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沖縄読谷村、異常だらけのツタヤ図書館…手続きに違法性の指摘も

文=日向咲嗣/ジャーナリスト
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沖縄読谷村、異常だらけのツタヤ図書館
海老名市のツタヤ図書(海老名市立図書館公式サイトより)

 沖縄県読谷村が20年契約のツタヤ図書館を決めたプロジェクトの事業者選定について、不正疑惑が発覚した。選定委員に就任したコンサルタントが、事前に事業者を集めたセミナーを実施していたことが判明したのだ。さらに、その経緯を調べていくうちに、別の自治体で発覚した事件に行きついた。

 前回記事に続いて、民間の資金と発想・ノウハウを活用して、公共施設の整備をより効率的に実現できるというPFI(Private Finance Initiative)事業に巣食う、新しい公共事業の出来レースの実態に迫る。

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事件を報じる2016年4月9日付河北新報記事

 この記事は、岩手県岩泉町で起きた不正疑惑についての記事である。岩泉町は、読谷村と同じくPFI方式によって、ハコモノの整備から運営管理までを一括して長期にわたり、地元事業者中心のコンソーシアムが設立する特別目的会社に任せている。

 河北新報は2016年3月、選定委員に就任していた有識者の男性が、この選定されたグループの提案書作成に関与していたことを示す内部資料を入手したとして、その詳細を数日にわたって報じた。事業計画や図面、見積価格などを助言していて、ほかの事業者にはわからない、評価ポイントが高くなる金融機関の融資に関する資料まで指導していたという驚きの内容だった。

 ところが、岩泉町では、調査委員会(委員は全員役場の幹部職員)を設置して、関係者への聴き取りを行った結果、「選定委員の不適切な関与はなかった」との報告書を発表した。

 筆者は岩泉町の議会関係者に個別にコンタクトをとってみたが、誰に聞いても「まったく問題なかった」「不正行為はなかったと」との回答しか得られなかった。

 単に選定委員個人や事業者による不正ではなく、もしかしたら、町ぐるみで何かを決めていたのではないのか。だから町の内部の人にとっては「不正」の認識はないのではないのか――。筆者のそんな疑問に対して県外のある関係者は、自治体が依頼したコンサルタントがPFI事業のスキームづくりから事業者の選定までを、すべて引き受けている実態があると解説してくれた。

 TSUTAYAを全国展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を、図書館運営の事業者グループに選定した沖縄県読谷村と、岩泉町のPFI事業には、共通する部分が驚くほど多いことに気づく。

岩泉町と読谷村、PFI事業の選定委員名簿

 第一に、岩泉町で疑惑が指摘された“専門家”は、読谷村で事業者選定にあたった外部の選定委員と同じ人物だった。

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平成 28 年2月 24 日(水) 岩泉町子育て支援住宅整備事業 審査結果講評 より

 読谷村の図書館を核とした(仮称)読谷村総合情報センターの整備事業でも、外部の有識者のひとりとして選定委員を務めたのは、PFIの第一人者として知られる国土政策研究会理事の伊庭良知氏である。

 伊庭氏は、前回記事で報じたように、読谷村の選定委員に就任した直後に地元商工会主催の「PPP/PFI参加企業プロジェクトマネージャー研修」の講師を務めている。

 沖縄県内でも、これまで事例のなかったPFI方式による公共事業の仕組みについて、基礎から学ぶセミナーには、主に建設関連と思われる事業者40~50名が参加していた。選定委員に就任した人物が、プロジェクトに応募する可能性のある事業者に対して講演するのは、不適切との誹りを免れないだろう。

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読谷村商工会主催 PPP・PFI勉強会 参加企業プロジェクトマネージャー研修の様子(「YOUTV」より)

 通常、PFIに限らず公共事業に関する募集が開始された場合、応募する事業者は、行政関係者はもちろん、選定委員への個別の接触は固く禁じられている。委員への直接的な働きかけが行われたりすれば、選定結果に影響を与えかねないからだ。

 これらの点を伊庭氏本人にメールで問い質したところ「誰でも参加できる公開の場で講演はしたが、特定の事業者と接触して指導は一切していないので、まったく問題ない」との回答だった。

 取材を進めていくと、行政サイドはPFI事業に関する専門的な知識経験が乏しいため、よくわからないまま外部コンサルタントのアドバイスを頼りにして事業のスキームを作成している実態が、次第に明らかになってきた。

 読谷村は、総合情報センターのPFI事業費について、「コンサルタントを委託せずに文献・アドバイザー等を活用して積算」と回答しているが、内閣府が実施したPFI/PPP調査検討支援業務の補助制度を利用して、専門家の支援を受けていた。

 このコンサルタント業務を落札したのは、業界大手の建設技術研究所だったことが判明したが、再委託等によって実務にあたったコンサルタント名は開示されなかった。伊庭氏は、この事業費の積算など計画作成は否定したものの、「求められて、読谷村が作成したスキームへ意見を述べた」と関与は認めている。

岩泉町と読谷村、選定委員に当該事業分野の専門家がゼロの異常

 第二に、選定委員のなかに、ひとりもその分野の専門家が入っていないこと。岩泉町のケースでは子育てや住環境整備にかかわる専門家、読谷村のケースでは図書館や郷土資料の専門家が入るべき案件にもかかわらず、どちらも入っていない。読谷村は、PFIの専門家に加えて金融機関の幹部が選定委員名簿に名を連ねていたが、残り5名はすべて役場の幹部職員。岩泉町の選定委員も、副町長を筆頭に、PFIの専門家を除いた6名は全員、役所の幹部職員だった。

 読谷村では、こうしたプロセスによって、建設業者を中心とした地元業者6社がコンソーシアムを結成し、官民連携の成果を打ち出すためだけに、賑わい創出をめざしたCCCのツタヤ図書館にするという、結論ありきだったのではないか。つまり、“出来レース”との疑いがより濃厚になってきたわけだ。

 そもそも、図書館を核として公文書館と村史編纂室を一体化した、読谷村の総合情報センター構想は、沖縄の貴重な歴史文化を育んでいくためのもののはず。それなのに、高層書架にダミー本を飾って賑わい創出を優先し、地域の歴史文化の保存・育成には、めだった成果や実績を何も残してないCCCによるツタヤ図書館を誘致した読谷村は、単に地元事業者を優遇しただけの岩泉町と比べても異様だ。

 岩泉町のPFI事業では、事業者選定後にメンバー変更を余儀なくされている。3月24日付の河北新報によれば、労働者派遣法違反が発覚した構成企業の一社が、町と契約して実施主体となる特別目的会社(SPC)への資本参加を辞退した。

 読谷村のPFI事業では、選定後にそのような不祥事はなかったものの、ほかの方面で不正行為がクローズアップされた。

 図書館の運営を担当するCCCは2019年2月、100%子会社で基幹事業のTSUTAYAが消費者庁から景品表示法違反で1億1753万円の課徴金を課せられている。筆者がその点を読谷村の担当部署に問いただしたところ、「そのような事実はまったく把握していない」との回答だった。

沖縄・読谷村、住民訴訟が提起されれば敗訴濃厚か

 CCCの過去の不正行為を不問にした読谷村でも、ここへきて関係者も驚く出来事が起きている。

 PFI事業は、コンソーシアムを構成する企業が倒産するリスクを切り離すために、目的の事業に専念する会社(SPC)を共同出資で設立する。自治体はそのSPCと契約を締結する仕組みになっていて、その設立はすでに完了している。

 3月17日の村議会本会議において、国吉雅和議員の質問に答える形で、企画政策課の城間康彦課長が、読谷村とPFI事業の契約締結するSPC・黄金環(くがにかん)株式会社が2月10日に設立されたことを報告した。その際、資本金380万円の出資比率が以下の通り、明らかにされた。

<シナジーアセット200万円、NDアーキテクトン30万円、仲本工業30万円、読谷協同産業30万円、シナジービーピー30万円、カルチュア・コンビニエンス・クラブ30万円、サンオキ30万円>

 関係者が驚いたのは、PFI事業のコンソーシアム事業者に選定された際には名前のなかったサンオキが、新たに資本参加していたことだ。この点について県外の関係者は、こう訝しがる。

「おそらく、下請けから直接業務を請けるための変更だと思いますが、提案書に記載のない企業が突然、SPCの構成員に入るのはルール違反でしょう」

 厳正な審査の末に選定された事業者グループに参加していない企業が、選定後に突然、事業に参画してくるのは、確かに理屈に合わない。利権の付け替えと言われかねない。

 総務省で、公共経営の法制に携わってきた神奈川大学法学部の幸田雅治教授(行政法)は、この点について、次のように指摘する。

「当初、村が選定したコンソーシアムとは違うメンバーが入ってきたのであれば、もう一回、事業者の選定手続きをやり直さないといけなくなるはずです。やり直さないで、あとから違う事業者を入れるのは、手続き的に瑕疵がありますので、それをそのまま議会にかけて議決すると違法となる可能性が高いです。あとで住民訴訟が提起された場合、村は負ける可能性があります」

 また、前出の関係者は、SPCの過小な資本構成も問題視する。

「通常は、自治体側からの支払いが滞る可能性も考慮して、融資枠をある程度確保したうえで、資本金を運転資金の1カ月以上設定するものです

 読谷村のSPCである黄金環の資本金は、総額380万円。代表企業のシナジーアセットが200万円を出資し、あとの6社はすべて30万円しか出資していない。そんな会社が、総額34億円の公共事業を担い、今後20年間も運営していくというのだから、不可解というしかない。

沖縄・読谷村、PFI事業費の内訳を非開示…客観的な検証不能に

 前出の関係者は、今回の読谷村が20年契約のツタヤ図書館を誘致したPFI事業によって、もっともワリを食ったのは地元書店ではないかと指摘する。

「地元の有力書店にも読谷村の商工会関係者から、CCCと一緒のグループに参加するよう誘いがあったらしいです。でも、ツタヤ図書館になったら、これまで図書館に本を納入してきた仕事を持っていかれてしまいますから、その書店は誘いを断って、別のグループでコンペに出て敗退したと聞いています。CCCが図書館を運営することになったら、CCCが大手取次業者と共同設立した会社からの納品になってしまうでしょう」

 最後に、神奈川大学法学部の幸田教授は、読谷村が採用したPFI事業は、そもそも事業費総額の内訳(建設費と年間運営費)すら、全面黒塗りで開示されていない点を厳しく問題視する。

「事業費の内訳が公開されないと、その適否を客観的に検証することができません。このことは、すなわち事業自体の正統性がないことにほかならない」

 それに加え、リスクの把握と適切なリスク分担の観点からも大きな問題があると指摘する。

「SPCの設立で目的とされるのは、リスクを切り離すことです。たとえば、利用者である住民に事故が発生するなど不測の事態が起きた場合、SPCが賠償責任を負えないと、母体企業まで責任追及はできず、そこで切り離されてしまいます。最終的には自治体が賠償責任を負うことにもなりかねません。

 PFI事業では、リスクの把握とリスク分担が重要です。20年という長期の契約自体が非常識ですが、将来、社会経済環境が変化した時のリスクに関する情報、つまり想定されるリスクケースに応じた事業の変動リスクを開示して、リスク分担を明確にする必要があります。その点、読谷村で公表されているリスク分担表は、一般的な大まかな分担にとどまっていて、長期のリスクについての記述はありません」

 このままでは「住民の負担や犠牲の上に事業者が利益を上げることになりかねない」と、幸田教授は警告する。

 そんな読谷村のPFI事業は、いよいよ6月議会に上程されて正式承認される見込みだが、その前に、執行部サイドには十分な説明責任を果たすことが求められそうだ。

伊庭氏への質問とその回答

(1)昨年5月13日に、読谷村商工会主催で開催されたPFI勉強会の講師をされたのは事実か?

伊庭氏 日にちは定かではないが、商工会主催の勉強会は開催され、公民連携手法による公共インフラ整備について、話をした。

 公民連携事業手法による発注の場合は、民間事業者が、公共自治体の職員より優れたノウハウ・知見や制度の理解を有していなければ良い提案がなされず、自治体の望む効果を出せないので、発注に先だって、民間事業者への勉強会を実施している。

(2)選定委員就任後に、これから本件PFIに応募する可能性のある事業者に対して指導されていると理解してよいか?

伊庭氏 その通り。公開の場で、なぜPFIで発注されるのか、PFI法とは何か、などPFIの基本的なことをきちんと勉強していただくことがとても重要。誰でも参加できることが重要。

(3)通常の公共事業では、事業者の選定にかかわる者は、応募する事業者と募集開始後に接触することを禁じられているが?

伊庭氏 個別案件の提案内容などについての話はもちろん、接触することは厳禁。しかし、誰でも参加できる場で、公開された内容の話をすることは、妨げられない。

 提案すべき内容などではなく、応募者たちが正しくPFI法を理解し、自治体が何の目的でPFI発注しているのかを知っておくことは必要。禁止されているのは、クローズな場で、あるチームに有利な情報をクローズで提供すること。公の場で、誰でも知りうるセミナーを実施することを禁止するものではない。

 大学の先生や我々のようにPPP/PFI手法の拡散を業務にしているものは、審査員になった場合、セミナーや講義ができなくなってしまう。公の場で実施することが重要。すべてのチームに平等に透明性をもって実施している。

(4)特定の事業者グループに対して、本件PFI事業者に選定されるための有利な情報を提供したのではないかとの疑惑を指摘する人もいるが?

伊庭氏 ありえない。商工会主催のセミナーの目標は、セミナーに参加された企業が、応募できることが主題だった。受講した企業が応募したので、効果があった。

(5)本件PFI事業についての検討及びスキーム作成から関与していたか?

伊庭氏 読谷村が作成したスキームへの意見を求められて、意見を述べただけだ。

(6)PFI方式で、本件事業を進めるよう読谷村へ働きかけた?

伊庭氏 過大な評価だ。読谷村の職員が企画し、しっかりとした体制で事業を粛々と進めていたと思う。私がかかわったとき担当課では、スキームはすでに固まっていた。私の役割は、公民連携の真の狙いやPFI法の成立の目的をしっかり、職員・議員・理事者に理解しもらうこと。

 具体的な内容については、意見を言っていない。 2~3年前から、沖縄県内の周辺自治体でPFI事業の発注ができる素地づくりとして、庁内教育や民間事業教育を進めていた。読谷村もその一環。我々がかかわるのは、PFI手法の良いところ、効果を出す方法などの部分で、事業の内容はあくまで、自治体が目指す住民サービスやインフラ整備として、自治体が自ら構築していくもの。

 この3月に、国交省の公共事業発注ガイドラインが初めて改定され、公共事業契約相手先の選定方法について先鋭的にスキームを変更する方向性が打ち出された。保守的に見える国交省でも、どんどん変革が進んできている。自治体はそこから10年程度遅れているが。

(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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