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コロナワクチン開発中のアンジェス、株価暴落…不安広がる理由 今期50億円赤字予想

文=有森隆/ジャーナリスト
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「Getty Images」より

 コロナワクチンを開発しているアンジェス(マザーズ上場)が6月26日、2492円(252円高)と年初来高値を更新。終値は2317円(77円高)。さすがに週明けの6月29日は37円安の2280円。7月3日までの4営業日続落となり、7月2日には一時、1659円まで下げた。終値は1800円(244円安)。高値から7月2日の安値まで33%安となった。急激な値下がりである。

 新型コロナウイルス感染症向けのDNAワクチンについて治験施設である大阪市立大学医学部附属病院の治験審査委員会(IRB)で審議・承認されたと、アンジェスが6月25日夕刻に発表したため株価がふっ飛んだわけだ。被験希望者の募集を始め、最初は大阪市立大病院で30人に接種する。2週間おきに筋肉に注射して抗体ができるかどうかを検証する。アンジェスは20万人分のDNAワクチンの生産体制を早急に整えるとしている。前のめり過ぎないかという声もある。

 アンジェスの創立者、森下竜一・大阪大医学部教授が阪大と共同でワクチンを開発中ということが明らかになったのは3月5日のことだ。株式市場の取引時間中に発表したため、この日ストップ高となった。発表前日の3月4日の株価は427円だった。6月26日の高値と比較すると株価は4カ月で5.8倍になった。

 大阪市立大病院のほか大阪大医学部附属病院でも治験を行うが、人数は2施設合わせて数十人程度。順調に進めば9月中に結果が出る。アンジェスでは、その後、大規模な治験に移行し、年内には治験を終え、厚生労働省の製造販売承認取得を目指す、としている。欧米では、それぞれのワクチン開発メーカーから治験開始前に詳細なデータが公開されているが「アンジェスは開示していない」(関係者)。

 大阪市の松井一郎市長、大阪府の吉村洋文知事がアンジェスのワクチンにえらくご執心で、安倍晋三首相のアビガン(別名アベガン)と同じ様相を呈している。トランプ米大統領の発言にもみられるように、コロナ治療薬とワクチンはどうしても政治がらみになるが、アンジェスDNAワクチンは、さしずめ“日本維新の会推奨”なのである。

 アンジェスは創薬ベンチャーという触れ込みだが、19年12月期の売上は3億2600万円、32億円の営業赤字。20年同期の売り上げ予想はわずか1億円。50億円の営業赤字を見込む。

 ワクチンには厳格な安全性が求められる。他のワクチンでは、承認後に死者が出たケースもある。スケジュールありきであってはならない。もしアンジェスがDNAワクチンの開発に失敗したら、株価は崩落するだろう。

欧米勢に比べて周回遅れ

 DNAワクチンを製造するということを囃し立てて、アンジェスと共同開発に取り組むタカラバイオの株価も急騰した。親会社の宝ホールディングス(HD)の株価まで動意づいた。宝酒造を傘下に持ち、清酒・焼酎・みりんの最大手の宝HDはタカラバイオの株式を60.9%保有している(20年3月期末)。

 新興市場に強いアナリストはいう。

アンジェスは製薬分野で成功した実績はほとんどない。『新型コロナでも成果が出ない』と市場が疑い始めれば、株価は大きく調整しかねない。秋口に正念場を迎える」

「大きく調整する」は控えめな言い方だ。森下教授は安倍首相とゴルフをやったことがあると週刊誌で報じられたことがある。DNAワクチンは別名、日本維新ワクチンだ。大きく捉えれば安倍ワクチンなのかもしれない。大阪市立大の治験審査委が承認する以前に、大阪府の吉村知事、大阪市の松井市長は「DNAワクチンの治験開始」をアナウンスしていた。

“日の丸ワクチン”に取り組んでいるのは、塩野義製薬、第一三共、タカラバイオ(=アンジェス)など6社だ。塩野義は2019年12月に66億円で買収したバイオベンチャーUMNファーマを拠点にコロナワクチンの開発に乗り出している。

「塩野義が先行している」(厚生労働省の幹部)ようだが、それでも欧米勢に比べて「周回遅れの感がある」(関係者)

 一方、「DNAワクチンは、新型コロナに限らず、これまで世界中で承認された事例はない」(同)とされている。

東証マザーズ指数が乱高下

 東証マザーズ指数が安値から反発したのは、メルカリとアンジェスで説明がつく、といわれている。メルカリは“巣ごもり消費”がいわれ、タモリを起用したテレビCMを大々的に流し始めた。しかし、業績は水面下に沈んだまま。国内は別として米国市場でメルカリの存在感は希薄。いつになったら米国市場で黒字になるのかの見通しが立たない。それでも7月2日に3680円の年初来高値をつけた。

 7月2日、東証マザーズ指数が大幅安となった。下落率は4.96%で3月13日(5.75%安)以来の大きさとなった。過熱感が指摘されていた主力のバイオ関連銘柄が利益確定売りで値を下げ、マザーズ市場は全面安となった。アンジェス株はこの日、12%安で終わった。

 海外からは悪材料が届く。バイオ医薬大手の米モデルナが開発中のコロナワクチンの大規模な治験が延期される見通しだと医薬ニュースサイトが伝え、モデルナ株は一時、7%安となった。モデルナは「第3相治験を開始する初めての企業になる」とされていただけに、失望売りが出たようだ。ワクチンの成否は最低数千人を対象とした第3相治験で決まる。ワクチン開発は「第3相治験をクリアして初めて成功といえる」(関係者)。

 そもそもバイオワクチンの成功の確率は1割以下といわれている。アンジェスのDNAワクチンは、富士フイルムホールディングスのアビガンの二の舞になりはしないか。アンジェス株を高値掴みしている投機筋は、固唾を飲んで見守っている。

(文=有森隆/ジャーナリスト)

有森隆/ジャーナリスト

有森隆/ジャーナリスト

早稲田大学文学部卒。30年間全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書は「企業舎弟闇の抗争」(講談社+α文庫)、「ネットバブル」「日本企業モラルハザード史」(以上、文春新書)、「住友銀行暗黒史」「日産独裁経営と権力抗争の末路」(以上、さくら舎)、「プロ経営者の時代」(千倉書房)など多数。

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