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木下隆之「クルマ激辛定食」

ホンダ、「シビック・タイプR」で世界最速の真意…F1撤退でもスポーツカー開発は続行か

文=木下隆之/レーシングドライバー
ホンダ、「シビック・タイプR」で世界最速の真意…F1撤退でもスポーツカー開発は続行かの画像1
「Honda CIVIC TYPE R」

 本田技研工業(ホンダ)の「シビック・タイプR」にLimited Editionが加わった。とはいうものの量産モデルではなく、たった200台の世界限定であり、販売予約開始とともに即完売。一部の幸運なドライバーのみが、その熱い走りを味わえることになった。

 だが、ホンダは筆者に心温まる機会を与えてくれた。開発テスト用のプロトタイプのステアリングを握らせてくれたのだ。場所は鈴鹿サーキット。ヘルメットやレーシングスーツといったレース用ギアのフルセットの持参を求められた。まるで本格的レーシングカーのテストであるかのような物々しさである。

 コクピットドリルを授かるのにも緊張が走った。そもそも、事前に送られてきた仕様解説書が専門的だった。「タイプR」としての技術解説書に加え、「Limited Edition」としての特別装備が詳細に綴られていたのだ。

 それは、やや難解だった。たとえば「冷却」や「ブレーキ」に関しての記述は、こんな具合である。

「ラジエターの冷却フィンピッチが3.0mmから2.5mmに縮小、外気温25度での最高水温差は-10度」

「高速走行時のブレーキングにおける熱倒れの比較。ヘアピン走行時のブレーキ踏力変化率−18%、シケイン−17%。低減効果−33%と−53%」

 このように詳細な記載は、さらに「空力」や「サスペンション」にも及んでいる。そこでわかるのは、まるでレーシングカーの開発をするかのような細部へのこだわりである。コンマ1秒を削るために、コンマ1mmの改善に挑み、コンマ1度の冷却に取り組んでいるのだ。それはまさに、コンペティションの世界である。

 それも道理で、シビック・タイプRは登録番号のある市販車であり、公道を走ることが許されているとはいうものの、サーキットのラップタイムにはただならぬ情熱を注ぐ。市販車の性能の尺度とされる独ニュルブルクリンクサーキットでの世界最速記録を所持している。フランスのルノーとたび重なる記録の塗り替えがなされており、逆転につぐ逆転により、現在ではシビック・タイプRが「世界最速FFモデル」の称号を手にしているのだ。正しく競争マシンなのである。

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 とはいうものの、公道を走る限り、持て余すことはない。一部のプロドライバーでしか、その驚くほどのラップタイムを叩き出すことはできないが、その気になれば通勤通学に使えなくはない柔軟性がある。

 搭載するエンジンは直列4気筒ターボであり最高出力320PS、最大トルク450Nmを絞り出す。組み合わされるミッションは6速マニュアルである。マニュアルミッションさえ操れれば、日常生活の友になるのが不思議なところだ。

 つまりこれは、ホンダのレーシング魂の具体である。速さへの欲求の形なのである。ホンダは世界F1選手権からの撤退を発表した。2021年を一区切りとして一旦はF1の世界から身を引く。だが、量産メーカーとして、スポーツカーの開発には力を入れ続けるに違いない。その宣言が、シビック・タイプR「Limited Edition」の販売のように思う。

(文=木下隆之/レーシングドライバー)

木下隆之/レーシングドライバー

木下隆之/レーシングドライバー

プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

Instagram:@kinoshita_takayuki_

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