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ドコモ口座不正出金、地方メディア「過小報道」で露呈した“ドコモ&地銀タブー”

文=編集部
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ドコモ口座問題で最初期に被害が発覚した七十七銀行(撮影=編集部)

 NTTドコモの電子マネー決済サービス「ドコモ口座」の不正預金引き出し問題で預金者に大きな動揺が広がっている。犯行の手口や被害状況の全容はもとより、「被害者の補償を誰がいつ行うのか」に関して、いまだにはっきりしていないからだ。

 NTTドコモは10日、ドコモ口座と連携する全35行の銀行口座の新規登録を当面停止すると発表。また同社は9日までに確認された被害が、10銀行計34口座で約1000万円に上ることを明らかにした。同社は被害者に全額補償する方針を示しているが、具体的な方法などは「今後、銀行と協議する」としている。一部報道では昨年5月にも、りそな銀行で同様の引き出し被害があったことも指摘されている。

「マスコミが呑気にしててワロタ」

 インターネット上では「ドコモ口座を持っていなければ被害はない」などという虚偽情報が蔓延し、10日現在も混乱している。Twitterでは9日、「ドコモ口座の不正引き出しの件、日本史上最大の金融事件になりかねないのにマスコミが呑気にしててワロタ」「広告料(CM)で黙らせる。昔から大企業がやってきたことです」(いずれも原文ママ)などというツイートが次々にリツイートされ、メディアへの批判の声も高まっている。

 果たして報道の量と正確さに問題はあったのだろうか。事態は共同通信が7日夜に配信した記事『ドコモ口座に預金不正流出 七十七銀、数人が引き出し被害』以降、次々に発覚した。

 同記事では「仙台市の七十七銀行で、NTTドコモの電子マネー決済サービス『ドコモ口座』を利用した不正な預金引き出し被害が発生したことが7日、分かった。第三者が勝手に七十七銀行の預金者の名義でドコモ口座を作成。不正に盗み出した銀行の口座番号やキャッシュカードの暗証番号を使って銀行の口座から預金をドコモ口座にチャージする手法で、数人が被害を受けたとみられる」(原文ママ)と報じ、初報に関わらずほぼ重要な情報が網羅されていた。

 その後、全国紙やキー局、大手ニュースサイトなどが次々に報じ、みちのく銀行(青森市)、東邦銀行(福島市)、中国銀行(岡山市)、鳥取銀行(鳥取市)など各地の地銀の被害が明らかになっていった。では、多くの預金者が「情報不足」を叫ぶことに何か理由はあるのだろうか。

被害発覚の翌日の朝刊に七十七銀行の入社式の記事

 七十七銀行が所在する宮城県内にある大手自動車関連企業関係者は次のように話す。

「こんなに大変なことだとは思っていませんでした。当初、地元紙の河北新報の8日の朝刊では新型コロナウイルス感染症の影響で延期されていた七十七銀行の入社式が行われたと大きく報じられていて、ドコモ口座の件は印象に残っていません。だから、ごく限られた範囲の被害なのかと思っていました」

 同様に岡山県庁の関係者も次のように話す。

「中国銀行にも被害が出たことは、ネットニュースで知りました。地元の山陽新聞が朝刊で報じたのは9日です。しかも、そのニュースの主語は『NTTドコモが8日、発表した』という感じで、銀行不祥事という感じではありませんでした。新聞と同じく地方局のニュースでも取り上げられていた記憶はなく、おかしいなとは思っていました」

 全国紙のシェアが低い地方の主要情報源は、地元紙と地方局だ。どれほど全国紙やキー局、ネットニュースなどが報道しても、地元メディアの報道が低調であれば伝わらないことがあり得る。つまり、一番被害者になっている可能性の高い地元の預金者が「情報不足」に陥るということだ。

 また地元紙の経済担当記者の最重要取材先は地銀だ。各都道府県内の主要企業の創業廃業情報、新規事業の展開や全国的な大企業の移転情報など、ありとあらゆる経済情報が地銀に集まっているため、絶対にないがしろにできない存在といえる。

地方銀行、ドコモと地方メディアのズブズブな関係

 地方紙に勤務経験のある全国紙記者は話す。

「銀行担当は地方紙経済担当者の花形部署です。しかし、もし何か銀行の機嫌を損ねるような取材や記事を書いて、つむじを曲げられれば『特落ち』(編注:重要なニュースを自社だけ落とすこと)はもちろん日々のネタにも困るでしょう。

 今回のドコモの一件では、まず新聞記者のIT関連の知識不足が深刻なことがあり、ニュースバリューをはかり損ねた可能性があります。

 ただ共同の初報が社内に設置されているピーコ(編注:共同通信ニュース速報を伝える社内スピーカー)で流れたのは、翌日の朝刊に間に合うタイミングだったはずです。内容的に地元の地銀も関係している可能性を思いいたるのも容易で、ちょっと取材をすれば事の重大さに気が付き、大きく報じることはできたと思います。

 ネットなどで指摘されているように、銀行などから圧力があったとは思いませんが、仮に銀行の広報担当者が『これはドコモさんの問題で、うちの問題ではない』と言ったら特に反論もしないでしょう。また担当記者やデスクのレベルで『被害も大して出ていないし、このネタは書かないほうがいい』と忖度した可能性は高いと思います」

 地方局記者も次のように話す。

「例えばトヨタや任天堂など全国的な大手スポンサー企業は、基本的に電通などの代理店を通じてメディアと広告のやり取りをしています。

 しかし地銀とNTTドコモ、そして郵便局は別です。地方局の幹部が個人的なつながりで広告営業をかけているケースが大半です。地方の名士が各社の頭取や支店長などを務めているので、同様に地方の名士である地方局の役員とも懇意です。いわゆるズブズブの関係です。そのため、地銀がらみの『ぜひもの』と呼ばれる営業・広告案件のニュース制作は頻繁に現場に降ってきます。

 また地方局や地方紙は地銀やNTT幹部の子女を一定数採用しているので、ほぼ地方メディアと一心同体と言ってもいいのかもしれません。今回の一件でいえば、下手な報道をすれば取り付け騒ぎに発展する可能性もあるわけで、いろいろな意味で、ドコモと地銀への忖度がないとは言えないですね」

 いずれにせよ、現実に被害が発生していること、被害が発生しない銀行もあったことを考えれば、NTTドコモはもちろん問題のあった銀行は徹底的な検証を行う必要があるだろう。そして、それ以上に各地方メディアの取材力もまた問われている。

(文=編集部)

BusinessJournal編集部

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