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建設アスベスト訴訟 最高裁が「前進判決」

菅首相が直接、遺族らに謝罪

「最愛のご家族を失った悲しみについて察するに余りあり、言葉もありません。責任を痛感し(中略)皆さんに心よりお詫び申し上げます」

 5月18日午前、菅義偉首相は首相官邸を訪れた原告団代表らに深々と頭を下げた。宮島和男原告団長(91)=首都圏訴訟=は直後に参議院会館で行われた報告会で「忙しい公務にも総理は一人ひとりに謝罪してくださった」と感激の様子。埼玉県の大坂春子さんは一家で大工仕事をしていたが、夫の金雄さんと息子の誠さんを中皮腫で失った。この日「今日までは許せないという気持ちでしたが、丁寧な言葉で謝ってもらったので、夫や子供に報告できる」と感謝した。

 この日夜、田村憲久厚労相は宮島団長との間で、最大1300万円の和解金と補償基金創設などを盛った基本合意書に調印した。田村氏も原告団に丁重に謝罪し、退室の際も宮島団長に駆け寄って頭を下げていた。

 アスベスト対策は司法の場から政治の場に大きく移ったといってよい。今後も新たな提訴が控えているとはいえ、前日の最高裁の司法判断は公害関連の判断として異例の「未提訴の人たち」の救済も提示したからである。基本合意書は今年結成された与党のプロジェクトチーム(野田毅座長)が腐心したものだった。

 アスベストを含む建材を扱い、中皮腫や肺がんなどで死亡した労働者の遺族や患者らが国や建材メーカーを相手に損害賠償を求めていた神奈川、東京(埼玉県、千葉県を含む)、京都、大阪の集団訴訟について5月17日、最高裁第一小法廷で初めての統一判決があった。個別には上告した一部原告に賠償などを認めており、最高裁の見解が注目されていたなか、深山卓也裁判長は国とメーカーに厳しい判断を示した。

 判決では、アスベストに関する規則(特定化学物質等障害予防規則)を改正した1975年10月から改正労働安全衛生法が施行される直前の2004年9月までの間、国は防塵マスクを指導するなどの規制を怠ったと断罪した。また、石綿含有建材のメーカーにも「共同不法行為」として賠償を命じた。 

 さらに独立した大工などの「一人親方」や未提訴の人も救済対象とした。小野寺利孝弁護団長は「これまでは敵だった国でしたが、今後は共同して被害者を救済することになるはず。立法府も先送りせずに今国会で決める異例のスピードで進めてくれた」と評価した。

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宮島原告団長に謝罪する田村厚労相

屋外労働は救済の対象外

 しかし、原告の完全勝利ではない。屋外労働については「アスベスト粉塵が希釈される」などの理由で救済対象から外れた。大阪訴訟の原告で夫の晃三さんを肺がんで失った山本百合子さん(72)は大阪高裁判決から逆転敗訴となってしまった。

「夫は積水ハウス製の瓦(スレート瓦のこと)を切断する仕事で毎日粉を浴びて体じゅう真っ白でした。アスベストに関係がないはずがない。同じ仕事をして、どうして屋外と屋内を差別するのですか。夫の墓前にどう報告したらいいのか」(山本さん) 

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