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医学部の感染症科に優先枠、厚労省プランを岩田健太郎医師が批判「実情を全くわかっていない」

文・構成=編集部
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厚生労働省本省庁舎(中央合同庁舎第5号館)(「Wikipedia」より)

 新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う政府対応への批判の声が高まりつつある中、厚生労働省は2023年度にも各大学医学部の感染症科・救急科に優先枠を設けるプランを進めていることがわかった。24日、読売新聞オンラインが記事『【独自】医学部定員に感染症科・救急科の優先枠、23年度にも…専門医を育成』で報じた。

 記事によると厚労省は、今回のコロナ禍で全国的に感染症医が不足したことを受けて、大学医学部の23年度入学者から、感染症科を目指す学生を優先した定員枠を設ける方針なのだという。同省は27日に開かれる有識者会議で了承を得た上で、計画を進める。

 また同記事では「医療機関での感染症医不足は深刻で、『主たる診療科』別の感染症内科医は、42の診療科別区分で38番目となる531人にとどまる。コロナ禍で専門外の医師も感染防止策などに追われているのが現状だ」と同方針策定の背景を説明しているのだが、最前線の感染症医からは疑問の声が上がっている。

岩田健太郎医師「感染症医がどのように生み出されるのか全くわかっていない」

 神戸大学医学部附属病院感染症内科の岩田健太郎医師は同日、この記事を引用しながら次のように投稿した。

「思いつき感がすごすぎる。絶対にやめたほうが良い。感染症医がどういうものか全く理解していないプラン」(原文ママ、以下同)

「むしろ感染症医でいることのインセンティブをつけたほうがよい。救急も同様。米国では救急人気が落ちたときに労働時間をぐっと減らして例えば週3回勤務にし、給料もキープして、ライフスタイルに合致した職種として人気を取り戻した」

「感染症で言えばコンサルへの診療報酬。加算では素人を当てて『やったふり』になる。プロの仕事への対価が無ければプロは増えない」

 当編集部では、この投稿に関して岩田医師にさらに見解を聞いた。岩田医師は厚労省のプランに関して次のように疑問を呈した。

「おそらく地域医療を充実させるための大学医学部の『地域枠』という制度の延長で考えられたプランではないかと思われます。第1に学生が、『自分は感染症医になる』という強いインセンティブをもって医学部に入るのかという点です。多くの学生は自分が医者としてコミュニティーや患者さんに貢献できるかということで医学部に入り、いろいろ勉強して、最終的に感染症という選択肢を選ぶことになるわけです。感染症医という専門領域を選ぶことは“結果”であって、“目的”ではないのです。

 加えて、感染症専門医は医学の全体像が見えないとできません。一部で言われているように『細菌と抗生物質の知識があればできる』わけではないのです。感染症に見えても、そうではない病気はたくさんあります。コロナでは、呼吸とか血圧、腎臓などの管理ができてはじめて対応ができる医師になれるのです。

 少なくとも感染症科の医師は救急医療や集中治療室、内科全般などいろいろなトレーニング受けて、最終的にサブスペシャリティーとして就く仕事です。ホルモンや血圧、血糖値の異常などに対応できるようになり、患者さん全体を見られるようになって初めて感染症医としてのトレーニングを受けるものなのです。

 入学時点で感染症のトラックに行くというのは、そもそも感染症医がどのように生まれているのかわかっていないのではないでしょうか。

 例えば、プロ野球選手を養成する時に最初から“指名打者”になるように育成することがあるのかということです。どれほど熱心な小学生でも、最初から『指名打者』を目指して野球に取り組むことはあり得ません。感染症医の実情を知らない思いつきにしか見えません」

厚労省関係者「官邸筋から発破をかけられたのでは」

 また、今回のプランには厚労省関係者からも疑問の声が聞かれた。かつて厚労省に出向していた元医療系技官は次のように語る。

「とにかく政府や厚労省に足りないのは、岩田先生をはじめ現場の声をちゃんと拾うという姿勢だと思いますよ。だから、打ち出す政策がいずれも、おざなり感がぬぐえないのです。一連のコロナ対策への世論の反発もあって、『成果が目に見えるような政策を出せ』などと、首相官邸に近い省内上層部が発破をかけたのではないでしょうか。

 感染症医も含めたプロフェッショナルを育成し、日本国内でそれぞれの分野のプロを一定数維持する時間と予算をしっかり確保する強い覚悟が政府には必要だと思います。岩田先生がおっしゃる通り、有事に備えて現場のプロをしっかり“遇する”環境整備からはじめなければいけないのではないでしょうか。

 平時では“ムダ扱い”をしておいて、取り返しがつかなくなってから“数だけ増せばいい”というのはいかがなものかと思います。感染症分野で言えば、以前から日本国内の医療体制の脆弱性が指摘されていたのに、厚労省は『水際対策や防疫でなんとかなる』などと、長らく放置してきました。今回のコロナ禍は、そうした国としての油断を反省する機会とすべきでしょう。普段は目立なくても、国民の生命と健康を守るために絶対に必要な備えはあるのです」
(文・構成=編集部)  

BusinessJournal編集部

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