山口県宇部市は、市が昨年取得した百貨店撤退後のビルを市民センター(仮称・宇部市トキスマにぎわい交流館)として活用する施設条例案を、9月議会に提出した。
この事業の基本計画案を手掛けたのは、レンタル大手TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)。市は6月に、同社と連携協定を締結。公共図書館ではないブックカフェを配置した基本計画を8月末に策定したが、今後「施設の運営者としてもCCCが選定されるのではないか?」「ツタヤ図書館もどきをつくるのか?」との声が、早くも市民からあがっている。
全国で6館の公立図書館と1館の市民交流センターを自治体から受託して運営するCCCの周辺では、不祥事が後を絶たない。
昨年2月には、同社の基幹事業であるTSUTAYA(現・蔦屋書店)が、動画配信サービス等を「全作品定額見放題」であるかのように宣伝していたことが景品表示法違反(優良誤認)と消費者庁から認定され、1億1753万円の課徴金を課せられた。
そのような企業を「優れた事業者」として、自治体が委託事業者に選定するのは不適切ではないのかとの批判は根強い。そこで今回は、7月の香川県丸亀市に続く“ツタヤ公民館”として賑わい創出をめざす宇部市の事例を詳しく見ていきたい。
不可解すぎる選考の流れ
宇部市が昨年6月に取得したのは、市の中心部にあり、2018年12月末で閉店した井筒屋の店舗。築43年と老朽化が著しい地下1階・地上6階、延べ1万1000平米の建物を減築して、4階建てに改修。店舗に加えて、まちなか図書館、ブックカフェ、子どもプラザ、ギャラリーなど公共施設を入居させ、22年秋のオープンをめざす計画だ。
市の担当部署によれば、この事業の企画提案者を今年1~3月に公募。結果的に3社から応募があり、そのうち“もっとも優れた事業者”としてCCCを選定したという。ところが、この選定プロセスを調べてみると、不可解な点がいくつも浮かび上がってきた。
下の図は、応募のあった3社のうち、実質的に一騎打ちとなったB社とC社の提案を比較したものである。
「集客数」「フロアの機能」「指定管理年数」「休館日」など、細かい点が少し異なっているだけで、両者の提案を示した骨格となる文章表現はそっくりだ。とりわけ最後の3行は、ほぼ同一の文章であることに驚く。
市の担当部署に問い合わせたところ「応募企業の提案内容を非公表とする“サウンディング方式”を採用したため、事業者がどこかわからないようにするため、あえて同じ表現を使った」と説明したが、そんな説明では疑念は解消されなかった。
ある市議会関係者は、これを最初に見たとき、「ほかの記述はほとんど同じで、想定集客数などが少ないだけのB社は(実在しない)ダミーではないのかと思った」と告白する。 最終的に選ばれたCCCがC社だとすれば、B社の提案はCCCを勝たせるためだけの“引き立て役”にしか見えない。
国交省によればサウンディング型とは、事業内容やスキーム等に関して、民間事業者との直接の対話によって、民間の意見や新たな提案の把握を行う手法だという。
「対象事業の計画段階で広く対外的に情報提供することにより、当該事業への民間事業者の参入意欲向上を期待」できるとされていて、気楽に企画提案してもらえるメリットがあるというわけだが、最大の特徴が、参加企業の提案内容を詳しく公表しなくていいこと。そのため、市議会にも選考結果の概略しか伝えられていない。これも疑心暗鬼を呼ぶひとつの原因となっている。
高すぎる運営費
実は、先に見たB社とC社の最大の違いは、活用するフロア数だった。B社が4階分全フロアを活用して、こどもプラザなどを展開する計画だったのに対して、C社がコンペに提出した計画では、1、2階のみの活用にとどまっていた。
関係者によれば、年間集客数が「70万人」とB社の「約40~60万人」と大きく上回っているにもかかわらず運営費用が圧倒的に安かったことが、C社選定の決め手になったという。
ところが、この後策定された基本計画案をみると、なぜか3階も公共施設を配置する計画になっていた。市側の要望によって3階も活用することになったらしいのだが、そのため、年間の維持管理費を含む運営費は、C社の当初提案の1.5億円程度から約2億900万円にまで膨れ上がった。
CCCが宮崎県延岡市で運営している複合施設エンクロスの運営費は、年間1億3500万円。エンクロスは宇部市と同様、市民活動センターで、開業時に新市長から「高い運営費の見直しが必要」とされていた。その高いとされた運営費よりも、宇部市はさらに高い。
事業全体の予算も、驚きの連続だ。まず、建物の整備費(改修工事、解体工事、内装費含む)が約29億円。25台分の立体駐車場整備費1億5000万円(90台収容なら4億8000万円)を合わせると30億円を優に超える。それとは別に、数億円の開業準備費もかかる見込み(これら整備費の約42%は、国の補助金と交付税で賄えると市当局は説明)。
一方で、テナントに入る店舗からの想定家賃収入は3100万円。指定管理者に払う年2億円以上の運営費がかかるため、その程度の収入では、たいして負担軽減にはならない。
ちなみに、15年に新築移転が決まって昨年10月に完成した和歌山市民図書館の場合、建築費は新築で約30億円(内装費別)だった。この間、オリンピック前の建築費高騰を考慮しても、宇部市の改修費は、相当に高い印象だ。
ある関係者は、こうぼやく。
「築40年を超える古い建物に、それだけ巨費をかけて改修して、あと何年もつのかと聞いたら、担当部署が『50年は大丈夫です』と言うから、もうあきれました。本当に50年ももつんでしょうか」
それにもかかわらず、議会の最大会派がこの案に賛成しているため、このままいけば施設条例は成立しそうな情勢だ。
地方自治に詳しいある図書館関係者は、こう嘆息する。
「まったくでたらめな自治体ですね。井筒屋の古い建物に30億円以上かけてつくりたいのは、街の中心街に賑わいを残したいという市及び商工会議所の要求だと思います。そこにCCCがうまく入り込んだということでしょう。業者決定もB社、C社のなかで1・2階活用で落札したC社に、市側がわざわざ後から3階案を出して1.5億円から2億円に増やすなどしたのは、はじめにC社ありきで出発したからではないでしょうか」
では、いったいどうして、コロナ禍において優先課題が山積されているなか、これほどコストパフォーマンスの悪い事業計画が、宇部市で進められることになったのだろうか。“ツタヤ図書館もどき”をつくる計画の裏側でうごめく不可解なプロセスについては、次回、さらに詳しく迫っていきたい。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)