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オタクドクター“Chem”の「医療ニュース、オタク斬り!」

入試で数学不要の医学部も出現…大学では使わないけど、医療現場で意外に役立つ?

文=Dr.Chem(アニヲタ医師)
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Getty Imagesより

 ご無沙汰しております。アニヲタ医師、Dr.Chem(ちぇむ)でございます。

 夏の暑い盛りを過ぎても、新型コロナウイルスの流行が続いており、連日の報道で、各地での感染者数が発表されております。この世界的な感染症への対策の中で、医療の分野との関連がかつてないほど注目された分野が、数学でした。

 大学受験の分野において、医学部は理系の難関学部と見なされており、実際、医学部受験にあたっては数学の成績が重要といわれています。

 しかし、実際に医学部に入って医学を学ぶ過程では、大学受験までの数学を延長して学び、生かす機会というのはほとんど訪れません。通常、医学部で最初に取り組む専門科目は解剖学。そこでは、人体の部位について、筋肉、骨、神経といった構造の名前をひたすら暗記することが求められます。

 骨であれば、1本の骨のなかにも、各々の筋肉との付着部位やくぼみについてそれぞれ名前がついており、それらのいずれもラテン語(今は英語で覚えることも多いです)。名前ですから「なにゆえ?」という問いもなく、「それはそういう名前だ」と覚えるほかありません。

 その後の専門科目についても、基礎分野(生理学、組織学、免疫学、病理学等)、臨床分野(内科学、外科学等)と、とにかく医学部では覚えることがいっぱいで、高校までの、いわゆる理系科目における計算や証明といった要素はほとんど出てきません。

入試科目に数学が不必要な大学も登場

 そうした入学前後のギャップに加え、どうも世間的に「医療の仕事には患者さんとのコミュニケーションが必要なのに、理系科目だけできて医者になった人間は、その適性に欠けるのではないか」といった偏見も昔から根強く残っています。結果として近年では、数学を入試科目に含めずに受験できる大学医学部も出現しているようです。

【参照】「医学部受験、ここへきて「数学不要論」が急浮上してきた本当のワケ」(現代ビジネス)

 そういう私はというと、数学は決して得意とはいえず、むしろ(オタク知識を武器に)国語や地理・歴史等の文系科目を得意としていたので、「自分が受験生の時にこうして数学なしに受験できていたら、もっと楽な思いができたのでは……」とヨコシマな思いにとらわれてしまいます。

 実際、医学部入学後は、数学の単位などほとんど取らず(取れず)に過ごしていましたが、その後も無事になんとか働くことができています。今では電子カルテの普及に伴って、薬剤の投与量の計算のような間違いの許されない数値計算にもコンピューターの補助がばっちり得られるようになったため、仕事で数学を活用することは、なおのことなくなってしまっております……。

新型コロナの感染拡大で注目された「数理モデル」と医学の関係

 しかし、本邦における4月から5月にかけての緊急事態宣言やそれに伴うクラスター対策で大きな役割を果たしたのは、まぎれもなく、最先端の数学を駆使した数理モデルでした。そのモデルでは、感染の拡大を防ぐためには人同士の接触を8割減らすことが必要とされ、提唱した西浦博博士は「8割おじさん」と呼ばれて話題にもなりました(この呼称は海外にも広まっており、海外の論文でも西浦先生は“80% uncle”と呼ばれています)。

【参照】「Did Japan miss its chance to keep the coronavirus in check?」(AAAS)

 また、こうした数理モデルのなかでは、無味乾燥な数式だけでなく、実際の人々の生活と組み合わさったシミュレーションがなされていることも解説され、前述のような理系科目、とりわけ数学が人間味のない無味乾燥なものという偏見を取り払ってもくれました。

 そんな世の中の変化を受けて、「やっぱり今からでも数学勉強した方がいいのかな……」と思ったところに出会ったのが、絹田村子のマンガ『数字であそぼ。』(小学館)です。

マンガ『数字であそぼ。』で描かれる、数学の豊かな世界

 ノーベル賞受賞者を多数輩出しているという、京都の国立大学(劇中では「吉田大学」となっていますが、キャンパスや建物の様子は京都大学そのままのようです)を舞台に、暗記力を武器に理学部へ入学したものの、大学の数学についていけずにあっさり留年してしまった主人公・横辺(よこべ)が、周囲の友人たちに支えられながら(?)、なんとか卒業を目指すというストーリーです。

 劇中にはさまざまな数学のトリビアが出てくるほか、理系分野(主に数学)に人生を捧げた学生や教授たちの姿がユーモラスに描かれており、理系大学生たちの生活を描いたという点で、名作、佐々木倫子『動物のお医者さん』(白泉社/こちらはタイトル通り、獣医学部が舞台です)を彷彿とさせるものがあります。

 本作の主人公である横辺は、たぐいまれなる暗記力を持っており、高校までの勉強は数学を含め、教えられたことを文字通り「すべて覚える」ことで突破してきたという設定です。それゆえ、数学の定義や公式についてはすべて暗記しているものの、大学でその意味を問われたことでパニックに陥ってしまい、留年してしまったのでした。

「暗記より理解が大事」とは、大学受験までの数学の勉強のなかでもしばしばいわれていたことです。実際本作では、実数の定義や線形代数におけるベクトル空間といった“いかにも”な数学知識だけでなく、「5人のうち1人だけ嘘をついているのは誰か」といった論理学の実践等も登場し、思いもよらない形で数学が日常に溶け込んでいることが描写されていきます。ところどころに、大学生活あるあるというか、森見登美彦作品に出てきてもおかしくないような、京都大学っぽい面白エピソードもさしはさまれていて、勉強は大変でも楽しかった大学生活を追体験できるのも楽しいところです。

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2018年に出版された、絹田村子著『数字であそぼ。』第1巻(小学館)。大学数学あるあるネタが満載!

医療の現場でも、実は数学が“少しだけ”役に立っている?

 そうして、数式や計算だけが数学ではないことを改めて実感すると、医療の現場でも、先に述べた薬の投与量のような直接数字を扱う場面以外にも、意外に数学が役立っているのかもしれないことに気づきます。

 例えば、日々の診療における、診察や検査に基づいて病名、治療を判断する過程にも、意識的・無意識的にアルゴリズムが働いています。外来診療で患者さんの検査を効率よく進めたり、待ち時間を短縮するための手順の判断には、迷路の最短経路を計算するのと同じような思考回路が求められます。

 あるいはこれらは医療に限ったことではないのかもしれませんが、立派な数理モデルとはいかなくても、日常業務のちょっとしたことに数学の知識、経験は生きているのかもしれない……と気づけたことは、今さらながらに大きな収穫でした。

 そうはいいつつも、では大学受験でどこまで数学ができる必要があるのか? という問いは、やはり難しい問題なのですが。

Dr.Chem

Dr.Chem

ファーストガンダムと同じくらいの時期に生まれた、都内某病院勤務の現役医師。担当科は内科、オタク分野の担当科はアニメ、ゲームなど主に2次元方面。今回取り上げた『腸よ鼻よ』では、ちょいちょいいろんな分野からのパロディネタが挟み込まれていますが、特に作者が筋肉フェチなこともあってか、格闘マンガ、特に『バキ』ネタが多いです。ちょうどNetflixで『バキ』大擂台賽編が放送中にて、合わせて楽しんでます。

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