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東京、PCR検査の陽性率上昇止まらず…検査増加で説明つかず 店舗従業員の感染情報急増

文=明石昇二郎/ルポライター
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東京都庁(「Wikipedia」より)

「お金持ちの病気」で始まった新型コロナ感染症

 新型コロナウイルス感染症を日本に初上陸させたのは、観光で日本を訪れた中流階級以上の裕福な中国人観光客たちだった。乗客・乗員650人以上が感染したクルーズ船「ダイヤモンドプリンセス号」にしても、貧乏人には無縁の豪華客船だった。

 つまり、当初の新型コロナウイルス感染症は、旅客機や豪華客船で世界を旅することができる経済的余力のある「お金持ち」がかかる病気だったのである。中国で最初に確認された新型コロナウイルス感染症は、世界を股にかける旅行客やビジネスマンらを通じ、先進国とされる欧米各国や日本へと広まり、それから数カ月遅れで途上国にも伝播(でんぱ)していったのであり、決してその逆ではない。そのことが、エボラ出血熱やコレラといった旧来の重篤な感染症とはまったく異なるところだ。

 今でこそ日本国内の津々浦々で発生しているクラスター(感染者集団)にしても、早くから確認されていた現場の中には、「繁華街にある夜間営業中心の飲食店」すなわち銀座や六本木の高級クラブが含まれていたというのも大変興味深い。3月中旬以降、クラスターが発生している現場だとして、報道で盛んに強調されていたのは「スポーツジム」「ライブハウス」「屋形船」「病院」「介護施設」などだったが、それから10日ほど後の3月下旬、実は銀座をはじめとした「夜の街」の高級クラブでもクラスターが発生していることが初めて公にされたのだ。一方、庶民向けの「夜の街」である新宿・歌舞伎町でも感染が広がっていることが確認されたのは、それから2カ月以上が過ぎた6月のことである。

「エッセンシャルワーカー」スーパー従業員の間で感染広がる

 緊急事態宣言が解除された5月25日前後は、新規感染者の発生数もいったん落ち着き、もしかするとこのまま終息に向かってくれるのではないかと、私たちは淡い期待を抱いていた。

 6月以降の東京では、「夜の街」の従業員たちを相手にPCR検査を積極的に行なっているから、感染者数が増えているように見えるのだ、との説明が繰り返されてきた。つまり、クラスターは今なお捕捉できており、感染経路がわからない「市中感染」が増え始めているとは考えられない、というのだった。

 しかし気になったのは、「陽性率」(陽性判明者数を検査人数で割った値。パーセントで示される)が、いつまで経っても下がらないことだった。本来であればこの「陽性率」は、分母である検査数が増えれば増えるほど下がっていくものである。しかも、6月下旬以降の東京都の陽性率は右肩上がりで上昇し続けており、7月21日にはこれまでで最高の6.7%(暫定値)を記録。普通ではない“なにか”が東京で起こり始めているとみて間違いなかった。「PCR検査を積極的に行なっているから」との理由だけではもはや説明がつかなくなり、夏の東京で市中感染が広がっている恐れが日に日に高まっていく。

 筆者が普段から買い物で利用している都内某所のスーパーマーケットが、閉店時間よりも相当早く消灯していることに気づいたのは、まさにちょうどその頃のことだった。店の模様替えでもするのだろうかと思っていたところ、数日後、「従業員が新型コロナウイルスに感染したらしいですよ」と、近所の友人が教えてくれる。さらに、そのすぐ近くにある別のスーパーマーケットでも従業員が感染し、臨時休業に追い込まれているのだという。4月から5月にかけての「緊急事態宣言」期間中には、そんなことは一度も起きていなかった。

 そうした噂話に触れ、事実かどうか確認したい時は、「流通スーパーニュース」(株式会社 商人舎)のウェブサイトを活用するのがお勧めである。実際、筆者が普段使いで利用している2つのスーパーの「従業員感染情報」もしっかり掲載されていた。

 筆者は仕事柄、毎日のように新聞社やテレビ局のニュースサイトをチェックし、膨大な量の新型コロナ関連記事をスクラップしている。にもかかわらず、近所のスーパーマーケットで従業員が感染したことにはまったく気づかなかった。つまりマスメディア発の情報では、新規感染者数の増減や、耳にタコができるくらい繰り返し聞かされて今や世間の常識と化した「感染を防ぐためのノウハウ」程度のことしかわからず、筆者自身の日常生活における感染防御にはまったく役に立たないことになる。何よりその事実に愕然としてしまった。

 同サイトの「新型コロナウイルス関連記事一覧」では、全国各地のスーパーやコンビニで発生した従業員の新型コロナ感染情報が文字どおり網羅されており、見出しをクリックすれば詳細情報も確認できる。ただし、掲載されているのは「感染情報」ばかりではない。それぞれの店舗やスーパーマーケットチェーンにおける感染予防対策や、従業員への慰労金支給情報、そして地元自治体へのマスク寄付情報なども載っている。

 同サイトを見て驚いたのは、5月頃はスーパーやコンビニチェーンのさまざまな「新型コロナ対策」活動がずらりと掲載されていたのが、6月に入り、店舗での従業員感染情報が増え始め、7月になると従業員の感染情報だらけになっていたことだ。7月27日時点で、緊急事態宣言が出ていた4月の本数(88本)をすでに大きく上回って(120本)しまっている。しかもその大半は、店舗内で1人の従業員が感染したことを伝える情報であり、従業員間でクラスターが発生したといった類いの情報は、今ではほとんどない。

【「流通スーパーニュース」掲載の「コンビニ・スーパー従業員感染情報」記事本数。カッコ内の数字は都内店舗の記事本数】

3月 13本(4本)

4月 86本(28本)

5月 16本(6本)

6月 10本(4本)

7月 120本(38本)(7/27まで)

 理想を言えば、従業員の皆さんがどのような理由や経緯で感染したのか――まで記事に加えてもらえると、私たちが防御策を考えるうえでさらに有益な情報となる。今後の善処に期待したい。

 というか、テレビや新聞はなぜ、こうした「防御策を考えるうえで有益な情報」を報じないのだろうか。スーパーやコンビニチェーンは、従業員の感染情報を自ら公表しているのである。報じる気があるのかどうかの問題だと思う。

 ともあれ、感染対策に人一倍、気を使っているはずのスーパーやコンビニで、同時多発的に従業員の感染が発生していた。それも、筆者の自宅のすぐそばで。市中感染が、すぐ目の前にまで迫ってきた。

「第2波」がやってきた

 感染の「第2波」は、第1波と同様に海外からやってくるものと、これまで報道から教えられてきたし、感染症の専門家たちもそう語っていた。しかし、新型コロナウイルスは日本国内で種火のようにしぶとく生き残り続け、クラスター対策を巧みに逃れつつ、「インフルエンザのように暑くなれば落ち着くかもしれない」との淡い期待も裏切りながら、市中感染を広げつつある。一度、激減した感染者数が、第1波と遜色ないほど激増しているのだから、ここは専門家も政治家もメディアも変な意地を張らずに、「第2波がやってきた」とハッキリ言うべきだろう。そうでないと、前回同様の危機感を市民が持ち、この事態に臨むことなど、到底期待できない。

 実際、政府や東京都などは「第2波」に対し、感染拡大を抑えるための有効策をなんら打ち出せていない。感染確認後、陽性患者の足取りがわからなくなるケースが東京都と高知県で2例、発生したことから、今後は保健所が警察に「行方不明者届」を出し、保健所と一緒に警察も“捜査”に当たることにしたのだという。

 また、「朝日新聞デジタル」7月24日付によれば、小池百合子・東京都知事からの要請を受けて警視庁は同日、東京・歌舞伎町のキャバクラやホストクラブに対し、風俗営業法に違反している疑いがあるとして立ち入り調査を実施。それに都庁職員が同行して、店舗側に「3密」対策などの新型コロナウイルス感染症対策を徹底するよう求めたのだという。今後、新型コロナウイルス感染者や、クラスターを発生させた店舗は、警察のご厄介になる恐れが出てきた。

 感染拡大がなかなか収まらない苛立ちから、“悪者”を仕立てて取り締まろうという動きが出てきたわけだが、悪手と言うほかない。第一、そんなことをやっていたら、自ら進んで「感染経路調査」や「クラスター対策」に協力しようという感染者が誰もいなくなる危険がある。

 現在の政府や自治体に期待しているだけで感染が収まることは、どうやらあり得そうにない。安倍晋三首相が胸を張る「日本モデル」の成功体験は、「第2波」には通用しないのだろうか。

(文=明石昇二郎/ルポライター)

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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