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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

出生数50万人割れ、政府予想より20年前倒しとなる可能性

文=小黒一正/法政大学教授
出生数50万人割れ、政府予想より20年前倒しとなる可能性の画像1
「gettyimages」より

 周知のとおり、日本は世界における少子高齢化のトップランナーである。65歳以上の人口が全人口に占める割合を高齢化率というが、2019年の値は約28%であり、2025年頃には約30%、2060年頃には約40%に達することが見込まれている。

 高齢化率の上昇も日本経済に大きな影響を及ぼすが、少子化の問題も深刻さを増しており、筆者は従来の予測よりも少子化が加速していると思い始めている。この一つの象徴が、従来の予測よりも、出生数80万人割れが11年も前倒しになりそうな状況にあることだ。しかし、問題はこの程度で済まない。筆者が独自の推計を行ったところ、出生数が70万人割れ、60万人割れ、50万人割れをするのは、15年以上も前倒しとなる可能性がある。以下、この概要を説明しよう。

加速度的に人口減少が進む可能性

 まず、厚労省「令和2年(2020)人口動態統計(確定数)の概況」を用いて、出生数の実績を確認してみよう(図表1)。2000年に約119万人であった出生数は、2020年に約84万人まで減少している。約20年間で35万人減、年間平均で約1.7万人の減少であったことが分かる。

出生数50万人割れ、政府予想より20年前倒しとなる可能性の画像2

 では、2021年以降における出生数の予測はどうか。それは、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」(平成29年推計、出生中位・死亡中位)(以下「公式予測」という)があり、この予測を示すのが図表1の赤線である。公式予測では、出生数が80万人割れとなるのは2033年、70万人割れとなるのは2046年、60万人割れとなるのは2058年と推計している。2065年でも出生数は約55万人を維持でき、50万人割れとなるのは2072年と予測している。

 しかしながら、この公式予測は甘いかもしれない。図表1から明らかなとおり、2016年から2020年における出生数の実績は予測を常に下回っている。このため、公式予測では、出生数が80万人割れとなるのは2033年と推計しているが、10年ほど前倒しとなる確率が高まっている。

 では、出生数が80万人割れとなるのは、いつ頃か。現時点ではまだ不明だが、それなりの予測はでき、80万人割れは2022年の可能性が高い。理由は以下のとおりである。

 まず、厚労省が2022年2月25日に公表した「人口動態統計」(速報値)によると、2021年の出生数は約84万人であった。ただ、84万人という数字は速報値であり、2021年における出生数の確定値は2022年9月以降に公表されると思われるが、その確定値は速報値の数字よりも3万人ほど低い可能性が高い。

 実際、2010年から2020年における出生数の速報値と確定値の誤差を眺めてみると、速報値のほうが確定値よりも3万人~3.3万人ほど過大な値となっている。この傾向からすると、2021年における出生数の確定値は約81万人となる可能性が高い。また、2000年から2020年までの平均的な人口減少数は、概ね1.7万人である。

 こう考えると、2022年には出生数が80万人割れとなっても不思議ではない確率が高まっている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、出生数が80万人割れとなるのは2033年と予測していたから、2022年に出生数が80万人割れとなれば、政府の想定よりも11年も速いスピードで少子化が進行していることを意味する。

 だが、問題はこれに留まらない。簡単な試算で確認できるが、2000年から2020年における出生数の減少率は、年間平均で1.57%となっている。

出生数50万人割れ、政府予想より20年前倒しとなる可能性の画像3

 この1.57%という減少率が2022年以降も継続すると仮定し、今後50年間の出生数を推計したものが、図表1の点線である。この点線は、出生数のトレンド延長を表す。この点線データを調べてみると、出生数が70万人割れとなるのは2031年、60万人割れとなるのは2040年、50万人割れとなるのは2052年となり、2070年の出生数は40万人未満の約37万人となってしまう。

 すなわち、公式予測と比較して、トレンド延長において、出生数が70万人割れとなるのは15年、60万人割れとなるのは18年、50万人割れとなるのは20年前倒しとなる可能性がある(図表2)。政府の予測では出生数が50万人割れとなるのは2072年であるから、もし2052年に出生数が50万人を割れば、加速度的に人口減少が進む可能性を示唆する。

異次元の子育て支援政策の立案が必要

 このため、思い切った少子化対策が必要だが、ゼロサムゲーム的な東京の一極集中是正等で少子化問題は解決できないという視点も重要である。なぜなら、仮に東京の人口をゼロにしても出生率はほとんど上昇しないためだ。

 この理由は簡単で、日本全国を「東京都」と「東京都以外」の2地域に区分しよう。出生率はこの2地域の女性が生涯に生む子どもの数で決まるが、「日本の将来推計人口(平成29年推計)」や「平成27年国勢調査 東京都区市町村町丁別報告」によると、女性人口(20―44歳)は日本全体で約1700万人、東京都は約235万人であるから、東京以外の女性人口(20-44歳)は約1465万人となる。

 2019年の東京都の出生率は1.15であり、東京以外の地域における出生率の平均をZとすると、全国平均の出生率は「1.15×235÷1700+Z×1465÷1700」(※)と表現できる。2019年における全国平均の出生率は1.36のため、これが※と一致する条件はZ=1.394となる。

 この数値は、出生率が地域に依存して決まる場合、東京の人口をゼロにしても、日本全体の出生率は1.36から1.394までしか上昇しないことを意味する。

 いま岸田政権は、内閣府の外局として、子ども政策の司令塔で他省庁への「勧告権」を有する「こども家庭庁」を2023年4月に設置する方向性で動いているが、ゼロサムゲーム的な東京の一極集中是正でなく、こども家庭庁を中心に官民の叡智を絞り、異次元の子育て支援政策を立案し、深刻化する少子化問題に早急に対処することが望まれる。

(文=小黒一正/法政大学教授)

小黒一正/法政大学教授

小黒一正/法政大学教授

法政大学経済学部教授。1974年生まれ。


京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。


1997年 大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。会計検査院特別調査職。日本財政学会理事、鹿島平和研究所理事、新時代戦略研究所理事、キャノングローバル戦略研究所主任研究員。専門は公共経済学。


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