
菅義偉首相が強く求めてきた携帯電話料金の値下げ。とりあえず、これにこたえるかたちでKDDI(au)とソフトバンクは10月28日、新たな料金プランを発表した。いずれも主力のブランドではなくサブブランドでデータ通信の容量が大きく、低額のプランを追加する。
5G(第5世代移動通信システム)対応の大容量プランは現在、家族利用や期間制限などの割引を除くとNTTドコモが月額7650円、auが同8650円、ソフトバンクが同8480円(共に税抜き)である。メインブランドで月額1000円値下げすれば、単純計算で年間で数千億円規模の減収になるため、それは避けたいという本音が透けて見えてくる。
総務省は10月27日、「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」を発表した。ほかのキャリアや格安スマホへのユーザーの乗り換えを促すのが目的であり、菅政権が熱望する値下げを実現する即効性はないといわれていた。菅政権が求めているのは、動画の普及などで利用が伸びているデータ容量が20ギガバイト以上の大容量プランの値下げである。
KDDIとソフトバンクはサブブランドで割安プラン
KDDIは主力のauとは別のサブブランドで展開している「UQモバイル」で、月額3980円(税抜き、以下同じ)のプランを発表した。データ通信の容量は20ギガバイトで、通話オプションの料金や各種割引が含まれていない。
auは4Gの現行プランでは、50ギガバイトでデータ使用無制限のプランを月額7650円とする一方、UQでこれまで用意していた容量は10ギガバイトまでだった。この間を埋めるプランということになる。KDDIでは「最も安い500円の通話オプションをつけた場合でも消費税を含めて月額5000円を下回る」と説明している。来年2月以降に導入する方向だ。
ソフトバンクはサブブランドの「ワイモバイル」で、同じく20ギガバイトで月額4480円となる。1回当たり10分以内の国内通話は無料だ。ソフトバンクの50ギガバイトの大容量プランは月額7480円。「ワイモバイル」の14ギガバイトまでのプランの上と位置付けるサービスで、今年12月に導入を予定している。
総務省が携帯各社に要求したのは「容量20ギガバイト、税込みで5000円を切るプランに5分の通話無料を含める」という条件だったとされる。菅政権の値下げ要請にKDDIとソフトバンクは、かたちだけ応えた。その一方で主力ブランドの値下げは見送った。
携帯電話は基地局など大規模な設備投資が先行する装置産業である。4G投資が一巡し5G投資を進めている。大容量プランの値下げで、5Gの投資を継続するのに必要な体力が奪われることを懸念している。官製値下げで投資余力がなくなれば、5G戦略を見直さざるを得なくなる。