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財布を線路に落として非常停止ボタン、実は問題なし?激高したJR駅員の問題点

文=Business Journal編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト
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財布を線路に落として非常停止ボタン、実は問題なし?激高したJR駅員の問題点の画像1
当該男性乗客が撮影したとされる動画(「YouTube」より)

 JR山手線の渋谷駅構内で線路内に財布を落とした男性乗客が非常停止ボタンを押し、それに怒った駅員が激高する動画がSNS上で拡散され、物議を醸している。

 事件は今月4日夜に起こった。動画を撮影した本人とみられる男性が線路に降りようとする仕草を見せていたため、駅員が駆け付け制止したが、男性は「財布を線路に落とした。拾ってほしい」などと言い、突然、プラットフォームに設置されている非常停止ボタンを押下。続いて駅員と男性の間で交わされた以下のやりとりが、動画にはおさめられている。

駅員「黙りんさい、オラ!」

男性「お金取ってくれないじゃないですか」

駅員「なんなんだ! その態度は」

男性「お金飛んじゃったんですよ。4万円が財布から出てたんですよ」

駅員「相当高くついちゃってるぞ、これ。止めてんだからよ、電車。皆さん、迷惑が掛かっています」

男性「しょうがないじゃないですか。お金落ちちゃったんですから」

駅員「どんだけの人に迷惑がかかってんだよ」

男性「なんで取ってくれないんですか? ずっと5分以上も」

駅員「取るよ。何だよ、その態度。取ってもらおうって態度じゃないだろ、まず、落としたのが悪いんだよ」

男性「だから、押されたんですよ」

駅員「人のせいにするな! 映像で見るからよ。全部映ってんから。とりあえず交番行くからな、待っとけ」

男性「なんで交番行くんすか?」

乗客「取ってくれないからじゃないですか」

駅員「そういう態度、何とかせいや」

乗客「なんで僕、交番行かないといけないんですか」

駅員「山手線止めてんだよ! 今日帰れねぇからな、警察行くから。今日帰れねぇ、事情聴取長げえから」

 この動画を受け、SNS上では

<駅員の言葉使いに大きな問題がある>(原文ママ、以下同)

<財布を落とした方は、故意ではないのでしょうから、普通の言葉使いで対応すべきです>

などと駅員の言葉遣いに批判的な声が上がる一方、以下のように駅員を擁護する声も続出している。

<これ、財布落とした方が、動画撮影したんでしょうか。そうなると、自分に都合が良い様に切り取ってる可能性あるよね。JR駅員の方が一方的に激高みたいになってるのは、気の毒でしょ>

<自分を正当化する為か動画を撮りSNSに上げている時点で×。落としたのが悪い。JRと駅員は悪くない。身勝手な行動で何万人もの人に迷惑をかけているのを自覚するべき>

<動画を見たけど駅員が怒鳴っているところから始まっいて違和感しかなかった>

<駅員が悪いみたいな風潮にメディアコントロールされてるが、自己判断で勝手に電車停めた奴が悪い、切れて当然>

<駅員さんめちゃくちゃただの事実述べてるだけやん 別に乗客を侮辱してるわけでもなく。これ状況的に乗客が損害賠償責任負うべきだけの案件では…>

非常停止ボタンを押したりしたのは、営業妨害に近いものもある・・・人命や安全運行に関わるものでない非常停止ボタンの濫用には、JRは毅然とした対応を行うべき>

<こんなの許してたら迷惑系が増えますよ 自分達の都合のいいように動画編集して拡散するなんて>

財布を落とした際に非常停止ボタンを押すという行為は許されるのか?

 騒動を受けJR東日本は「駅員の言葉遣いは適切ではないと考えています。お詫びさせていただきたい」としているが、そもそも線路に財布を落とした際に非常停止ボタンを押すという行為は、許されているのだろうか。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏はいう。

「まず初めに、JR東日本からの回答が来ましたので以下に要点を個条書きで紹介します。財布を落とした乗客側の意見は当方も含めて報道各社とも聞くことができませんでしたので、あくまでも同社側の意見とお考えください。

1.財布と現金とを落とした乗客は線路をのぞき込んだり、線路に降りようとして危険であったので駅員が制止した

2.乗客が線路に落とした財布・現金を拾うと説明したものの、待つことに納得しなかったためにホーム上の非常停止ボタンを押した

3.危険な行為や必要のない非常停止ボタンを押した乗客に対し、駅員が強い口調で注意を促した

 以上です。トラブルの全貌がわからないので何とも言えませんが、事実がJR東日本の説明どおりであれば非常停止ボタンを押す必要は確かにありません。一方で財布が電車に接触する可能性のある場所に落ちたのであれば非常停止ボタンを押しても問題ないと考えます」

 では、線路に財布を落としたら、どう対処すればよいのか。駅員に申告したら、すぐに拾ってくれるものなのだろうか。

「駅員に申告しましょう。通常は可能な限りすぐに器具で拾ってもらえるはずですが、列車の運行頻度が高いと駅員にも危険が及ぶので、列車の運転間隔が長くなったときとか、あるいは終電後という可能性もありえます。それから、財布の場所が特定できているのかどうかにも左右されます。場所がわかっていて、なおかつ拾いやすいのであれば、列車の運転間隔が今回の山手線のように4分程度でも何とか拾えるかと考えます。

 ただし、いつ拾えるのかはっきりしないとか、あまりに時間がかかり過ぎるとなると困ることも確かです。それから、財布の中に切符や交通系ICカードが入っていたら改札を出られませんね。乗客にはそうした不安もあったのかもしれません。今回のトラブルはそうしたコミュニケーションがうまくいっていなかった可能性があります」(梅原氏)

山手線の非常停止ボタンを押すと、どのような影響が出る?

 一般的に、どういうケースでは非常停止ボタンを押してよいのか。

「駅に進入してくる電車を止めなければ事故が起きる可能性があるときと考えてください。ホームから人が転落したときはもちろん、大きな物や重い物が線路に落ち、なおかつ車両に接触すると見られるときは非常停止ボタンを押すべきです。今回のトラブルにより、たとえば強風で傘が飛ばされて線路に落ちたということがあっても、誰も非常停止ボタンを押さなくなるような事態が懸念されます。傘程度ならば車両と接触しても大丈夫と思いがちですが、そうでもありません。車輪に巻き込んで実際に列車が長時間立ち往生した経験が筆者(梅原淳)にあります」(梅原氏)

 駅員は「山手線停めてんだぞ!」などと激高しているが、山手線の非常停止ボタンを押すという行為は、どれほど重大な行為で、どのような影響が発生するのだろうか。

「仮に何も非常事態が発生していないのに非常停止ボタンを押した場合、鉄道営業法第三十二条『列車警報機ヲ濫用シタル者ハ二万円以下ノ罰金又は過料ニ処ス』とあります。JR東日本の主張どおりであれば秩序を無視して使用するという意味での『濫用』に当たるでしょう。ただし、財布を落としてすぐに非常停止ボタンを押したとなると濫用とまではならないと考えます。

 なお、非常停止ボタンをいたずら仮に押した場合でも、安全かどうかが確認されるまで列車の運転が再開できません。山手線のように多数の列車が運転されている路線では列車の運転が15分止まってもそれだけで3万人(1列車の定員約1500人×20本と計算)に影響します」(梅原氏)

 駅員は「警察行くから今日帰れねえからな」と言っているが、財布を落とした程度で非常停止ボタンを押すと、警察の事情聴取を受けなくてはならないのか。

「JR東日本の言い分によると、財布を落とした人は駅員がいるにもかかわらず非常停止ボタンを押したので、いたずらと判断して警察を呼んだようです。けれども、財布を線路に落としたという非常事態が起きているので、警察としては事件にしようがないと筆者は考えます。また、現実に鉄道営業法違反を立件するには渋谷駅にもどこかの段階で捜査しなければならないので、駅員も普段よりは早くは帰れないでしょう。

 今回のトラブルでは財布を落とした人が動画撮影前には相当煽っていたなどと言われていて、挑発された駅員が怒っている姿をあぶり出したように思えます。であれば、なおのこと冷静に事に当たるべきであったでしょう。動画を撮影しているのに怒鳴っていたら“あり運転”のドライバーと同じということを、少なくとも他の駅員は気づいて止めなくてはほしかったと思います。

 当方は7月7日のTBSテレビ系列の『ひるおび』に出演し、この件についてコメントしました。その際に同じくコメントされた元東京メトロの駅員で芸人の各駅マッシュ 鈴木メトロさんはこうおっしゃっていました。それは、『危険な行為などを強い調子で注意するときでも敬語で話すように東京メトロでは指導している』というものです。大変参考になる発言だと思いませんか。今回のトラブルの非がだれにあるのかは別として筆者が最も懸念しているのは、今後ホームで本当に非常事態が発生したときに、乗客が躊躇して非常停止ボタンを押さないこと、あるいは自分の身に災難が降りかかるのを恐れて無視することです」(梅原氏)

(文=Business Journal編集部、協力=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

梅原淳/鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。
http://www.umehara-train.com/

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