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伊藤忠と子会社ファミマ、社長“同時交代”の舞台裏…有力店の獲得狙うセブンの脅威

文=編集部
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伊藤忠東京本社(「Wikipedia」より/Rs1421)

 コンビニエンスストア業界2位のファミリーマートは、3月1日付で伊藤忠商事の細見研介執行役員(58)が社長に就く。澤田貴司社長(63)は代表権のある副会長。高柳浩二会長(69)は代表権のない会長を続ける。

 ファミマは2020年11月、伊藤忠商事の完全子会社となった。伊藤忠はDX(デジタルトランスフォーメーション)改革を担う“エース”である細見氏を送り込み、デジタル技術を活用した店舗運営の省力化によってコストを削減し、同時に新サービスの開発を進め、収益の改善を図る。

 細見氏は1986年、神戸大学経営学部を卒業し伊藤忠に入社。岡藤正広・伊藤忠商事会長最高経営責任者(CEO)と同じ繊維出身でマーケティングにも精通している。

「岡藤会長の“秘蔵っ子”と呼ばれている。おしゃれなところも岡藤さんにそっくり。いかにも関西人という風貌だ」(伊藤忠関係者)

 細見氏は2019年7月に新設された第8カンパニーのプレジデントだ。伊藤忠はカンパニー制に移行して20年以上たつが、新たなカンパニーが岡藤氏の肝煎りでつくられた。第8カンパニーはファミマをはじめとする小売り関連のグループ会社を束ねる。米アマゾン・ドット・コムを仮想敵としている。日本法人のアマゾンジャパンは、食品スーパー大手ライフコーポレーションと協業に乗り出し、ネットとリアル店舗を結びつけて稼ぐ「O2O(オンライン・トゥ・オフライン)」と呼ばれるマーケティング戦略に経営資源を投入している。

 アマゾンのような巨大IT企業がリアル店舗のノウハウを蓄積すれば総合商社の出番がなくなるという危機感を岡藤氏は募らせている。機械カンパニーは600人の人員を擁するが、第8カンパニーはわずか40人。40人で機械の半分の利益を稼ぐ「一騎当千の精鋭だ」(前出・伊藤忠関係者)。デジタル戦略、海外戦略、商品・サービスなどを担当するゼネラルマネージャーを置き、カンパニーにまたがる案件に臨機応変に対応するアメーバ的な組織だ。その第8カンパニーのトップである細見氏をファミマの社長に送り込む。

ファミマ経営の建て直し

 コンビニは阪神淡路大震災や東日本大震災の際に被災地の商品供給を支え、有事に強いとみられていた。しかし、コロナ禍では顧客の消費行動の変化に翻弄された。はやる店は都心から郊外に移り、都心部に店舗が多いファミマは来店客減少による売上減で苦戦を強いられた。業界首位のセブン-イレブン・ジャパンとは差が開いている。

 細見社長は「嵐の中の船出。『稼ぐ・削る・防ぐ』の観点から整理する」と話す。「稼ぐ、削る、防ぐ」は岡藤CEOの持論。社長お披露目の記者会見で、しれっと岡藤CEOの言葉を引用してみせた。岡藤氏に傾倒していることを態度で示すあたり、只者(ただもの)ではない。

 細見氏が最初に実行するのは、「削る」部分にあたるグループ全体でのサプライチェーン(供給網)再構築だ。細見氏がデジタル化を重視する背景には、伊藤忠での経験がある。30年携わった繊維業界はデジタル化で先鞭をつけた。

「問題は、サークルK・サンクスからファミリーマートに変わったフランチャイズ店、約5000店が今年後半から23年にかけて契約更新時期を迎えること。セブンなどが一本釣りを狙っている有力店の脱落をどうやって食い止めるかにかかっている」(小売業担当アナリスト)

 細見氏は「伊藤忠の将来の社長候補のひとり」といわれている。ファミマ経営の建て直しに成功すれば、伊藤忠に凱旋して本社の社長になる芽もある。ただ、第8カンパニーでの小売業経験は、「畳の上の水練」(ファミマ関係者)。荒波に抗して泳ぎきるのは並大抵のことではない。「総合商社出身者が小売りのトップで成功したためしがない」という業界のジンクスを打ち破ることができるのか、関心が集まる。

岡藤CEOの経営、総仕上げへ

 一方、親会社の伊藤忠商事は4月1日付で石井敬太専務執行役員(60)が社長最高執行責任者(COO)に昇格する。鈴木善久社長COO(65)は代表権のない副会長。岡藤正広会長CEO(71)は続投する。鈴木氏は3年で交代するが、2月5日付日経産業新聞は次のように報じている。

<「実質的にはCSO(最高戦略責任者)限定の社長の名刺を使う方が何かと便利やろ。そやから社長をやってくれ」。岡藤氏はこんな言葉で鈴木氏に社長交代を告げた。(中略)あくまで経営トップは岡藤氏。それを明確にするためにCEO、COOを導入した>

<実はこの時、もうひとつの取り決めがあった。新設する社長COOの年齢は65歳を上限とするとの内規だ。会長CEOには年齢制限はない。つまり、この時点で62歳だった鈴木氏は「長くて3年」と決まっていたのだが、内々にはさらに短く、2年のはずだった>

 しかし、伊藤忠社内には「岡藤さんは鈴木社長に物足りなさを感じていた」(伊藤忠の幹部)との辛辣な鈴木評がある。

「岡藤さんが太陽なら、鈴木さんは月。それも新月だった」(別の幹部)

 石井氏は1983年、早稲田大学法学部を卒業、伊藤忠商事に入社。化学品部門の出身。エネルギーや化学品部門のトップを務めており、蓄電池や太陽光発電といった脱炭素に向けた事業に力を入れてきた。オンライン記者会見で石井氏は「新しい価値観をつかみ、常識を超えたビジネスモデルをつくりたい」と抱負を述べた。石井氏は高校時代、大阪・花園で戦ったラガーマンである。脱炭素や再生可能エネルギーの分野は新たな収益の柱として期待がかかる。

「稼がなければ岡藤CEOのお眼鏡にかなわない」(グループ会社のトップ)

 岡藤CEOが及第点をつければ最長5年はやれる。一連のトップ人事は岡藤氏が経営の総仕上げに入ったことを意味する。伊藤忠本体と戦略子会社ファミマの社長を交代させ、コロナ後の新しい時代のトップ商社の地位を盤石なものにするのが狙いだ。細見、石井の2人の新社長の年齢差は2歳しかない。「石井政権は短命になるのではないか」(別のグループ企業のトップ)との見方もある。

(文=編集部)

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