香川県丸亀市は6月19日の市議会本会議で、今秋完成予定の市民交流活動センターの運営者に、レンタル大手TSUTAYAを全国展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を指定する議案を可決した。
「ついに四国にもツタヤ図書館ができるのか」と思って取材してみると、丸亀市の場合、図書館ではなく市民活動センターの運営であることが判明したが、この決定には関係者の戸惑いと不満の声が渦巻いていた。しかも、CCC選定のプロセスには不可解な出来事がいくつも潜んでいた。いったい、丸亀市に何が起きていたのか。民間委託の最前線をレポートする。
今年10月以降に完成予定の丸亀市の市民交流活動センターは、市庁舎の新築に合わせて施設内に併設される複合施設の一部分。開館は2021年3月中を予定。敷地面積1万800平米のうち同センター機能は1~2階の2フロアで、最大1800平米を占める。この施設に用意されたスペースに市民が集い、カフェや図書閲覧コーナーでくつろいだり、趣味サークルやさまざまな文化活動が行われるという。
今回、CCCが受託したのは、この公民館部分の運営だ。同社がこれまで運営を受託した公共施設7つのうち、宮崎県延岡市の「エンクロス」だけは図書館ではなく、公民館にブック&カフェを併設したような複合施設(図書を閲覧できるが貸出はしない)。丸亀市は、その延岡市に続く全国で2番目の“TSUTAYA公民館”になる。
丸亀市が選定委員会を開催してCCCを市民交流活動センターの指定管理者に選定したのは、今年3月30日。5人の審査委員(うち3名は市職員)が全6項目について採点した結果、600点満点中408点を獲得したCCCを選定したのだが、応募したのはCCCの1社のみ。つまり、選定会議は、ただのセレモニーにすぎなかったのだ。ある関係者は、こう振り返る。
「もともと、地元の団体が運営するという話だったんですが、なぜか昨年春頃に突然、民間企業に任せるという話が出てきて、びっくりしましたね」
取材を進めていくと、選定会議の1年前から、すでにCCCは丸亀市に深く食い込んでいたことが判明した。
CCCが指定管理受託の1年前から市の業務に関与
昨年6月、開業準備の支援業務を担当する委託事業者が公募され、この業務を受託したのがCCCだった。担当部署がこう説明する。
「市民参加のワークショップを開いたり市民アンケートを行って市民のニーズを把握し、運営計画に生かす業務です。公募には2社が応募いただきまして、価格だけでなく提案内容も含めて評価するプロポーザル方式で審査した結果、CCCさんを選定しました。CCCさんは、公募する少し前に営業の方からお問い合わせがありまして、あとから責任者の方(高橋聡カンパニー長)ともお話ししました」
このときに市が設定した委託金額の「上限価格」は350万円。2社が競合したが、この時にCCCがつけたのは、上限価格に極めて近い348万4800円だった。先の関係者が、こう述懐する。
「ある議員さんが『天下のツタヤさんが350万円で、ようきたなぁ』と、CCCの社員に聞いたら、『いや、350では絶対に赤字ですよ。延岡から宿泊費と旅費だけでも、それくらいかかりますから』と答えたそうです。じゃったら、何狙っとんの?という話ですよね」
ちなみに、先月ツタヤ図書館を開業した和歌山市が、市民参加のワークショップを開催したり市民アンケートを行う支援業務の委託者を2015年に公募したときの委託金額は、丸亀市の約3倍に当たる約1000万円。それでも当時、「安い」と言われたことからすれば、丸亀市が設定した350万円が、いかに破格だったかがわかる。350万円の上限価格を定めた根拠について、丸亀市の担当部署は、こう回答した。
「根拠となる見積もりをとっていたのか、調べてみましたがありませんでした。当時の予算の関係で、『このくらいしか出せない』ということで決まったと記憶しています」
つまりCCCは、指定管理者として選定される1年前に、同業他社は見向きもしない低条件で設定された開業準備事業を、あえて受託。その実績によって、コンペなしで“本命”の指定管理の仕事を取ったかのようにみえる。
さらに驚くのが、CCCが選定された時期である。同社の基幹事業である子会社のTSUTAYAが、消費者庁から景品表示法違反で1億円の課徴金納付命令を下されたのは、昨年2月22日のことだ。TSUTAYA・TVの「定額見放題」サービスが“虚偽広告”と認定されての罰則だったが、それから3カ月しかたっていない時期に、CCCは“優れた事業者”として、丸亀市から公共施設の運営者に選定されていることになる。担当部署は、こうしたCCCの不祥事について、「まったく知らなかった」というから不思議だ。
公募前にCCCが議会でプレゼンを行う異常事態
ある関係者は、CCCの選定プロセスについて、こう打ち明ける。
「最終的には11月に、CCCが運営する延岡のエンクロスを視察に行った有力議員がべた褒めしており、それで流れが決まったような感じでしたね」
最後の舞台は、年末も押し迫った12月19日の議会だった。“CCC推し議員”がセッティングして、本会議が終了した後に全員協議会を開催。その場に、なんとCCC社員で延岡エンクロスの中林奨館長が、全議員の前でプレゼンテーションをしたというのだ。
まだ指定管理者の公募すらしていない段階で、一民間事業者が議会の場で堂々と営業活動するというのは、異例の出来事。前出の関係者は、こう批判する。
「優れた運営事例を紹介するにしても、市の職員が行うのならいいんですよ。ところが、事業者が出てきて議会で直接プレゼンなんかしたらアウトですよ。もちろん、批判した議員もいましたが、まったく聞き入れられなかったみたいですね」
CCCだけが事前に議会プレゼンを許されたとしたら、後から指定管理者が広く公募されて行われた選定委員会での審査など、ただの茶番でしかない。事前に、そうした内実を他社が察知していたとしたら、わざわざプロポーザルを書いて応募してこないのは、当然といえるだろう。前出の関係者は、こう嘆く。
「指定管理料は年間、1億3000万円です。人件費からこの金額を算出したらしいのですが、丸亀は、延岡のように駅前施設ではありませんので、賑わい創出を目的としていないのに、なぜそんなにかかるのでしょうか。ただ部屋を貸し出すだけで、CCCに市民活動中間支援のノウハウなんて本当にあるんですか」
さらに、裏で一部の議員がCCCと癒着して指定管理者にしたのではないかと批判する。そこで、“CCC推しの有力議員のひとり”と名指しされた公明党の内田俊英・前市議会議長を直撃したところ、こう説明があった。
「同僚議員に誘われて、昨年11月に延岡を視察したのは事実です。実際に出かけてみると、市民の自主的な活動が活発に行われているのを目にしまして、このすばらしさを、みなさんにわかっていただこうと思い、CCCさんを市議会にお呼びした次第です。ご批判も受けましたが、わかっていただけましたので、今は呼んでよかったと思っています」
CCCが公共施設を丸ごと運営するケースは、2013年の佐賀県武雄市を皮切りに全国7つの自治体で誕生している。
武雄市では、ツタヤ図書館を運営し始めた初年度に年間90万人の来館者を集め、「官民連携の成功モデル」と称賛の嵐だったが、15年に系列の古書店から大量の古本を仕入れていたことが発覚したのをきっかけに、以後の評価はダダ下がり。わかりにくい独自分類や、高層書架に飾るダミー本の費用、利用カードとTカードの連携による個人情報に関する不安など、その杜撰な運営実態が次第に明らかになり、進出予定の自治体では次々と市民の反対運動が勃発。
そのためか、2017年12月の和歌山市を最後に、同社を公共施設運営の委託先として選定する自治体は途絶えていた。そんななか、3年ぶりに同社に運営を委託したのが丸亀市だった。
だが、丸亀市民の間には、駅前に美術館併設で運営している市立中央図書館の先行きまで心配する声が上がっている。
「今のところ中央図書館は市が直接運営していますが、指定管理にしろという議員の声が次第に大きくなっているので、『ついでにCCCに図書館も任せろ』という話になりかねないですよね」
全国的にも珍しい、美術館を併設したアート建築の丸亀市立中央図書館が、もしCCC運営になるとしたら、7年前の武雄市から始まった、観光客が押し寄せる“見世物図書館”がまた現れることになるのだろうか。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)