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“猫の島”沖島、なぜ大量の猫たちは忽然と姿を消したのか?女性二人組が持ち出した?

写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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“猫の島”沖島、なぜ大量の猫たちは忽然と姿を消したのか?女性二人組が持ち出した?の画像1
沖島で見かけた猫

 滋賀県の琵琶湖の東側湖上に周囲約6.8キロ、面積約1.5平方キロ、人口240人ほどの小さな島「沖島」がある。日本で唯一の人が住む湖上の島である。それどころか、世界的にも湖上の島に人が住んでいるというのは極めて珍しく、カナダなど4カ所しかないという。学術的にも貴重な島である。

 湖で漁業を営む人が大半だ。島内に小学校が一つあるが、島から通う生徒はたった一人。対岸の堀切新港(近江八幡市)を結ぶ連絡船「おきしま」が日常の足である。島に車は一台も走っておらず、ミニバイクが少しあるだけという。

 さて、この島は以前、著名な動物写真家の岩合光昭氏が写真集で紹介し、「猫の島」として知られるようになり、ブームとなって多くの来訪者がネットなどに投稿してきた。

 筆者は6月5日(土)に訪ねた。正午過ぎの船に乗って10分ほどで沖島に着く。片道500円。過疎化で高齢化しているが、島内の「足」は、三輪型の自転車が目立つ。後ろの籠に魚や野菜などをたっぷり載せて「よっこらしょ」とペダルを漕ぎ出し、元気に走っている。

 お目当ての猫は下船直後に1匹だけ見かけたが、あとでいくらも写真は撮れると思い、「見晴らし広場」を目指して山の中のほうに入っていた。ところが山を下りて海際に戻っても、ちっとも猫はいない。沖島漁港へ戻る途中、年配女性が立派な鯉を包丁でさばいていたが、猫一匹寄ってこない。

「猫、ちっともいないですね」と話すと、一緒にいた女性住民が驚くような話をした。

「どうも、この春、3月ごろだったかに、可愛い子猫をたくさん持って行ってしまった人がいるんです。50歳代くらいの2人の女性です。箱に二段にして入れて連絡船で島の外に持ち出したみたい。自然の猫ですから、年によっては繁殖数が少ないこともありますが、あれで猫がほとんどいなくなったみたい。売り物になるような高価な猫でもなく、普通の野良猫なんですけど、どうするんでしょうね」

 島も近江八幡市も猫を売りに観光しているわけではないが、空前の猫ブームのなか、やはり猫は沖島の魅力の一つだった。「持ち出し」の目撃者は多いようだ。「再び船で島に来た女性に、島の女の人が『あんた、また猫取りにきたんやろ』と言ってから、来なくなったみたいです」。鯉をさばいていた女性も、「夕方暗くなりかけたころに、女の人が何か探しているようなのを何度か見かけた。何してるのかなあと思っていた」。住民なら島民以外の人がいればすぐわかる。

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沖島漁港

 午後2時の船はとても無理で、4時の船に乗って堀切新港に戻ることにした。このため、かなり長時間、小さな島にいたが結局、猫は3匹しか見かけなかった。若い2人連れの女性も「5匹くらいかなあ。猫島って聞いてたけど、あんまりいない」と話していた。

 ゆっくり撮影できた猫は、若いカップルになついていた1匹だけだった。帰りの「おきしま」で船長に「猫、全然いませんね」と言うと「持っていきおる(いく)奴がおるんや」と吐き捨てるように言った。愛犬(流星・甲斐犬)を待たせていた駐車場横の店で、酢漬けの魚などを買った。応対した店の女性は知らなかったが、奥に居た女性が「猫を持ち出す女の人がいる」と話していた。女性二人組が持ち出したのは間違いなさそうだ。

 島民は猫を飼ったり、餌付けなどもしていないという。基本的には山で昆虫などを食べている、まさに本当の野生の野良猫なのである。

島民には寄り付かず観光客に寄りつく猫たち

 持ち出した女たちは、その猫たちをどうしているのか、可愛がっているのだろうか。天然記念物でも誰かの所有物でもないから、勝手に持ち出しても法に触れるわけでもない。「沖島町離島振興推進協議会」の女性は「島の人は都会の地域猫のように猫を扱っているわけでもない。餌付けもしないから猫は島民にはちっとも寄り付かない。でも観光客には寄っていくんですね。女の人が持ち去ったという話は聞いていますが、『病気になったりしている猫がいて可哀そうだから、持ち出して治療してあげると言ってた』という噂も聞きます」という。

 琵琶湖では近年、ブルーギルやブラックバスが在来種の魚やエビを駆逐してしまい、漁業者を苦しめて問題になっている。しかし聞けば、外来種を『よそものコロッケ』という特産にしてしまったというから、島のおばあちゃんたちは逞しい。 

 近江八幡市の文化観光課では「車もないし、猫にとって安全で住みやすい島だったはず。SNSなどで話題になり来る人が増えていた。島は猫で町興ししているわけでないけど、持ち出している人がいるなんていう話は初めて聞いた」と話す。猫を持ち出されて島民が苦情を言っているわけでもなさそうだ。沖島漁業協同組合の男性は「たくさんやったかどうかは知らんが、女が子猫を何匹か持ち出していたという話は聞いてる。持っていってどうするんやろ。猫はときどき、漁船や連絡船に勝手に乗って島から出ていってしまうこともある。もともと、うじゃうじゃ猫がいたわけでもないけど」と、さほど気にしない様子だ。「猫島」のニックネームがついたとはいえ、愛媛県の青島や宮城県石巻市の田代島のように、「うじゃうじゃ」といるわけではなく、多い時で数十匹という。

 沖島は昭和の中頃には800人ほど住んでいたが、過疎化が進み、現在は240人ほどだ。高齢者が多いこの島では、滋賀県がまっさきに住民にコロナワクチン接種をしていた。

 2013年、島は活性化のための離島振興対策実施地域に国によって指定され、島民らが「沖島町離島振興推進協議会」を結成した。島の野菜や魚やエビを加工した島限定の手作り弁当「沖島めし」も販売している。同協議会の女性は「以前は猫が話題になって中国の人なんかもたくさん来ていました。コロナ騒動でいなくなってしまって寂しい。名物の鮒ずしはもちろん、これからはアユ、エビもおいしい季節です。ぜひ遊びに来てください」と話す。

 島の人たちが猫を餌付けしていれば、もっと頭数は増えたのかもしれないが、猫は漁業者にとってあまり好ましい存在でもない。とはいえ、餌付けもしない姿こそ、野生ネコと人間の真の意味で「自然な共存」の姿なのだろう。とりあえずは自然繁殖で猫が増えることを楽しみに待とう。沖島の情報は「沖島町離島振興推進協議会」(0748-33―9779)まで。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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