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「ドル建てでのビックマック価格が低下=日本経済の実力低下」は間違い?

文=村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー
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「gettyimages」より

 この2~3カ月で為替レートが円安・ドル高に大きく動きました。1ドル=130円となったのは約20年ぶりのことです。ドル高は輸入品の価格に影響し、食料品やエネルギー価格の値上げが相次いでいます。ロシアによるウクライナ侵攻よりも、為替の変動による影響のほうが家計に大きなダメージを与えているようです。

 その原因は、アメリカと日本の金利差です。アメリカは景気が過熱しており、金利が上昇してきています。それに対して日本は景気の低迷が続いており、依然として低金利のままです。単純に考えれば、日本で預金をしておくよりも、ドルに換えてアメリカで預金をしたほうが高い利息が得られます。世界的な金融緩和で、大量の資金が高い金利を求めて動いています。日本円をアメリカ・ドルに換えて、アメリカの高金利を得ようという動きが活発になっているようです。すると、為替相場では日本円が売られ、アメリカ・ドルが買われます。その結果、為替レートが円安・ドル高に推移しているというわけです。

 現状では、好景気に沸くアメリカに対して、日本は景気の回復が遅れています。アメリカと日本の金差はさらに拡大し、円安・ドル高が続くとの見方が強くなっています。

 バブル崩壊以降、日本は長年の間、低成長から抜け出せません。世界的に見ても、日本の経済力が低下してきているのは確かなようです。ただ、そのことと為替レートが円安になることは別問題です。為替レートは、国際間での通貨の価値を表していますが、通貨の価値とその国の経済力は同じではありません。

ビッグマック指数

 先日、テレビの番組で「ビッグマック指数」というものを紹介していました。これは、世界各国で販売されている、マクドナルドのビッグマックの価格を比較して、実際の為替レートが「適正な価格レート」からどれほど離れているかを比較する指数です。番組ではアメリカでのビッグマックの価格が日本よりもかなり高いことから、「日本の“実力”が低下している」と説明していましたので驚きました。

 詳しく見てみましょう。実際には国によっていろいろと事情が異なりますので、「モノの価値」は共通ではありません。ビッグマックの価値も、食材や人件費などの事情で異なるはずです。それでも、個別の事情を脇に置いて考えると、「モノの価値」はどの国でも同じになるはずです。どこかの国で極端に高く売られていたら、安い国から輸入して大儲けができます。それが続けば、その国でもその商品の価格が下がることになるからです。

 もし、ある国でインフレのために物価が上昇したとしても、商品としての「モノの価値」は変わらないはずです。国際的に見た「モノの価値」が変わらないように、為替相場でその国の通貨の価値が下がるはずです。“値上げ”は「モノの価値」が上がるのではなく、その国の通貨が下がるために起きると考えられるからです。本来は、あらゆるモノの価格を総合して調べる必要がありますが、それを1つの商品で代用しているのが「ビッグマック指数」の考え方です。

 今、日本でビッグマックは390円で販売されています。アメリカでは5.6ドル程度だそうです。ビッグマックの価値が日米で共通だとすると、5.6ドル=390円であり、1ドル=69.64円ということになります。今の為替レート、1ドル=126円前後と比べると、かなり違います。ビッグマックの価格で比べた水準よりも、現状はかなり円安ドル高になってしまっているといえます。

 もちろん、ビッグマックの価格だけで比較するのは乱暴ですが、あらゆるモノの価格を総合して調べた「適正な価格レート」を、購買力平価といいます。調査の仕方によっても値は異なりますが、公益財団法人国際通貨研究所の調査によると、消費者物価で比較した購買力平価は1ドル=110.03円、企業物価で比較した購買力平価は1ドル=88.24円となっています(2022年4月現在)。

 現状を見ておわかりのように、実際の為替レートは各国の金利差に大きく影響を受け、購買力平価で計算されたように動くわけではありません。しかし、長期的に見ると、そう大きく離れるわけではありません。国によって「モノの価値」が大きく違わないように、為替相場で通貨の価値が調整されます。この見方によれば、今の為替レートは「適正な価格レート」からは、円安ドル高に行き過ぎていると考えられます。

(文=村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー)

村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー

村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー

ファイナンシャル・プランナー(CFP・1級FP技能士)、宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、証券アナリスト、国際公認投資アナリスト。神奈川大学大学院 経済学研究科卒業。
大和証券に入社し、法人営業、個人営業、投資相談業務に13年間従事する。
ファイナンシャル・プランナーとして独立し、個人の生活設計・資金計画に取り組む。個別相談、講演講師、執筆などで活躍。

Facebook:@eiichi.murai.39

Twitter:@coreca

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