ビジネスジャーナル > 社会ニュース > 『鬼滅の刃』登場の「一刀石」の秘密
NEW

『鬼滅の刃』に登場の巨大「一刀石」、なぜ真っ二つに裂けた?「柳生の里」神秘の秘密

文・写真=粟野仁雄/ジャーナリスト
【この記事のキーワード】, ,
『鬼滅の刃』に登場の巨大「一刀石」、なぜ真っ二つに裂けた?「柳生の里」神秘の秘密の画像1
一刀石

「週刊少年ジャンプ」(集英社)連載の超人気漫画『鬼滅の刃』(原作吾峠呼世晴)がついに完結した。直後にアニメ版の製作会社が1億4000万円もの脱税で東京国税局から東京地検に告発されるというオチがついてしまったが――。しかし、小説のほうも日本出版販売株式会社の調べでは、ここ半年の売上は鬼滅の刃のシリーズが1位(『片羽の蝶』)と2位(『しあわせの花』)を独占するなど、人気は一過性ではなさそうだ。

 大正時代が舞台で、人間を襲う鬼と戦う剣豪集団「鬼殺隊」の物語である。朝日新聞は5月27日付けの朝刊「耕論」で「『鬼滅の刃』が映すもの」として3人(椿鬼奴さん=お笑い芸人、福田安佐子さん=ゾンビ研究家、中条省平さん=文学者)に論評させている。

 さて、このアニメで登場した「一刀石」が「剣聖の里」で知られる奈良市北東部の「柳生の里」(奈良市柳生町)にある。新型コロナウイルス騒動で訪問者が消えてしまっていたが、緊急事態宣言解除で再び増えそうだ。奈良交通のバス停の「柳生」から15分ほど南へ歩き、「民宿三浦」で左へ入り山を少し登ると、藪の中に刀で切ったように真っ二つに裂けた約7メートル四方の巨大な石が現れる。立札を読むと戦国時代の剣術、「柳生新陰流」の開祖柳生宗巌(石舟斎)が天狗を退治した時にできたとされる。

「柳生の里」は交通の便が悪いこともあり、普段は年間1500人ほどの観光客だが、『鬼滅の刃』に「一刀石」が登場した昨夏頃から、刀を振りかざす格好をした若者が写真をSNSで拡散し、全国に知られるようになった。コスプレ撮影などのため「どう行くのですか?」と問い合わせが柳生観光協会に殺到した。協会の三浦孝造会長は「1971年の大河ドラマ『春の坂道』(原作山岡荘八)や『武蔵MUSASHI』(03年・原作吉川英治)で柳生一族が修業の場にした戸岩谷がブームになりました(史実では宮本武蔵は訪れていない)。それ以来の賑わいですが漫画を慌てて読みましたよ」と驚く。コスプレ撮影の団体申し込みもあり、「終日千円」で着替え場所も提供していた。

 樹木が鬱蒼と茂り「一刀石」の周囲は神秘的だ。現場にはプラスチックの刀が置いてある。5月末の筆者の訪問時は親子連れが訪れており、子供が巨石に上っていた。連れて行った愛犬「流星」は和犬の甲斐犬。神戸は全然似合わないが、奈良県の山間部のこの地にはピッタリ。いつもよりも生き生きとした表情で筆者を引っ張る。とりわけ一刀石はよほど気に入ったのか、「この石の番犬になりたい」と訴えるかのように巨石の前にペタンと座り込んで落ち着いてしまった(冒頭の写真)。すぐ近くで巨石が垂直に立つ天乃岩立神社も精神が清められる。  

 なぜ「一刀石」は大きな裂け目ができ、その後長年、こんなにきれいな形で残っているのだろうか。三浦さんが説明してくれる。

「このあたりは奈良市とはいえ、冬は市街地よりもずっと冷え込みます。冬場に浸みた雨水が凍って膨張した結果ですが、いつ頃裂けたかは不明。普通なら最初こそ、きれいに割れても雨や地震などで動いてずれてしまう。ところが一刀石は巨大な岩に乗っているため、約30センチの隙間を保っているようです」

映画化された柳生十兵衛

「天狗を退治した」柳生宗巌の息子は、徳川秀忠や家光の兵法指南役だった宗矩(むねのり)である。その息子三厳は「十兵衛」の名で知られ小説、映画などで人気役となった。三浦会長は「柳生十兵衛は丹下左膳のように隻眼ですが刀を30センチの距離でかわす剣の達人とされる。でも本当に片目なら距離感が鈍り無理でしょうね。『柳生武芸帳』などを書いた作家の五味康祐さんの発案らしい」と話す。

 よく知られるのが1978年の東宝映画『柳生一族の陰謀』だ。徳川の三代目将軍位争奪をめぐる剣豪集団の闘争劇だ。千葉真一が十兵衛、萬屋錦之介が宗矩、松方弘樹が徳川家光を演じた。最近、新作のテレビドラマも放送された。

 筆者はそれよりも、シトシトピッチャンの曲で知られる『子連れ狼』(原作小池一夫)が印象的だった。柳生家は悪役だ。

 剣術水鴎流の達人、拝一刀(おがみ・いっとう)は、柳生烈堂が率いる柳生一族の手により妻を殺され、公儀介錯人の職も奪われた。幼い息子大五郎と共に刺客としてさすらう復讐の旅物語である。若山富三郎主演の映画もあったが、1973年に日本テレビで筆者が見ていたのは、萬屋錦之介が主演したテレビドラマ版。『子連れ狼』では最後の死闘で柳生烈堂が拝一刀を倒したが、その直後、大五郎が槍を持って烈堂に突進して突き殺すところで物語は終わる。このテレビドラマ、最後の頃は、大五郎の乳母車からマシンガンが発射されるのでやや白けてしまったが、錦之介は抜群にかっこよかった。

 さて、敵役だった柳生烈堂(三浦さんによれば漢字は「列堂」が正しい)は実在人物である。柳生宗矩の四男で、「柳生の里」にある臨済宗芳徳禅寺の初代住職でもあった。「義仙」と名乗った。芳徳禅寺の近くで歴代の住職の墓が集められた場所に列堂の墓があった。「柳生一族の墓」も近くにある。

 作家山岡荘八の自宅でもあった「旧柳生藩家老屋敷」など見どころ一杯の「柳生の里」から、「剣豪の道」は2時間半ほど山道や畑の畔道を歩く。たどり着いた円成寺には、鎌倉時代の仏師運慶がつくった国宝「大日如来坐像」がある。拝観料は500円だが素晴らしい庭だけなら無料だ。近鉄奈良駅から円成寺そばの停留所を通って「柳生の里」方面へ行く奈良交通のバスがあるが、本数が少ないので要注意。問い合わせは柳生観光協会(0742-94-0002)。

『鬼滅の刃』に登場の巨大「一刀石」、なぜ真っ二つに裂けた?「柳生の里」神秘の秘密の画像2
柳生烈堂(列堂)の墓

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

『鬼滅の刃』に登場の巨大「一刀石」、なぜ真っ二つに裂けた?「柳生の里」神秘の秘密のページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!