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中国へ払うレンタル料は年1億円…動物園のパンダ誘致合戦加熱、日立市は政財界で推進

文=小川裕夫/フリーランスライター
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「gettyimages」より

 上野動物園に大フィーバーをもたらした赤ちゃんパンダのシャンシャンが、間もなく中国へ帰国する。2019年6月に返還される予定だったシャンシャンは、あまりの高い人気から東京都が延長を要請。中国側も了承し、帰国する期限は今年12月31日まで延長された。都はシャンシャンと父・リーリー、母・シンシンについて、あわせて年間1億円のレンタル料を中国に支払っている(シャンシャンについては無償とされている)。ジャイアントパンダは全世界で人気を博し、各国から引く手は数多。そのため、中国政府はジャイアントパンダを外貨獲得戦略の一環として活用してきた。

 このレンタル料だが、経済効果を考えると実は安価ともいわれる。実際、シャンシャンによる経済効果は年間で20億円を軽く超えるとも試算されている。そのため、「パンダをレンタルしてもらおうと手を挙げる動物園関係者、地域振興の起爆剤と考えて積極的にパンダを誘致している地方自治体は多い」と話すのは、ある動物園の関係者だ。

 現在、国内では上野のほか、和歌山のアドベンチャーワールドと神戸市の王子動物園でパンダが飼育・展示されている。王子動物園のタンタンは今年7月に中国へと帰国する予定になっていたが、新型コロナウイルスの影響で中国への飛行機が発着しなくなったことから帰国が延期されていた。いずれにしてもタンタンの帰国は織り込み済みで、新たなパンダを迎える予定はない。

 12月の期限を迎えれば、上野のシャンシャンも帰国する。さらに、リーリーとシンシンも2021年までに中国への帰国が決まっている。つまり、22年以降に国内でパンダが見られるのは和歌山のアドベンチャーワールドだけになる。

 中国の奥地にしか生息が確認されていないジャイアントパンダは、その生態から絶滅危惧種とされている。ワシントン条約で保護されていることもあり、商用での売買も禁じられている。中国が他国にレンタルしているのは、あくまでも生態研究や繁殖を目的にしている。そのため、期日がくればパンダは中国に帰国しなければならない。1億円を払っているのに譲渡ではなく貸与にとどまるのは、そうした背景による。前出の動物園関係者はいう。

「動物園で人気になる動物はゾウ・キリン・コアラなど、時代によって変化してきましたが、パンダはもっとも息が長い人気者です。世界でもパンダ人気は手堅く、国内はもとより海外観光客を呼べる力もある。飼育環境を整えるのは大変ですが、ジャイアントパンダを誘致したいと考える関係者は少なくないと思います。特に、地域振興を考えている地方自治体は強く願っているでしょう」

 一方、中国政府がパンダを政治カードとしてフル活用しているのも事実。安倍政権発足以降に急速に日中関係が冷え込んだこともあり、新たなパンダが来日しなくなっているのも、そうした国家間の関係性が少なからず影響している。

地方経済の救世主に

 現在、地方都市の疲弊はとどまることを知らない。人口減少はいうまでもなく、産業も経済も急速に衰退している。総務省職員はいう。

「第2次安倍政権が発足した当初は、地方創生が一丁目一番地の政策として掲げられていました。しかし、すぐにトーンダウンしています。口にこそ出しませんが、頼りない安倍政権を見限って、独自に地域振興・活性化に取り組もうとしている知事・市長も少なくありません」

 アベノミクスを打ち出したものの、8年かけても経済は浮揚しない。地方の政財界は安倍内閣を見限り始め、もはや政権に頼ることはなく、自力で地域の再生を模索する。そこに出てきた地方経済の救世主が、パンダだった。

「高度経済成長期やバブル期、地方都市ではレジャー施設の整備があちこちで取り組まれました。特に、ハコモノといわれる大型開発による地域振興策は積極的に進められました。ただ、単なるハコモノでは税金の無駄と断じられます。そうした背景から、ハコモノとして大義名分があり、理解が得られやすい文化・教育施設。平たく言えば、動物園や博物館、図書館の建設が相次いだのです」(地方都市の市職員)

 行政が整備・運営する施設のなかでも、図書館や博物館に比べて動物園は市外・県外からも人を呼びやすい。しかし、バブル崩壊以降に動物園は苦しい経営を迫られた。レジャーの多様化も相まって、来園者は減少。加えて平成期には自治体財政の逼迫が施設の更新を阻んだ。厳しい財政のため、新しい動物を連れて集客を図ることも叶わず、老朽化した動物園はオワコン化の道をたどるしかなかった。

 しかし、そんな逆境下でも旭山動物園ブームなどが起こり、動物園が注目される機会はあった。そして旭山動物園を上回るブームを巻き起こしたのが、上野動物園のシャンシャンフィーバーだった。17年に誕生した赤ちゃんパンダは瞬く間に国民的人気者になり、その人気はすぐに国内全土に波及。18年の沖縄県名護市長選でも、立候補者がパンダを誘致する公約を掲げるほどだった。

日立市・かみね動物園

 その後もパンダ誘致は各地から沸き起こり、特に東日本大震災で復興を模索する東北地方では秋田県秋田市、宮城県仙台市など、積極的に誘致する姿勢が目立った。また、東北ほど大きな被害を出さなかった茨城県でも、それら2市から後れをとったものの、日立市が誘致に名乗りをあげた。日立市の関係者はパンダ誘致にこう意気込む。

「日立市には、かみね動物園という歴史ある動物園があります。公園や遊園地を併設していますが、なによりも強みは日立駅から近いことです。パンダを誘致する計画は、日立市だけが取り組んでいるのではありません。茨城県の政財界全体が推進している計画です。当初は、上野動物園のシャンシャンがフィーバー中でしたが、上野と日立ならほどよい距離なので客を取り合うことはないだろうと考えられていました。上野からパンダがいなくなる可能性があるということで、さらに強く誘致を呼びかけていくことになるでしょう」

 茨城県の政財界は、以前から水戸市以北の地域振興策に奔走してきた。これまで茨城県北の経済を牽引してきたのは日立製作所だが、同社はグループの再編を進めて日立市周辺から工場を他地域へと移転させている。茨城県北の核となる日立市が経済・産業で衰退すれば、茨城県全体が相対的に厳しくなる。そうした事情から、茨城政財界は県北の新たな起爆剤を探していた。

 かみね動物園一帯は、公園や遊園地、博物館などが立ち並ぶ日立市随一のレジャースポットで、最盛期の昭和40年代後半には来園者が年間45万人を記録。一大レジャースポットとして賑わったが、現在は30万人前後まで減少している。かみね動物園にパンダを誘致できれば、県北の日立市に活気が生まれ、それは茨城県全体の観光産業を押し上げる。県政財界は、そんなソロバンを弾く。

 茨城県だけに限った話ではないが、製造業が衰退している今、新たな経済の柱として観光産業は大きな期待を背負う。新型コロナによって観光産業は大打撃を受けているが、それまで茨城県も観光産業の振興に力を入れていた。外国人観光客は姿を消したが、生き残るためには、やはり観光産業しかない。そのため、東京から観光客を呼ばなければならず、こうしてパンダ誘致の熱はますます高まる。

 今のところパンダ誘致に関しては、秋田市・仙台市・日立市が横一線に並ぶ。上野に新しいパンダが来園する可能性もあるが、「日立と上野なら競合関係にならない。仮に上野に新しいパンダが来園しても、日立のパンダ誘致は終わらない」(日立市職員)という。

 果たして、パンダ誘致レースを勝ち抜くのは、どこなのか。

(文=小川裕夫/フリーランスライター)

小川裕夫/フリーライター

小川裕夫/フリーライター

行政誌編集者を経てフリーランスに。都市計画や鉄道などを専門分野として取材執筆。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)、『封印された東京の謎』(彩図社)、『東京王』(ぶんか社)など。

Twitter:@ogawahiro

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