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元ヤクザの戸惑いと笑いを描いたドラマ『ムショぼけ』の熱狂【沖田臥竜コラム】

文=沖田臥竜/作家
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小説『ムショぼけ』

 自分は「元ヤクザ」という肩書が嫌で嫌でしかたなかった。できれば、それを世間に晒したくはなかった。だけど、物書きとして身を立てようと決心した自分に、最初に担当としてついた某サイトの編集長は「それで売り出さないと、あなたに価値はない!」くらいの勢いで言い寄られた。

 内心では「このバカは何を言っているだ。オレは肩書でなく、文章で勝負するんだ」と思いつつ、当時、出版業界の知り合いはその編集長しかおらず、結局は彼のなすがままに、元ヤクザの肩書で、ヤクザをテーマにした文章を書きまくった。

 結果、そいつのおかげで今があるのだ。ありがとう!……なんてことは、120%思っていない。その編集長ではなく、今、付き合いができている出版関係者たちと知り合っていれば、今より3年早く、さまざまなことが進んでいただろう。ちなみにオチとしては、その後、編集長自身がサイトをクビになるおバカっぷりだった。

 ただ、彼のお陰で、出版業界の厳しさを知ることはできた。書いた原稿を塩漬けにされたり、無用な接待を半ば強制さたりと、受けなくても良い洗礼を受けさせられることになったのは、その後、この世界を行きていく上で勉強になったと、かろうじて言えるかもしれない。

 そして、そんな時期を経て、今回、ひとつの節目に到達したのだ。

 20数年前、ペンを武器に世に出てやろうと思った瞬間から、思い描いてきた未来があった。それは自分の書いた物語の映像化である。それが叶ったのだ。

 タイトルは『ムショぼけ』。小説が9月7日に小学館から発売され、同作を原作とした連続ドラマが10月より、朝日放送とテレビ神奈川で放映される。

 14年もの服役を経て、ムショぼけになった元ヤクザを主人公にした物語だ。「ムショぼけ」とは、長年の刑務所暮らしのせいで、出所後、社会に馴染めず、世の中の変化やスピードについていけない現象を指す。もちろん、すべてではないが、自身の体験も盛り込んでいる。嫌いだった「元ヤクザ」の経験が生きていることは間違いない。といっても、あの編集長に感謝することはないが。

 これまでを振り返っても、物書きとしての仕事のほかに、映画『ヤクザと家族』やドラマ『全裸監督2』などの国内作品だけでなく、大作のハリウッドドラマ(まだ情報解禁前である)といった映像作品の監修なんかも、どさくさに紛れてやってきた。

 それはそれで、他人事のように「すげえな~」と感じたりもするのだが、その反面、まだまだだと言い続けてきた。結局、いつになっても、自分自身に満足することなんてないのではないだろうか。

 それでも、自分で描き下ろした『ムショぼけ』を大手出版社から出版し、地上波でドラマ化させたことについてだけは、よくやったと初めて自分自身を誇らしく思っている。しかも、ドラマの舞台も撮影地も、地元である兵庫・尼崎にしたのだ。地元への貢献度を考えたら、一度くらい自分を褒めてやってもバチは当たるまい。

 しかし、こんなご時世だ。ドラマ化が決定してからも、コロナ禍の影響をモロに受けて、さまざまなことがあった。その度に、自ら関係各所との交渉に乗り出して、無事撮影に入れるように汗を流し続けた。そして、いざ尼崎でクランクインすると、メインキャストの役者さんたちを送迎するため、自らハンドルを握った。もちろん必要に応じて、演技指導も行った。

 自分で描いた作品だ。絶対に成功させたい。視聴者に面白いと言わせたい。だが、予算も含めてさまざまな制限がある。そんな中で、他の作品と同じく、撮影スタッフだけに任せていては、在京キー局のドラマなどに到底太刀打ちなんてできないと思ったので、ほかでもなく、現場での空気作りを自ら買って出たのだ。

 原作者がそこまで出張るそのやり方が、必ずしも正解だとは言わない。だけど、あの場にいた誰に聞いてもらっても、あんなアツい撮影現場は他ではない……と言ってもらえる自信だけはある。

ドラマの進化形『ムショぼけ』に刮目せよ!

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ドラマ『ムショぼけ』の仲間たちと(左から2番目が筆者)

 オレはオレのままである。いろんなことがあって、ある時に決めたことがあるのだ。それは「失うことを恐れずに、取り繕わないで生きていく」ということだ。

 人間、利害関係において、どうしてもおべんちゃらの一つでも並べたほうがうまくいくことは多いだろう。ときには個性や誇りを殺してもだ。だけど、オレはそれをやめることにしたのである。

 よくよく考えてみたら、自分自身「ムショぼけ」だったような何もないところから、ここまで来ただけでも十分なのだ。それをさらに欲をかいて、自分を殺したところで、得るものなんてあるのか。

 答えは、自分自身で出してる。ただ、そのためには、人の何十倍も努力しなくてはならない。それも生半可の気持ちでは世間には通用しない。要するに、頑張るだけ頑張って、言うべきことはキチンと口に出せる人間になろう、ということなのである。

 周りを見てみろ。ネットでグチグチとやっているだろう。それが当たり前のクソみたいな世の中になっていないか。それならばだ、オレは正々堂々と言いたいことを言う。そこで損しても後悔しても、女々しいといわれるようなことだけはしないと自分自身に言い聞かせたのだ。

 お陰様で、ずいぶんと損もしています……それでも、オレの人間性を知った上で付き合いが続いている人々とは、えげつないほどの絆で結ばれている。

 人生で、燃え尽きたと思える瞬間がいったい何度訪れるだろうか。自分にとっては今回が初めてだった。6月に『ムショぼけ』の撮影がオールアップしたとき、オレは完全に燃え尽きていた。 

 オーディションの応募者の方々まで数えると、ドラマ『ムショぼけ』になんらかの形で携わってくれた人々は、1000人ではきかないだろう。そんなすべての人々のお陰で、20年以上も想い描いていた夢を叶えることができた。本当に感謝しかない。キャストやスタッフの人々が、自分が描きたかった世界を磨き上げてくれているのだ。

 日本のドラマは常に進化し続けているということを、この『ムショぼけ』で世の中に見せつけてやりたい。

 こんな時代だ。息を吸うだけでも息苦しい。せめてドラマ世界だけでも、そんな空気を吹き飛ばし、共に笑い、共に泣ければ本望である。

(文=沖田臥竜/作家)

ドラマ『ムショぼけ』
ABCテレビ(関西)にて、10月3日(日)スタート 毎週日曜23:55〜放送
テレビ神奈川(関東)にて、10月5日(火)スタート 毎週火曜23:00〜放送

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5000万円の報奨金と自らの組をもたせてもらう事を条件に敵対する組織の組長襲撃を実行したヤクザ・陣内宗介(北村有起哉)。懲役覚悟で一世一代の大勝負を遂げたはずだった。しかし……刑務所に入った途端、全ての約束を反故にされた上、挙句の果てに組まで破門されてしまう始末。待っていたのは孤独な刑務所暮らしだけ。ヤクザの地位だけでなく、家族にも見放され、全てを失った陣内。それから14年後……晴れて出所した陣内はカタギの世界で生きていく事を決意するのだが……コンビニのレジ袋は有料!居酒屋は全面禁煙!てかスマホって何や!
14年の歳月で、すっかり様変わりしてしまった世の中に困惑する陣内。そればかりか、壁に向かって直立したり……独り言が多くなったり……長年の刑務所暮らしで染みついたクセがついつい出てしまう。そんな陣内の前に現れた見覚えのある一人の男……「お前は重度のムショぼけや…」それは新たな悪夢の始まりだった。

小説『ムショぼけ』
著作・沖田臥竜/定価・814円(税込)/発行・小学館/9月7日発売

(文=沖田臥竜/作家)

沖田臥竜/作家

沖田臥竜/作家

作家。2014年、アウトローだった自らの経験をもとに物書きとして活動を始め、小説やノンフィクションなど多数の作品を発表。小説『ムショぼけ』(小学館)や小説『インフォーマ』(サイゾー文芸部)はドラマ化もされ話題に。最新刊は『インフォーマ2 ヒット・アンド・アウェイ』(同)。調査やコンサルティングを行う企業の経営者の顔を持つ。

Twitter:@pinlkiai

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