告・PRプロジェクトを手掛けるクリエイティブプロデューサーから聞いた。
「咳をしている人が触った物から感染が広がって、世界中に広まっていくという状況などまったく同じです。監督や脚本家は、世界保健機関(WHO)やアメリカの疾病対策センター(CDC)を取材し、疫学者やジャーナリストなどからアドバイスを受けています。彼らは、2002年から2003年にかけて、37カ国に感染が広がったSARSコロナウイルスに危機感を持っていて、これ以上のパンデミックが起こると予測していたんです。
映画では感染源を突き止めた医師が感染して死んでしまいます。感染拡大に気づいた医師が罹患して死に至ったのはSARSの時も、今回の新型コロナでも同じです。映画では、感染したと見られる人物が、公共施設のドアや手すり、エレベーターのボタンなどに触れていく映像が緊張感とともに流れます。映画に登場するCDCの医師は、『感染はおそらく呼吸器系や媒介物から』『ドアノブ、水飲み器、エレベーター、人の手などが媒介物』『人間は普通、1日に2000~3000回顔を触る』と語ります。これは警告の映画なんです。
感染症対策でCDCは世界最強といわれてきましたが、トランプ大統領は国際保健分野を軽視し予算を減らそうとしていました。新型コロナで世界最多の死者を出しているアメリカの人々は今、苦々しい思いでこの映画を見ているのではないでしょうか」
映画そのものの評価としては、どうなのだろうか。
「専門家の知見を活かして作られているということから、精緻に物事が進展していく、優れたサスペンス映画となっています。パンデミックが起こると社会がどうなっていくのかといったところも精緻で、スーパーマーケットでの行列が強奪につながったり、病院がパンクして体育館が感染者の収容場所になったり、死者が墓地でもないところに並べて埋められていったり、都市の封鎖が行われたり、デマが飛んだり、死者からも感染するから葬儀ができないというところまで、現在を予測しています。そこで生まれる悲劇が抑制された音楽とともに伝わってきて、とても完成度の高い作品です。新型コロナの感染拡大がなければ、恐怖を与えてくれるエンタテインメントとして楽しめたでしょう」
登場人物たちに織り込まれた丹念なストーリー
新型コロナが引き起こしている現実と、映画と異なっているところはあるのだろうか。
「映画ではワクチンが開発されて、人々が自己隔離から解放されて終わります。CDCの女性医師は有望なワクチンを見つけて自分に注射します。病床にある感染者である父親を見舞ってキスをして、自分は感染しなかったことでワクチンの有効性を証明します。とても感動的なシーンです。
現場で昼夜を問わず闘っている、医師や看護師、医療技術者などの献身を象徴しているとも取れますね。自分の村にはなかなかワクチンは来ないだろうと思った香港の政府職員が、WHOの女性疫学者を拉致して、ワクチンと引き換えの人質にしてしまうところは、とても映画的な展開です。人質にされた彼女は、村の子どもたちに勉強を教えたりして村に愛着を持ってしまったり、もうちょっと見てみたいなと思うシーンでした。中心となるヒーローやヒロインがいない群像劇ですが、それぞれの人物にきちんとストーリーがあって見応えがあります」
新型コロナとの闘いは長期戦となると見られているが、気を引き締めるためにも、未来に希望を持つためにも、見て損のない映画だろう。
(文=深笛義也/ライター)