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表現規制論議と作品の「おもしろさ」の相関とは…漫画家、赤松健氏インタビュー(後編)

構成=T-PRESS編集部、取材協力=赤松健/漫画家
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表現規制やクリエイターの著作権問題に関し語る漫画家、赤松健氏
表現規制やクリエイターの著作権問題に関し語る漫画家、赤松健氏

 衆議院議員選挙での一部政党による「非実在青少年ポルノ」の規制に言及した選挙公約、千葉県松戸市の〝ご当地Vチューバー〟「戸定梨香」の千葉県警PR動画問題など、昨年はインターネット上を中心に「表現のあり方」が問われた。前回に引き続き、漫画『ラブひな』『魔法先生ネギま!』『UQ HOLDER!』(いずれも講談社)の作者であり、日本漫画家協会常務理事・表現の自由を守る会最高顧問の赤松健氏に“規制論議”の背景や、著作権をめぐる海賊版と2次創作の問題、政界進出の意図を聞いた。

規制論議と「作品のおもしろさ」の関係

――表現規制の問題はつまるところ、すべての当事者が議論をし続けて、「落としどころ」を探っていくしかないのかもしれません。

赤松健氏(以下、赤松) アニメ版『鬼滅の刃』の遊廓編が始まり、ヒロインの1人である禰豆子も、途中で成長し胸が大きくなったり、手足を切られたりするシーンがあったためか、海外で物議をかもしたようです。

 しかし意外なことに、作品はおもしろければ見られます。『鬼滅』もめちゃくちゃ面白いから、美少女の首を切ってもなぜか批判は少ないです。『進撃の巨人』も残酷シーンはありますが、「規制をしろ」という声をあまり聞きません。

 だからという訳ではないですが、クリエイターとしては、やはり「面白いものをつくらなければいけない」という使命感はあります。表現の自由に面白さやつまらなさは関係ないのですが、より面白ければみんな守り甲斐がありますよね。

 もう一つはエビデンスがない、科学的でも法的でもない“お気持ち”だけで規制しようという人々に対し、我々クリエイターが率先して、適切な反論をしていく必要があると思うのです。それは国内だけではなく、海外に対しても同様です。

――自分の作品がネット上で炎上し、批判的なコメントが殺到するとクリエイターは委縮してしまいがちです。また特に海外から批判があると、日本人は過敏に反応するところがあります。国連は加盟国の意見や利害を調整、議論する場であって、世界の常識や正義を体現している世界政府のような組織ではありません。

赤松 基本的に“自分たちが良い”と思っていることを主張しているのでしょう。だから私たちも自分たちが良いと思っていることを言い続けるしかありません。

――それぞれの人が不快な部分を感じたとしても、みんなが少しずつ許容しつつ落としどころを探っていくしかない。

赤松 その通りだと思います。「誰かひとりでも不快になったら改められるべきである」という言葉は、一見正しいようにも見えますが、そう主張した人ですら「お前のどこそこが不快だ」と批判を受ける可能性があるのです。自分の気に入らないものであっても、双方で議論をして許容していくというのが、表現の自由の基本だと思うのです。

――表現規制の声が高まれば高まるほど、エッジの効いた部分をカットして、批判を受けない安易なキャラクターやシナリオを作ればいいという、クリエイター界隈の流れも見受けられます。

赤松 輸出する時に現地の文化に合わせるのは良いと思います。ローカライズはするべきだと思うのですが、日本国内で楽しまれているものに関して、海外から「もっとこうしろよ!」と言われるのはどうかと思います。そう思っている人は多いみたいで、最近はそういった意見をTwitterでつぶやくと、海外からも「その通りだ」「そのままの日本の創作が見たいんだ」「外圧に屈するな」という応援の声がよく寄せられます。

 例えば、中国で作っているスマホゲームなのに、規制が厳しいため中国国内では楽しめず、日本でならプレイできる作品もあります。日本における表現の自由の素晴らしさや、コンテンツの魅力に憧れて、見たいと思っている海外の人は多いのです。“日本大好き!”という人を増やしていくことは、貿易などの振興にもつながると思うのです。韓国は音楽や映画などで海外のファンを増やす施策で大成功しています。まず文化で仲良くなるというのは、夢がありますよね。

海賊版対策と著作権、2次創作の問題でも奔走

――TPP締結時に著作権法がすべて「非親告罪」になる可能性が取りざたされ、二次創作同人誌即売会コミックマーマーケットやコスプレ文化の存続が危ぶまれた時も、日本国内の二次創作を守るために尽力されました。

赤松 非親告罪化のケースでは、私はコミケ出身の漫画家ということもあり、なんとかしなくてはと思い立ち、個人的に活動に参加しました。漫画家協会としては、二次創作はそうそ簡単には認められないという事情があったからです。協会内にはコミケ反対派もいるぐらいですから。

「著作権法違反の非親告罪化」とは、著作権侵害について、我々権利者があえて黙認したい場合であっても、検察官が独自に起訴できてしまうというものです。

 実際には(起訴)しないですよ。後から作者に「それはOKなんだよ」と言われると困るから、検察も鑑定の一環として作者に聞くのが常識です。

 現実的にはコミケや同人誌活動は新人漫画家やクリエイターの修行の場なので、その時は出版社も味方をしてくれました。また海外も、別に日本国内の二次創作を壊滅させたいとは思っていなかったのです。結局、TPP締結時の「著作権法での非親告罪」から二次創作は除外され、大団円になりました。

 そもそもこの問題は各種コンテンツの“海賊版対策”に端を発しています。二次創作は“海賊版”と条件がかぶる部分がけっこうあったのです。デッドコピーではないけれど、翻案に該当する可能性があるし、絵柄が原作と似てしまっているものもあります。だから作者も出版社も助け船を出しました。業界の誰もが、二次創作を潰したいとは言っていませんでした。これは美談だと思います。

――一連の活動で、クリエイター界隈の中に二次創作に関するひとつの共通認識ができたということなのかもしれませんね。

赤松 条約を国内法にするときに、文化庁もそこはわかっていたようで、二次創作は大丈夫なように都合をつけてくれました。そもそもTPPは秘密保持契約を交わして交渉が進められた条約だったので、みんな不安だったのですが、最後はうまくいきましたね。

――海賊版対策といえば、海賊版漫画サイト『漫画村』が問題になり、ダウンロード違法化の対象範囲の拡大が議論された際にも、国会で参考人として出席されていました。

赤松 音楽や動画は海賊版と分かってダウンロードするのはNGだったのに、漫画はいくらダウンロードしてもOKでした。出版社はこれを違法にしたかったわけです。

 ところが最初の改正案では、二次創作の絵も、(そういうものが写り込んだ)スクリーンショットも全部違法になってしまった。それを山田議員と私が中心になって変え、みんなが納得する内容にして、衆参全会一致の著作権法改正を実現しました。

 これに関しては参議院で参考人に立ちました。我々がいかに海賊版に悩まされているかを訴えました。

漫画界の“今”を支えるクリエイターのため政界へ

――赤松先生は政界に本格的に進出するご予定です。どのような思いから決断されたのでしょうか。

赤松 去年、野党が「非実在児童ポルノ」という用語を再び使い始め、漫画やアニメを名指しして「子どもの尊厳を傷つける」とまで言って、表現規制側に舵を切ったと話題になりました。また海賊版問題では、漫画村の4~5倍の規模のサイトが出現し、電子版しか出せない漫画家の懐を直撃しています。このままでは若いクリエイターがみんな死んでしまう。もはや私が前面に立って対抗しなければ、後がないと思ったのがきっかけです。

 ちょうど先週(編集部注:インタビュー収録は2月2日)、『UQ HOLDER!』が完結し、別冊マガジンへの連載が終わったので、これからは本腰を入れて若いクリエイターを守ったり、表現の自由を守ったり、しないといけないなと思っています。しかし、創作活動は続けます。アシスタントもそのまま維持します。

 今後は政策や日本の問題点を漫画にしてTwitterで発信していきたいと考えています。政治家さんが漫画家に依頼してそうしたことをやるということは、まれにあるのですが、本人が描くということはありません。

 つまり、漫画は続けます。

政界進出後も日々の活動を漫画で表現していくという(『赤松健のほん』©赤松健)
政界進出後も日々の活動を漫画で表現していくという(『赤松健のほん』©赤松健)

――クリエイターとして政治家になるということでしょうか。

赤松 スタンド能力を維持したまま、政治活動をやるということです(笑)。心配したファンの皆さんから、「赤松先生、漫画を辞めてしまうんですか」と聞かれるのですが、ご安心ください。

――これからはまた忙しくなられるのですね。オフの時などはどのように過ごされているんですか。

赤松 私は古いものが好きで、レコードコレクターでもあります。特にジャズが好きです。また、レトロパソコンコレクターでもあるんです。世界最初のパーソナルコンピューター「Altair8800」(開発Micro Instrumentation and Telemetry Systems)とかを組んで、ゲームをやったりしています。また古い漫画が好きなこともあって、マンガ図書館Zをはじめたという経緯があります。

 休日は、今はありません(笑)

 しかし、『ラブひな』を連載していたころは“年休2日”だったので、それと比べれば休日はありますね。当時は2時間睡眠でした。(創作に必要なアイデアを考える余暇もないので)それまでの人生すべてを作品に出し切りました。

 毎週18枚描いて、読者アンケートが低いと打ち切りです。まず締め切りに間に合わせるのが大変なのに、人気も求められてめちゃくちゃ大変でした。そうした経験を踏まえて、若いクリエイターの創作活動を邪魔しないために、だから私が今、政治活動をしていかなくてはならないのだと思っています。

(構成=T-PRESS編集部、取材協力=赤松健/漫画家)

●赤松健(あかまつ・けん)

中央大学在学中に第50回週刊少年マガジン新人漫画賞審査員特別賞を受賞し、漫画家デビュー。デビュー直後から講談社の少年向け漫画雑誌にて連載を続け、28年にわたり連載を継続。作品のほぼ全てがアニメ化されている。

国内外を合わせたコミック累計発行部数は5000万部を超える。内、約3割は海外での発行。世界各地で行われるブックフェアなどのイベントに招待されプレゼンテーションを行うなど、漫画・アニメを通じて日本のコンテンツの魅力を世界に発信している。

日本のクリエイターにしては珍しく著作権の分野に造詣が深く、政府や自民党の会議に有識者として参加してきた。東京大学、東京藝術大学、早稲田大学をはじめとする教育機関でのゲスト講義の経験も多い。

 

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