丸亀市は6月19日、市民交流活動センターの運営者に、全国でレンタル店「TSUTAYA」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を選定する議案を可決した。
指定管理者の募集に応募したのはCCC一社のみだったが、すでに1年前から開業準備の支援業務をCCCが格安価格で受託していたことが判明。昨年11月、“CCC推し”の議員4人が、丸亀市と同じくCCCが運営する市民活動センター・エンクロスを視察。年末には、これから公募しようという時期なのに、CCCのみが議会の場に登壇してプレゼンするという前代未聞の出来事が起きていた。
前回記事『CCC、公共施設運営を受託する“巧妙すぎる”手口…丸亀市の管理受託の不可解な経緯』では、そんなCCC選定に至るまでのプロセスに見られた不可解な出来事をレポートしたが、今回はさらに詳しく、公共施設における民間委託の実態に迫ってみたい。
丸亀市の事例で興味深いのは、宮崎県延岡市が2018年4月に開設した駅前型複合施設「エンクロス」との共通点が多いことである。エンクロスは、CCCが初めて図書館ではない複合施設の運営を受託したケースだ。
かつてツタヤ図書館の第1号として脚光を浴びた佐賀県武雄市図書館の運営方法、たとえば高層書架、Tカード導入、書店方式の独自分類などは、その後にCCCが受託した自治体でも、ことごとく踏襲された。「武雄市ではこうでした」とCCCが言えば、誘致自治体は前例のない大胆な施策もスンナリ受け入れた。それと同じく、第2の“ツタヤ公民館”となる丸亀市では、延岡エンクロスの事例を完全にコピーしようとしているようにみえる。
たとえば、年間の指定管理料は両市共に約1億3000万円。年間の来館目標者数も70万人で、まったく同じ。丸亀市は、延岡エンクロスを“CCC運営の成功事例”としてとらえて、賑わい創出や市民活動の活性化などを期待しているという。
延岡市のCCCに委託するまでの不透明すぎる経緯
しかし、お手本となったエンクロスについて地元の延岡市民に聞いてみたところ、CCCの宣伝文句とは掛け離れた実態が浮かび上がってきた。
「エンクロスは、年間120万人来館していると派手に報道されていますが、地元市民でそれを真に受けている人はあまりいませんよ。館内8カ所にカメラが設置されていて、それでカウントしているらしいのですが、同じ人がカメラの前を通るたびに何度もカウントされていたら、どうやって実人数を把握するんですかね。エンクロスは駅前にありますが、普段は高校生が集っているだけでガラガラ。1日平均4000人来ていることになっていますが、それはありえないです。
延岡の駅前再整備には、何年も前から地元市民が参加したプロジェクトが進んでいて、構想も設計もほぼできていましたが、そこに突然CCCが入り込んできて、前市長が独断でCCCを施設の指定管理者にしたんです」(延岡市民)
驚くことにエンクロスに関して、開館直前までCCCに対して払う指定管理料がいくらなのか、議会にすら知らされなかったという。委託する費用もわからず、事業者が決定されていたのだ。その事実が判明したのは、市長が代わってからだった。
18年2月、CCC誘致を決めた前市長が退任。それに伴う市長選挙では、保革相乗りで圧勝と予想されていた県庁の元幹部を、新人で元総務省官僚の読谷山洋司氏が567票差で破って当選した。当時の状況を前出の延岡市民は、こう解説する。
「読谷山さんは当選直後、エンクロスの指定管理料1億3500万円は、適正かどうかわからないので、4月の開館を当面延期して検証すると明言しましたが、それに議会が猛反発しました。市長の提出議案にことごとく反対したため、仕方なく予定通り4月開館することになったんです」
市民の多数票を獲得して当選した市長でさえ、議会の多数派勢力に抗えない状況だったという。市長vs.議会最大派という構図は、丸亀市でも似たような出来事が起きていた。
丸亀市議会でのパワハラを副市長が告発
今年2月、丸亀市で“市議会のドン”と目される保守系の有力議員・国方功夫氏が市の職員にパワハラや不当要求を行っているとして、徳田善紀副市長が市議会に告発書を提出した。
地元メディアの報道によれば、豪雨で崩れた丸亀城の石垣復旧にかかわった市幹部に「とばすぞ」と怒鳴ったり、議員報酬の引き上げに努力してないとして「お前は最低の人間だ。不信任決議で副市長を続けられないようにしてやる」などと面前で言われたという。
これに対して国方議員は「パワハラや不当要求はしていない」とし、「声の高さや態度が大きいとみられた部分もなきにしもあらず」と、反省の弁を述べたと伝えられている。
徳田副市長が議長に告発文を提出した結果、現在、議会に設置された調査権を持つ百条委員会で証人尋問が行われるなどして、真相を究明すべく、事実関係についての審理が今も進められている。
全国ニュースでも報じられた丸亀市のパワハラ事件の背景には、市議会において、もともと一部の有力議員が市長よりも強い権限を保持し、さまざまなことがその権限の下で強引に進められている歪な構造があるのではないかと、ある関係者は指摘する。
「副市長の告発は、これまでの経緯からすれば、ほんの一部なんですよ。もともと一部議員が特定の業者と不適切な関係にあるのではないかと噂されてきたなかで、少なくとも事実関係がはっきりした国方氏のパワハラの問題を取り上げることで、なんとか市政を正常化したいという人たちの動きなんだと思います」
この関係者は、今回のパワハラ事件と、数年前に起きた別のある事件が底流でつながっているのではないかと分析する。
丸亀市議会では14年4月、当時市議会議長を務めていた国方氏に不信任動議が提出されるという前代未聞の事件が起きている。
きっかけは、市議会議長職をめぐる混乱だった。当時、市議会議長職は、任期1年の持ち回りの慣例が敷かれていたのに、この年に限って、議長は自ら退任しなかった。それに怒った他の議員たちから、4月の臨時議会で議長の不信任動議を出されて可決。それでも国方氏が辞めなかったため、6月の定例会は欠席する議員が続出して開催できなくなってしまったという。
前出の関係者がこう続ける。
「議長としては、まさか不信任案が通るとは思っていなかったのでしょう。そのまま放っておいても動議は過半数に届かず、議長職を継続できると思っていたのではないでしょうか。ところが、ちょうどそのタイミングで地元の瓦版というか、わりと大胆なこと書くメディアが、議長が特定業者と癒着していることを示すスキャンダルを報じたんです。それで不信任に賛成する議員が増えて、もくろみが崩れてしまったということだと思います」
結局、国方氏は「6月議会の流会の責任をとる」との名目で8月に議長を辞任したが、地元瓦版が報じた醜聞については、他のメディアは一切取り上げず、完全に沈黙したまま終わったという。
丸亀市では、そうした一部有力議員が市長よりも絶大な影響力を持っている状況に対して、市政をもっと透明化したいと考える人たちが少なからずいた。今回の副市長のパワハラ告発も、その文脈からみれば、6年前の事件とも底流でつながっているというのは、あながちうがった見方ともいえないだろう。
一部の有力議員がCCC誘致を推進
さて、ちょうどパワハラ告発直後のタイミングで出てきた、市民交流活動センターの指定管理者にCCCを選定した経緯は、ますます不可解に思える。
極端に安い価格で開業準備の支援業務をCCCに委託していたことをはじめ、一部の有力議員が主導したCCC管理の延岡エンクロス視察から、年末のCCCのみを呼んだ議会プレゼンに至る経緯は、果たして本当に公平公正な選定といえるのか、大いに疑問が残るところである。
13年に武雄市から始まったツタヤ図書館の増殖は、市長のトップダウンで進められた印象が強いが、18年の延岡から始まったツタヤ公民館のケースは、市長の独断ではなく議会の有力者によって進められる新たな民間委託の形ともいえる。
丸亀市の関係者は、こう解説する。
「今の市長は、さすがに図書館もCCCの指定管理にすることは受け入れないと思いますが、議会では、市長に反対する会派が強い“ねじれ”が起きているので、その人たちの承認がなければ予算を通すこともできない状態が続いています。そんななか、なんらかの譲歩が必要な場面も出てくるかもしれません」
公共施設の民間委託が進めば進むほど、民間事業者と政治家との癒着が疑われる場面はますます増えてくるだろう。市民が普段から市政を注意深く監視していないと、特定の事業者が優遇される不適切な事案は後を絶たないだろう。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)