
昨年末の12月26日に、興行収入でついに国内歴代1位となった映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(アニプレックスと東宝発表)。『鬼滅の刃』は、なぜ、ここまでヒットしたのか。さまざまな視点から要因が語られているなか、ここでは『鬼滅の刃』は、いったい、今の日本の人々のどういう気持ちを捉えたのか、消費者心理の視点から見ていくことにしましょう。
女性に支持された『鬼滅の刃』
『鬼滅の刃』は、女性に受け入れられたのが大きな特徴です。映画館に見に行ったとき、目立ったのは母親と子供たち、若い女性のグループ。男女のカップルもいるものの女性二人連れが目につきました。
『鬼滅の刃』は、もともと「少年ジャンプ」(集英社)に連載されたコミック。あの大ヒット作品の『ワンピース』でも、ファンの中心は男性です。では、『鬼滅の刃』は、『ワンピース』にはないどういう魅力があるから、女性の心を捉えられたのでしょうか。
『ワンピース』は「少年ジャンプ」のヒットの三大原則といわれている「友情・努力・勝利」を真正面からとらえた、少年コミックの王道をいく作品です。主人公・ルフィは「海賊王に、おれはなる!」という、ある意味、自らのビジョンを掲げ、その目標に向かって突き進みます。

それに対して、『鬼滅の刃』の主人公・炭次郎が鬼と戦うのは、自分のためではありません。鬼になった妹の禰󠄀豆子(ねずこ)を人間に戻すため、そして世間の人々の命を鬼から守るため、という「利他的」な目標からです。
また、炭次郎は、他者への「共感力」が高い。滅ぼした鬼に対してさえ、「もともとは人間だった。鬼にならねばならなかった事情がある」と思いやり、共感します。作者の吾峠呼世晴氏は、鬼自身の幼少期や心情まで細やかに描いています。
この他者を深く思いやる「共感力」と、自分のためではなく、人のために努力し全力を尽くす主人公の「利他的」な行動。これこそが、女性の支持を集めた最大の要因だと筆者は見ています。映画館でも、「人のため」「人を思いやる」感動的なシーンでは、子供たち以上に、お母さんたち女性のすすり泣く声があちこちから聞こえてきました。
作者の吾峠呼世晴氏は、男性名を名乗っているものの、本当は女性なのではないかといわれている理由も、この女性的な共感力や利他的な行動にありそうです。
コロナ禍の「不寛容」の空気感の中での、「ほっとする」安堵感
新型コロナ禍で、自粛や規制を守らない人たちを取り締まる「自警団」が現れるなど、他者に対して不寛容な時代の空気があります。そもそも、日本では不祥事を起こした人なら、メディアやネット上で袋叩きにしてもよいといった風潮がありますが、コロナ禍でますますその風潮が高まったようです。