パンに食用油、そしてガソリンと、このところ値上げを目にする機会が増えました。景気の回復がまだ芳しくないにもかかわらず、物価だけは少しずつ上がり始めているようです。
2021年11月の消費者物価は対前年比で0.6%の上昇となっています。影響が大きい携帯電話料金がこの1年間で大きく下がってるなかでの上昇です。企業間での取引における企業物価指数では、対前年比で9.0%もの上昇となりました(21年11月速報値)。やがて消費者物価にも影響してくることでしょう。長い間デフレ(物価下落)が続いていたのが急に物価が上がりだしたのには、次のような原因があります。
(1)為替相場が円安ドル高に進んでいる
為替レートが「円安ドル高」に進むと、ドル表示の価格が変わらなくても、円表示では値上がりします。アメリカだけでなく、世界各国からの輸入品の価格が上昇しています。
(2)アメリカをはじめ、世界各国で物価が上昇している
アメリカではコロナ禍で生産が落ち込んだところに、財政拡大や金融緩和で急に好景気になり、物不足、人手不足になりました。消費の拡大が物価の上昇につながっています。
(3)原油価格が上昇している
景気回復とともに石油の需要も増えましたが、産油国が増産をしなかったために、原油価格が上昇しました。ガソリンや電気料金、その他あらゆる製品の価格に影響します。
22年は、原油価格の上昇は落ち着くものの、円高ドル安とアメリカの物価上昇はまだ続きそうだとの見方が多くなっています。すると、日本でも引き続き物価が上がっていくことが考えられます。インフレ(物価上昇)の時代が到来したのかもしれません。
株式や不動産は価格が上昇しやすい環境
一方、21年の年末には個人の金融資産が2000兆円を超えて、過去最高の水準になる見通しです。日本の景気は良くなったわけではないのですが、懐具合いだけは潤沢になっているのです。コロナ禍で旅行や外食などの支出ができなかったことが主な要因でしょう。2020年の特別定額給付金も影響していると考えられます。
長い目で見ると、国民全体の高齢化が進み、貯蓄が多い50代が増えていることも要因と考えられます。さらにこの世代が退職し、老後を迎えるようになると、やがて今の貯蓄を取り崩していくことになります。今の貯蓄は、将来の生活の原資となるのですが、インフレが進むようだと、その価値が目減りしてしまいます。インフレとは、モノの価値が上がりし、お金の価値が下がることだからです。貯蓄額は変わらなくても、その金額で買えるモノが少なくなってしまうわけです。
インフレが進むと、せっかく貯めた預貯金の価値が目減りしてしまう。それを防ぐ手段が「資産運用」です。インフレで物価が上昇する時は、株式の価格も上昇することが多く、価値の目減りを防ぐことができます。為替相場が円安に進むようであれば、外貨建ての資産は円建てで値上がりしていきます。不動産もインフレの際に値上がりしやすい資産です。
「インフレに備えて資産運用を検討しましょう」とは、ファイナンシャル・プランナーがしばしば呼びかける言葉ですが、今まではなかなかピンときませんでした。今年は、それを実感する1年となりそうです。
たとえインフレが進まなかったとしても、資産運用には良い状況が続きそうです。日銀は、コロナ対策で未曽有の金融緩和を続けています。大量に放出された資金が株式市場や不動産市場に向かっており、株式や不動産は価格が上昇しやすい環境になっています。
もちろん、株式や為替相場は、予想外の動きをすることが少なくありません。コロナの感染再拡大で再び緊急事態宣言が発令され、株式が暴落することもありえます。そのような事態に備えて、少しずつ積み立てで購入するなどの対策は必要です。
デフレの時代は預貯金だけでもまったく問題はありませんでした。しかし、インフレの可能性があるこれからは、資産運用にも目を向けてみる必要がありそうです。