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「紀州のドン・ファン」殺人事件の背景にあった数々の疑念と毒女の欲望【沖田臥竜コラム】

文=沖田臥竜/作家
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早貴容疑者を移送した際の羽田空港の様子

2018年5月24日、「紀州のドンファン」との異名をとった会社社長、野崎幸助さん(当時・77)を、致死量の覚醒剤を摂取させ、急性覚醒剤中毒により殺害した疑いが強まったとして、殺人と覚せい剤取締法違反容疑で野崎さんの元妻である須藤早貴容疑者が逮捕された。発生から3年、犯人逮捕に至ったその背景を、事件をウォッチし続けてきた作家・沖田臥竜氏が振り返る――。

22歳の小娘と、疑われた2人の人物

 我々は女を22歳(事件当時)の小娘と、少しばかり侮っていたのかもしれない。早貴は、本物の毒女だったのではないか。彼女が逮捕された今、そう思う人は少なくないはずだ。

 事件が起きたのは2018年5月だが、その夏には犯人を括るという情報が業界内で流れ、慌ただしくなっていた。当時から、容疑者として捜査線上に浮上していたのが早貴であった。ただ、事件発生当初、他に疑惑の目が向けられた人物が2人存在している。マスコミから「番頭」と称されていた野崎さんの会社の社員と野崎家の家政婦さんであった。

 憶測は、さらにさまざまな妄想を膨らませることになった。

 なんせ早貴は、まだ22歳なのだ。資産を相続するために、小娘が自らの意思で、足がつかない形で大量の覚醒剤を飲ませ、殺すなんていうことが果たしてできるのか。こうした疑念が、誰しもの推測を鈍らせていた。結果、当局も慎重を期さざるを得なくなった。そこで消去法的な捜査により、さまざまな可能性と疑惑が浮かんでは、潰され消えていくことになった。

 結果、必然として時間を要し、夏だと囁かれていたXデーも藻屑と消えていくことになる。

 一方で、消えない仮説も存在し続けていた。それは、小娘の背後には必ず黒幕がいるはずだというものだ。そして、その疑惑の目は、番頭と家政婦さんに根強く向けられることにもなる。だが、取材した誰しもがひとつの結論に導かれていったのだった。

 ー2人ともシロだー

 まず家政婦さんだが、一時その周辺に覚醒剤に関与する人物がいたのではないか。そこから覚醒剤を入手して、早貴と一連托生で、野崎さんの殺害を企てたのではないかと筋読みされたのだった。さらに、現実と妄想が混同し、家政婦さんの夫には覚醒剤の逮捕歴があるようだというデマすら流布してしまったのである。

 実際には夫ではなく、家政婦さんが手伝っていた飲食店の実質的オーナーが、過去に覚醒剤で逮捕されたことがあり、執行猶予の有罪判決を受けたというものだった。

 では、この実質的オーナーが事件に関与した線はないのか。だが、この疑念を裏付ける事実はなかった。彼に覚醒剤による逮捕歴があったのは事実だったが、だからといって早貴とは繋がりもなければ、野崎さんを殺害する動機もなかった。ちなみに実質的オーナーは、俳優や監督といった活動もしており、かつ亡き父親は誰しもが知る大物役者。つまりサラブレッドだったのだ。

 そして、家政婦さんが患っていた病。ここではあえて詳細には触れないが、そうした事情を照らし合わせれば、否が応でも家政婦さんが、事件に関与していないことが説明できたのだ。

 次に、「番頭」と呼ばれていた人物だ。野崎さん宅にこの家政婦さんを派遣していたのが、この番頭だった。もしかすると、全てのストーリーは番頭が描いたものではないかという見方も出てきた。くどいようだが、22歳だった早貴が単独で行える犯行ではないと考えられたのだ。

 実際、番頭のもとにも、各メディアが殺到することになった。家政婦さんが亡くなったのではないかと噂になった際には、どこの記者もこの番頭に問い合わせたほどだ。だが、番頭にも動機がなく、事件への関与を匂わせる物的証拠も状況証拠は微塵もなかった。

 結果、事件は次第に風化されることになったのだった。

過去ら見える容疑者のメンタリティ

 それが再びざわつき始めたのは、2カ月前あたりからだった。

 テレビにも出るような有名ホストが携わるホストクラブで早貴が豪遊しているなど、一部のマスコミが東京にいる早貴の身辺を洗い出したのだ。それは当局の動きを察知してのことだったのだろう。

 そして、関係者らの間で囁かれ始めたのが、「ゴールデンウィーク明けにも和歌山が動く」。つまり早貴が逮捕されるという見方だった。だが、それが28日、ゴールデンウィークに入る直前に当局は動いた。和歌山県警サイドは、入念な捜査の結果、早貴の単独犯という確信を強めたのだった。

 事件直後から、早貴が「自分の願望を叶えるためなら、物事に躊躇しない人物」というイメージが持たれていたことは確かだろう。それは一部で報じられていた早貴の元AV女優説も関係しているのかもしれない。厳密にいえば、早貴は元AV女優ではない。一度だけAVに出演したことがあっただけだ。ここがひっかかった。AVに出るとなると、普通はさまざまな葛藤や迷いが生じるはずだ。それをお金欲しさにたやすく出演してみせている。そこから吹っ切れてAV女優になるのなら、まだ理解ができる。仕事だと割り切ってやっていると考えられるからだ。だが、早貴は違った。

 AVに出るような女性だから云々という偏見を持つべきではない。だが、事件につながる早貴の人格やメンタリティが垣間見える過去と捉えられたのは事実だろう。早貴という人物は、短絡的で貞操観念が欠落しており、思い立ったら大胆は行動も厭わない。それが事件にも繋がっているのではないかと考えられていくのである。自身の欲求を満たすためなら何でもする、まさに「毒女」と言わんばかりにだ。

 では、早貴は本当に犯人であり、警察は有罪に持ち込めるのか。当局は現在のところを、認否を明らかにしていない。今後、早貴の供述が重要になるのは間違いないが、彼女がたやすくカンオチするとは考えられない。物的証拠は出ていないのだ。それを踏まえて、県警は早貴が覚醒剤の売人と接触した確証をとり、本件である殺人罪で起訴できなくとも、簡単には身柄を離すことなく、覚せい剤取締法違反の罪で起訴し、そのまま本件の取調べを続けていく算段だろう。

 事件はまだ終わっていない。

(文=沖田臥竜/作家)

沖田臥竜/作家

沖田臥竜/作家

作家。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)はドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

Twitter:@pinlkiai

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