武田総務相、支離滅裂の“醜態”会見…「料金下げてから来い」と携帯会社や記者を恫喝
「まるでジャイアンが理詰めで言い負かされて逆ギレしてるようにしか思えない。本人も何を言ってるか、自分でもよくわかってないんじゃないか?」
ある総務省担当の全国メディア記者は、11月27日の武田良太総務相の記者会見についてこう感想を漏らした。25日配信の筆者記事『同じ質問に真逆の回答…武田総務相が携帯会社へ値下げ“恫喝”、ドコモも値下げ不可避』で報じた通り、武田氏は10月末段階では携帯電話料金値下げについてソフトバンクとKDDIがサブブランドをつくったことに満足していたにもかかわらず、約1カ月後の11月20日の会見では突如メインブランドで新料金プランを提示するように怒りを露にした。この武⽥⽒の豹変ぶりにKDDIの⾼橋誠社長が26日配信の日本経済新聞のインタビュー記事でメインブランドの値下げについて「すぐには動かない」と即座に対応することを否定した。
27日の会見は、高橋氏の発言について激怒した武田氏が記者クラブ側に質問してもらうよう頼み、説明用のフリップと資料までわざわざ用意する念の入りようだったという。
破綻している戦略をゴリ押し
まず、理解を助けるため、会見の前提について説明をさせていただこうと思う。
携帯電話市場は現状、NTTドコモ、ソフトバンク、KDDI(au)の3つのメインブランドが契約者の大部分を占めており、格安スマホなど低価格プランの契約は一部に限られている。菅政権は携帯料金の値下げを進めるにあたり、メインブランドから低価格プランへの乗り換えを促すことを大方針としてきた。そのなかで出てきたのがソフトバンク、KDDIのサブブランドだ。高いブランドから安いブランドへ誘導するのが狙いで、少なくも10月末はこの方針が共有されていたと思われる。
ところが、ここにきて武田氏はメインブランドを直接下げろと迫ってきた。残念ながら「競争政策によりサブブランドへの乗り換えを促す」ことと、「メインブランドを直接値下げする」ことは両立しない。なぜなら契約者の多数を占めるメインブランドユーザーからすれば、放っておけば値下げされるのにわざわざ面倒な手続きをしてまで乗り換える必要性がないからだ。
これを踏まえた上で、実際に会見の映像を見てみよう。冒頭の発表が終わると、予定通り記者が高橋氏の発言への受け止めと携帯大手への要望について質問した。以下は主なやりとり。(詳細はこちら)。
Q:携帯電話の値下げに関してです。大臣が先週金曜日に発言されたことに対しまして、KDDIの社長が複数の新聞で、すぐには値下げには応じられないという趣旨の発言をされています。こうした発言への受け止めと、先週金曜日の発言を含めて、携帯大手にどんなことを要望されているのか、可能な範囲でもう少し具体的に教えていただければと思います。
A:個別企業のコメントに関して、私の方からコメントは差し控えたいところでありますけれども、指摘された記事、私も読ませていただきました。非常にがっかりしました。サブブランドにおいて、低廉なプランを用意した。この選択肢の広がりに対して、私は一定の評価をいたしました。
しかし、一向に、ここに皆さんが移ろうとしない。それはなぜなのかを多くの方々から意見を聞いたり調べたりしましたら、そこの間に大きな壁があったんです。それは何かといえば、我々が再三指摘した「囲い込み策」、「ハードル」が存在したわけであります。要するに、同じ事業者でありながら、例えば、メインからサブに移る時には、多くの手続がいるんです。そして、その間には手数料として1万5,500円かかっているんです。高いプランから低廉のプランに移る時には、複雑な手続と1万5,500円という手数料を取るんです。これでは低廉化に向けた動きに対して、利用者は乗ってこないと思うんです。
一方で、サブブランドからメインブランドに移る時、安い方から高い方へ移るところの優遇策は0円なんです。つまり、むしろ逆に、安い方から高い方に誘導しているような感じがある。そして、もう1個言えるのは、まさに、料金が高いところからどの顧客も出て行かないようにしっかりとした制度設計されているのが今の現状なんです。であるから、「これはいかん」と思って、私は、であるならば、メインブランドの方の価格を下げてもらうしか、国民に実感を持ってもらえないと判断した。それが、私のコメントだったんです。
しかも、サブからメインにいった時は、月額割引で3万5,000円という特典も付くんです。ですから、明らかに低いブランドに移行する推進運動ではなくて、高いブランドにむしろ移す。高いブランドに囲い込みをするスキームを堅持しているのが今の現状なんです。ですから、全然ユーザーの方々が、料金が下がったという実感が湧かない。何の意味もないんです。私はそう思います。
先に解説した通り、武田氏のメインからサブへの乗り換えのハードルがいまだに高いという主張自体は理解できるとして、それをメインブランドの値下げと同時に迫るというのは完全に戦略として破綻している。しかも、このメインとサブに乗り換えるためのハードル云々の話はこれまでにまったく指摘していなかった。順番は前後するが、これを記者に突っ込まれたときのやり取りは以下の通り。
都合の悪いことを聞かれて逆ギレ
Q:自社ブランドの乗換えのハードルを下げれば、メインの価格を下げる必要はないのではないですか。
A:下げていませんから。
Q:いや、下げればです。
A:「下げてから来てください」という感じです。いくら我々が「下げてください」と言っても下げないわけですよね。
Q:それは、ずっと言い続けられてきたということですか。
A:私、記者会見でもずっと言ってるじゃないですか。
Q:10月末の記者会見で、各社とアクション・プランというものに対してしっかり対応していただいているとおっしゃってますよね。
A:それは、新しい選択肢を増やしたという部分なんです。ただ、選択肢に中身がないですよね。そこの間に高いハードルがあるわけですから。ハードルを取っ払ってくださいと。選択の自由をしっかりと確保してくださいと言っているわけですから。
Q:そのハードルがあるっていうことはご存じの上で、対応していただいているというコメントってことですか。
A:いや。ハードルが自由な選択を阻害しているわけですよね。これを取っ払ってくださいと、何度も私は言っているわけです。その上で、初めて新たなるサブブランドが活きてくるわけですから。ハードルを取っ払わない中で、いくらサブブランドを作ったところで意味がないんです。
Q:おっしゃることはわかるんですけど。
A:わかりますよね。
Q:今日そのことの指摘は初めておっしゃいましたから。
A:私は、かねてから言っています。ハードルは取っ払ってくださいと。毎日来ていますか。
Q:来ていますし、各社のプランを評価された会見を。
A:新たなる低廉のプランをきちっと用意したことは評価します。しかし、それは絶対条件として、乗換えのハードルをなくさなければ意味がないということを言いたいのです。
Q:そろそろお時間なので。ありがとうございました。
A:はい。そう理解してください。
どうだろうか。本質的な論点について「(携帯料金を)下げてから来い」と恫喝ではぐらかし、この日初めて言及してきた乗り換えのハードルについても「いつも言ってきた」と強弁する。挙句、質問した記者について「(記者会見には)毎日来てる?」と威圧して「そう理解してください」と捨て台詞を残して去っていく。これが国民の代表として説明責任を負うべき政治家の姿とはとても思えない。はっきり言って、都合の悪いことを指摘されて開き直るガキである。さらに、見ていこう。
武田氏、「誠意を見せろ」と恫喝
Q:関連してお伺いします。同じKDDIの社長のインタビュー記事の中で、国に携帯料金を決める権限はないんだというような発言も載っていました。今、大臣のご説明で、まさに公共の電波を使う事業者ってことを、大臣が、かねがねおっしゃってて、それを意識した対応を求めていらっしゃったと思うんですけども、それも踏まえて、この発言についての受け止め、お願いできればと思います。
A:先ほど申し上げたように、コメントにあえてコメントするというのはいかがなものかと思いますけれども、非常に私はがっかりしたし、残念な思いもいたしました。何度も繰り返しますように、公共の電波を使った事業者が、コロナ禍、国民生活は非常に窮しておるし、その負担が重く大きくのしかかってきているのが現状の中において、相当な利益を上げている。その利益は各家庭の固定費にのしかかる負担の積み重ねなんです。
国が料金を決めるとか決められないというレベルではなくて、公共性の高い事業として、国民に対してどういうサービスを提供しなければいけないのかぐらいは、常識で考えてわかると思うんです。そこのところは、自分の判断で正しい道を歩んでいただきたいと思います。
公共の電波を使っているという立場を十分認識した上で、コロナ禍における社会貢献、日本を代表する企業ですから、利潤を追うのはわかりますけれども、その向こうには人や社会に貢献することが企業のある意味で大きな役割と思いますので、しっかりと実行に移して、国民から信用され、納得のいく制度を生み出して、低廉化を生み出していただきたいと考えています。
市場経済を重んじる資本主義国家である日本の電波行政トップとは思えぬ言葉が武田氏の口から次々に飛び出す。まず、携帯電話料金は認可制ではないため、あくまでも携帯電話事業者の裁量にゆだねられている。にもかかわらず、「公共性の高い事業として、国民に対してどういうサービスを提供しなければいけないのかぐらいは、常識で考えてわかる」「自分の判断で正しい道を歩んでいただきたい」と自主的に値下げするよう、露骨に圧力をかけるのは恫喝以外の何物でもない。なお、上に挙げた質問の直前のやりとりでは「しっかりと誠意を見せて、改める努力をしてもらう」とヤクザばりの「誠意」という文言も使っている。
民間企業の立場からすると、稼ぎ頭であるメインブランドの料金改定は株主の利益に直結するため、合理的な理由が必要になる。携帯大手キャリア幹部は「勝手に料金を値下げした場合、株主から訴訟を受ける可能性が非常に高い」とリスクを警戒するのも当然だ。企業社会の常識を何も理解できていないからこそできる蛮行だと言うべきだろう。
菅・武田こそ電波を私的利用してる
そもそも、ソフトバンクは12月から、KDDIは来年2月からサブブランドのサービスを開始するわけで、サービスを始めてまともな検証もしないうちから文句をつけること自体おかしい。この背景には、菅義偉首相が思ったよりサブブランドのプランに対する世間の評判が芳しくないことによる焦りがある。「桜を見る会への追及が強まるにつれて、とりあえず支持率を稼げるところで稼いでおきたいと考え、携帯料金値下げで成果を上げようとスピードアップを武田氏に要求した」(全国紙政治部記者)というのが本音だろう。
もともと料金プランのことなど大して理解していない菅氏と武田氏の「恫喝コンビ」である。菅氏お得意の電波の許認可権をチラつかせた恫喝と、武田氏の「誠意を見せろ」「常識」「人として正しい道」というヤクザ張りの脅し文句で携帯電話会社がなびくと考えたのであろう。正直言って、相手の都合を何も考えない社会人として恥ずかしいレベルの発想だ。菅・武田両氏が「電波は国民の財産なのに携帯会社は不当に利益を上げている」と主張しているが、電波を支持率向上や実績作りのために私的利用しているのは自分たちではないのか。
この高橋氏の反論記事にもある通り、外国投資家から日本はどうなっているのかと疑問視されているというのも納得だ。筆者が外国人なら政府が企業を恫喝して利益を吐き出させようとするような国は間違ってもカタギの国ではないと感じるだろう。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)