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藤和彦「日本と世界の先を読む」

鳥インフル、ヒト型への変異に警戒高まる…新型コロナの300倍の感染者数との予測も

文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員
鳥インフル、ヒト型への変異に警戒高まる…新型コロナの300倍の感染者数との予測もの画像1
「Getty Images」より

 新型コロナウイルスの世界の累計感染者数は11月8日、5000万人を超えた。10月以降、欧米で感染が急増、1日当たり50万人を超える過去最悪のペースとなっている。日本でも北海道を中心に感染が拡大する傾向が見られ、1日当たりの感染者数が全国で1000人を超える状況が続いている。

 再び感染拡大が生じている要因の一つとして挙げられるのは、ウイルスの変異である。「今年6月にスペインで発見された新型コロナウイルスの変異株の感染力が強く、欧米地域で拡大する新たな症例の大部分を占める」と主張する研究報告が10月末に発表されているが、世界保健機関(WHO)は11月3日、「デンマークで突然変異した新型コロナウイルスがミンクから人に感染したケースが十数例発生した」ことを明らかにした。

 デンマーク政府は11月4日、「突然変異を起こした新型コロナウイルスがミンク農場で検出され、人への感染が確認されたことから、国内のミンク(1700万匹)をすべて殺処分する」方針を示した。新型コロナウイルスのミンクへの感染は、デンマークのほか、スペイン、イタリア、オランダ、英国、スウェーデンでも確認されている。

 新型コロナウイルスの感染拡大が一向に収束しない最中の11月6日、WHOは「人類は新たなパンデミックに備える必要がある」との声明を発表した。国連の専門家組織は10月29日、「新型コロナウイルスのように動物を宿主とし、人への感染の恐れがあるウイルスは現在、最大85万種存在する。人への感染の恐れがあるウイルスが毎年5つ前後発生し、そのいずれもがパンデミックに発展する可能性がある」と警鐘を鳴らしている。

鳥インフルエンザ、国内で確認

 1918年のスペイン風邪以降、世界はさまざまなパンデミックに見舞われてきたが、筆者が最も恐れているのが「鳥インフルエンザ」である。政府は11月5日、「香川県三豊市の養鶏場で高病原性鳥インフルエンザが確認された」と発表した。国内の養鶏場での確認は2018年1月以来約3年ぶりである。香川県は自衛隊の協力を得て、養鶏場で飼育されている33万羽の殺処分を開始したが、被害を引き起こしているウイルスはH5型の一種だとされている。

 欧州でもドイツやオランダの養鶏場で、H5型の鳥インフルエンザが検出されている。鳥インフルエンザウイルスは、基本的には鳥と鳥との間で感染するウイルスだが、ごく稀に人に感染することがあり、感染した場合、極めて高い致死率になる。

 インフルエンザウイルスの種類は、細胞に侵入する際に鍵の役割を果たすヘマグルチニンと呼ばれるタンパク質(略称はHA)と、感染した細胞からウイルスが脱出する際に重要な役割を担うノイラミニダーゼ(略称はNA)によって分類されている。HAは16種類、NAは9種類あるとされている。

 世界で流行している季節性インフルエンザはH1N1型とH3N2型である。季節性インフルエンザは人の上気道(鼻腔から咽頭まで)や気管でしか増殖できないことから、主な症状は呼吸器疾患である。

 これに対し、H5型の鳥インフルエンザウイルスが人に感染すれば、全身で増殖が可能であることから、激烈な症状をもたらすとされている。H5型の鳥インフルエンザウイルスの人への感染が最初に報告されたのは1997年5月である。香港に住む3歳の男の子が、激しい咳と高熱で入院し、2週間後に亡くなった。香港での流行以降、世界中に感染が広がり、累計の死者数は500人を超え、致死率は40%と極めて高い。

 H5型のインフルエンザウイルスは、H5N1、H5N2、H5N6、H5N8などの型が世界各地の鳥の間で流行を続けている。H5型の鳥インフルエンザウイルスの人への感染力は現時点では弱く、感染した大半の事例は鳥と濃厚接触したことが原因と見られている。しかし専門家は「現在のH5型の鳥インフルエンザに数カ所の遺伝子変異が起きれば、強い病原性を持つヒト型ウイルスに変化しうる」と危機感を露わにしている。

死者数64万人との想定

 これまで人から人への強い伝染能力を持っていなかったウイルスが変異して、新たに人への感染能力を獲得したらどうなるのだろうか。ほとんどの人が、そのウイルスに対する免疫を持っていないことから、世界全体に流行が広がり、患者は重症化する。新型コロナウイルスの場合をはるかに超える深刻な被害が発生することは確実である。

 国立感染症研究所でインフルエンザウイルス研究センター長を務めた田代眞人氏は、「先進国での致死率は7.5%前後、途上国では10%を超えるだろう」と想定する(新型コロナウイルスの日本での致死率は1.8%、世界では2.5%である)。

 日本での被害はどうなのだろうか。政府は「新型インフルエンザの死者数は64万人に達する」と想定している(致死率は2%)が、田代氏は「最悪の場合、日本で最大200万人の死者が出る可能性がある」と主張する。日本では季節性インフルエンザで亡くなる人は毎年1万人程度いるが、新型インフルエンザでは、その200倍の死者が出るかもしれないというのである。感染者について田代氏は、「最悪の場合、4人に1人、3200万人の日本人が感染する」との予測を立てている。

 新型コロナウイルスの日本での感染者数は10万人を超えたが、その300倍以上の感染者が発生すれば、医療崩壊の可能性もある。筆者は1月17日付コラムで「新型コロナウイルスのパンデミック」を予言したが、今回の予測ばかりは外れることを祈っている。

(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)

(参考文献)

『ウイルス大感染時代』(NHKスペシャル取材班、緑慎也著/KADOKAWA)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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