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新・破産者マップ、「海外で運営」を隠れ蓑に再開…損害賠償請求は可能?

文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表
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新・破産者マップ、「海外で運営」を隠れ蓑に再開
「新・破産者マップ」より

 自己破産した人の氏名や住所をGoogleマップ上で可視化した「破産者マップ」が公開され、物議を醸している。

 実は破産者マップは2019年にも公開されたが、大きな批判を浴びて数日で閉鎖に追い込まれた。さらに、その後も破産者の個人情報を掲載するサイトが複数開設され、2020年7月と2022年3月に個人情報保護委員会が、個人情報の提供等を停止するよう命令を出している。

 今回公開された破産者マップでは、2009年から2018年までの破産者の氏名と住所が掲載されており、6万円分のビットコインを支払えば情地図上のピンに付随する破産者の個人情報を削除するとしている。さらに、ピンごと削除するためには12万円分のビットコインを支払うよう要求している。

 同サイトでは、「サイトの運営は海外で行われており、現地の法律が適応されている」としつつ、基本的な問い合わせには対応しないとのスタンスを表明している。

 当サイトでは、2019年に破産者マップが公開された際に、2人の弁護士に取材して違法である可能性が高いと報じた。今回、海外で運営するという“抜け道”を使い、あらためて公開された破産者マップについて、山岸純法律事務所の山岸純弁護士に話を聞いた。

――サイト側は「サイトの運営が海外で行われ、現地の法律が適用されている」としているが、日本の法律的には違法だったとしても、海外運営もしくは海外のサーバーを経由していることで、処罰は難しくなるのでしょうか。

 以前の記事で、先生が「消してほしかったらカネを払え、という匂いがする」とおっしゃっていましたが、今回は露骨に「6万円または12万円払え」と要求しています。この行為の法的問題点および情報を掲載された被害者が取り得る対応策などがあれば、教えてください。

「民事的な手続きで言えば、名誉を侵害する行為が海外(サーバーが海外にある、外国人が海外で運営している)であったとしても、被害が発生しているのが日本国内であれば、日本の民法を適用して損害賠償請求をすることが可能です(法の適用に関する通則法19条等)。

 したがって、破産者マップの運営者を特定できれば、日本の裁判所に損害賠償請求訴訟を提起できます。

 次に刑事的な話ですが、名誉毀損罪(刑法230条)に該当するのであれば、破産者マップの運営者が日本人である限り、刑法3条13号に基づき処罰の対象となります。

 もっとも、ダイレクトに『ウェブサイト上の情報を消せ』という要求をするための個人情報保護法やプロバイダ責任制限法等は外国への適用関係がないと考えられるので、こちらはキビシイですね」(山岸弁護士)

 破産者マップは、海外で運営していると記載してはいるが、やはり法的に問題をはらんでいる可能性が高いサイトといえそうだ。今後の展開を注視したい。

 また、併せて前回記事も再掲しておくので、参照いただければ幸いである。

 

 

※以下、日付・肩書・数字等は掲載時のまま

――以下、再掲載――

 過去に破産した人の情報をグーグルマップ上で可視化した「破産者マップ」が大きな話題となっていたが3月19日、マップが閉鎖された。

 運営者はツイッター上で、「官報から取得した破産者の情報を削除すること」「削除申請フォームのデータを削除すること」「削除申請の際の本人確認書類を削除すること」「ドメインについては、今後、類似サイトが出る恐れがあるため、一定期間保持すること」を表明している。

 破産者マップについて、さまざまなメディアが同マップの適法性などを検討するニュースを掲載し、情報を掲載された人を中心に対策弁護団も結成されていた。

 マップの閉鎖に当たり運営者は、「多くの方にご迷惑をおかけし申し訳ございませんでした」と謝罪しつつ、「誰もが自由にアクセスでき、公開されている破産者の情報の表現方法を変えるだけで、これほど多くの反応があるとは思わなかったのが正直なところです。国や自治体が持っているデータ、公表しているデータの表現方法を変えれば、そのデータの持っている本質的な価値に近づけるのではと思います」などと、作成意図などを説明した。

 閉鎖されたとはいえ、インターネット上を中心に、破産者マップをめぐって大きな議論が巻き起こっている。

 特に、「官報に公示されているとはいえ、個人情報をネット上に公開することに問題はないのか」「破産手続きのために公示された情報を、誰もが目に触れるかたちで公開すると、病気や被災などでやむを得ず破産した人々の再起を阻害するのではないか」などと疑問視する声が多い。

 さらに、情報の削除申請の受付方法についても批判があがっていた。削除申請フォームに「削除を希望する理由や事情・経緯」「破産に至った事情」を書き込ませる項目があり、加えて本人確認書類の送付を求めていることが問題視されていた。

 この破産者マップについて、弁護士ごとに見解がわずかに分かれているようなので、Business Journal編集部でも2人の弁護士に話を聞いた。

馬場貞幸弁護士の見解

 法律事務所エイチームの馬場貞幸弁護士は、違法となる可能性があると指摘する。

「破産者マップの件は、(1)名誉権の侵害(名誉棄損)により違法ではないか、(2)プライバシー権の侵害にあたり違法ではないか、(3)個人情報保護法に反し違法ではないか、という3点がまず問題になると考えています。

(1)と(2)については、確かに、破産者の情報は官報にすでに載っており公知、かつ一定の公共性がある情報ではあります。しかし、公知性と公共性は、たとえばメディアに取り上げられた重大犯罪に関する情報等と比べれば、はるかに薄いといえますし、何より特に地方に住んでおり引越し等が容易ではない破産者にとっては、社会生活上又は私生活上の受忍限度を超える重大な支障が直ちに生じる事案として、違法といえるのではないかと考えています。

(3)については、すでに公開されている官報から個人情報を取ってくることが個人情報の取得にあたるのかとか、それを可視化してインターネットユーザーによりアクセスしやすくすることが第三者提供にあたるのか、すなわちただちに個人情報保護法の適用があるのかといった多様な問題があります。

 ただ、最大の問題点と考えられるのは、削除を希望する者は削除申請フォームから申請できれば対応するという仕組みを設けているところ、当該フォームに入力すべき情報が極めて詳細、かつ破産に至った経緯など申請に不要と考えられる情報も含まれていることです。 いわゆる『オプトアウト』と呼ばれる仕組みを導入しており、一見すれば個人情報にも配慮しているようにみえて、邪推ではありますが、このフォームに記入された情報が新たな個人情報として悪用される危険性があるのではないか、という点が非常に気になります」(馬場弁護士)

山岸純弁護士の見解

 弁護士法人ALG&Associates執行役員の山岸純弁護士は、破産者マップは違法だと断言する。

「勝手に他人の破産情報をインターネット上に掲載した場合、名誉毀損を理由とする民事上の不法行為責任(民法709条)を負う可能性があります。この場合、数十万円から百数十万円の損害賠償義務を負うことになります。

 これに対し、官報に掲載され、公の情報として知られているのであれば、名誉毀損には該当しないという意見もあるかもしれません。しかし、名誉毀損は、『真実』を広めた場合であっても成立することがあるのです。

 もっとも、その事実の公表が、公益目的があり、かつ公共性がある場合には、この表現の違法性が阻却されると考えられています。この場合、不法行為責任も、刑法上の名誉毀損罪(刑法230条)も成立しません。

 今回の『破産者マップ』ですが、『破産した』という事実は、たとえ真実であったとしても、その方がどこに住んでいるという表現は、はたして公益目的や公共性があるでしょうか。

 政治家や有名な経営者であれば別ですが、一般人が破産したという情報に公共性があるとは思えません。さらに、『この一般人は破産しています』と公表することに公益性があるとは到底思えません。

 結局、『消してほしかったら、カネ払え』などという“匂い”がしてきます。というわけで、これはアウトです」(山岸弁護士)

 このように、一度は官報に掲載されて国民の誰もが知り得る情報となったとはいえ、個人情報をネット上で公開することは違法となる可能性が高いといえるだろう。

(文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。
山岸純法律事務所

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