新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言は25日、全国で解除されたが、外出自粛でストレスが限界に近づいている人も多いはず。こんなときにぜひ挑戦したいスポーツがある。それが「eスポーツ(エレクトロニック・スポーツ)」だ。これなら家の中でもできるし、家族のコミュニケーションツールにもなる。ゲーミングパソコンも今、飛ぶように売れているという。
「世界の競技人口は1億人以上で、トッププロは年間1億円以上を稼ぎ出す。体格や体力は関係ありませんから、大人から子供まで楽しむことができます。親子で大会に出場したり、観戦することもできます。2004年にスウェーデンで行われた大会、ドリームハックは1万人以上を動員し、幕張メッセのようなところに机を並べて参加者が自分のパソコンを置き、三日三晩にわたって大会は行われました。子供と一緒に大会に参加するお父さんも多く、ノンアルコール、ノンドラッグで健全な大会です」
こう語るのはeスポーツコミュニケーションズ合同会社代表の筧誠一郎氏だ。
筧氏は1983年に電通に入社、主に音楽やゲームを中心としたエンタテインメント事業に従事。2006年にはeスポーツの存在を知り、全国の企業や大学、官公庁で講演。10年には電通を退社し、さまざまなeスポーツ関連のイベントや施設、テレビ番組のプロデュースを行ってきた。16年にはeスポーツコミュニケーションズ合同会社を設立。全国フランチャイズチーム総あたりによる「日本eスポーツリーグ」を主催。2018年に芸能事務所対抗の「eスポーツスターリーグ」を開催、日本初のeスポーツ専門ムック「eスポーツマガジン」(白夜書房)の監修なども行っている。
「eスポーツとは広い意味では電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉で、コンピュータゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツとしてとらえる際の名称です。日本ではどうしても、身体を使ったフィジカルスポーツだけをスポーツとみなすようですが、海外では頭脳主体のチェスやビリヤードなどのマインドスポーツもスポーツのひとつとして考えられているのです」(筧氏)
そんな文化的な背景の影響もあり欧米ではいち早くeスポーツが広がり、大人気となっている。
「eスポーツは若者たちから広まっています。デジタルネイティブの若者にとって、eスポーツは一番身近なスポーツ。むしろ野球などのほうが遠いわけです。日本に野球が入ってきた頃は武道の時代で、大人は冷ややかに見ていた。しかし面白いと思ったのは大学生。早稲田大学と慶應義塾大学がこれに飛びついた。その後、早慶戦で火が付きブームになったが、大人はこれを忌々しくなり、1911年に朝日新聞が1カ月にわたって害毒論を主張したりした。『野球なんてやっているやつはろくな人間にはならない』『野球は害毒だ』と主張するわけです。
例えば新渡戸稲造や東大の医学部長、日比谷高校の校長を集めて『野球をやるとろくな人間にならない』と論陣を張るわけです。新渡戸は『野球をやっているやつはすりのごとしだ』と犯罪者扱いです。東大の医学部部長は『野球をやると脳に悪影響がある』なんて言っているわけです。大人たちがけちょんけちょんに野球をけなすんです。若者たちはそんなことは意に介さず野球に熱中していく。これが大学野球として盛り上がって六大学野球となって、神宮球場がつくられるという流れになっていくわけです。それで野球が国民的な人気スポーツになっていく。
eスポーツも大人からみれば『あんなことやって』ということになりますが、若者の支持は絶大なんです。小中高校生の『将来なりたいものアンケート』では、1位はユーチューバー、2位にeスポーツ選手が上がってきています」(同)
マクドナルドもメインスポンサーに
若者のリアルなスポーツ離れは急速に進んでいる。
「2018年の暮れにドイツのマクドナルドがそれまでブンデスリーガのメインスポンサーを10年以上務めていたのですが、11月に翌年1年間契約期間が残っていたにもかかわらず、『若者はサッカーではなくてeスポーツにいるんだ』と欧州最大のeスポーツリーグのスポンサーになったのです。こうしたことが世界中で起こっている。
米国では人気のシューティングゲーム『オーバーウォッチ』のトップスポンサーはトヨタ自動車とインテルです。なぜトヨタが入っているかといえば、若者へのアピールです。大リーグのワールドシリーズの視聴者の平均年齢は60歳ぐらい、アメフトは50歳ぐらい、バスケでも37歳ぐらい。若者が来ていないのです」(同)
米国のスーパーボウルの視聴者は一試合で約1億1000万人。一方でeスポーツのバトルロイヤル部門の「フォートナイト」のプレーヤー人口は2億人、MOBA部門(マルチオンライン)の「リーグオブレジェンド」(5対5の陣取りゲーム)が1億人、世界のeスポーツの競技人口は2億人、スポーツゲーム部門の代表的なサッカーゲーム「FIFA19」は2000万本を超えるといわれている。
さらに1994年に20人からスタートしたイベント「ドリームハック」の関連イベントでは31万人を動員。2017年の「リーグオブレジェンド・ワールド・チャンピオンシップ」では最大観客動員6万人、同時視聴者数2億人を達成した。こうした競技者人口や視聴者を支えているのは10代、20代の若者だ。
「だから若者にマーケティングしたければeスポーツということになり、これが世界の潮流になっているのです。さまざまな企業がスポンサーとして参入してくるようになったのです」(同)
賞金総額も大変な金額となっている。「フォートナイト・ワールド・カップ2019」(@ニューヨークアッシュスタジアム)では1年間かけて戦う賞金総額1億ドル(111億円)、7月大会のソロ部門では16歳の少年がなんと300万ドル(3億3000万円)を手にした。「シャドウバース・ワールド・グランプリ2019」では優勝賞金は1億1000万円。「ドータ2ザ・インターナショナル2018」では賞金総額28億円、優勝賞金は約12億円にもなる。
さらにフィジカルスポーツとの融合も進み、プロサッカーの「FIFA」では16年前からバロンドール(欧州最優秀選手賞)の表彰式にeワールドカップ(FIFA主催)の優勝者も一緒に表彰している。
「FIFAはサッカーの大元なので、サッカーに関することはなんでもやっているのです。eスポーツで使っているゲームもFIFA19など独自で開発していて、チームや選手はリアルに再現されています。大会は16年ぐらい前から行われ、200万人ぐらいが集まる巨大な大会となっています」(同)
アジア競技大会2018年ジャカルタでもeスポーツが公開競技として行われ、2022年のアジア競技大会では公式競技に採用されることが決まっている。
「NBAの八村塁をはじめ主要選手がバスケゲームでガチで対戦したり、テニスでも錦織圭とナダルがeスポーツテニスで対決するような大会もあります。多くはファンサービスですが、田中将大は個人的にスマホでやるカードゲームの大会を開いたりしています」(同)
多くの有名大学でもeスポーツが盛ん
ところが日本の競技人口は400万人を超える程度。まだ世界のレベルには達してはいない。なぜなのか。
「日本でeスポーツに対する啓発が進んでいないのは、大きな誤解があるからです。ゲームそのものへの理解も十分されていませんし、刑法の賭博罪の適用の可能性もある。風営法による規制、あるいは景表法の規制による高額賞金の規制などがあるためです」(同)
しかし若者からそうした流れが大きく変わろうとしている。
「東大卒のプロゲーマーが世界大会で優勝したり、多くの有名大学でもeスポーツが盛んに行われるようになっています」(同)
2019年10月5、6日の茨城国体では併設イベントとして「都道府県対抗eスポーツ大会」が開設された。47都道府県で予選が開催された日本初の大会。このときの種目は「ウイニングイレブン」「ぷよぷよ」「グランツーリスモ」。「日本eスポーツ学生選手権大会」は昨年開催分で10回を数え、早稲田大学(150人)、慶応大学(70人)、東京大学(100人)と有名大学でも学校公認のサークルが誕生している。
また、2019年からは毎日新聞が主催した「全国高校eスポーツ選手権」が行われ、高校でeスポーツ部設立を支援するためにPCメーカーのガリレアが無償でパソコンを貸与。テレビ東京が主催する「STAGE:0」のようにクラッシュロワイヤル(517校、582チーム、1936名)、フォートナイト(909校、1138チーム、2446名)、LOL(49校、60チーム、334名)、決勝戦の来場者2800人、ライブ配信視聴者数は136万人(累計)を記録するような大掛かりの大会も始まっている。
オリンピックで公式競技に?
今後はオリンピックでも公式競技として採用される可能性が高まっているという。
「これまでにもeスポーツはオリンピックの正式種目になるのではないかと取りざたされていました。なぜかというと、オリンピックのトップスポンサー(ゴールドスポンサー)は12社あるのですが、このうち3社はバリバリのeスポーツ関連企業です。アリババ、インテル、サムスンです。
彼らはオリンピックに莫大な金を払っているからには、オリンピックでeスポーツをやってもらいたい。インテルはインテル主催のeスポーツ大会をオリンピックに合わせてやっている。サムスンもアリババも同じです。アリババが最大のスポンサーとなった2018年のジャカルタで行われたアジア競技大会では、eスポーツは公開競技となっています。2022年の中国杭州のアジア大会では正式競技になります」(同)
すでにアリババは2025年をめどに広州に1万人を収容できるeスポーツスタジアムやホテル、ミュージアム、大学などを併設するeスポーツタウンを建設しているという。
「さらにIOCの財源を支えているテレビ局よりもSNSの影響力が増している。ネットへのシフトが重要になっていく。ネットで配信していくために重要なコンテンツとしてeスポーツが重要になる」(同)
eスポーツは体力差や男女差、年齢差など関係ないため、家族でオリンピック出場なんてことが夢ではなくなってくるかもしれない。令和という新しい時代の中で、新しい可能性がまたひとつ広がっていく。
(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)