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KDDI通信障害の深層…会社側の説明に違和感、経産省に怒りの声が続出するワケ

文=深田萌絵/ITビジネスアナリスト
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KDDI通信障害の深層
大規模通信障害について謝罪する高橋誠社長(写真:つのだよしお/アフロ)

 7月2日土曜日から大規模に発生した、auなどKDDIモバイル通信サービスでの通信障害。影響した回線数は最大で3915万回線、スマートフォン向けは3580万回線と発表されており、単純計算で日本の人口の3分の1ほどに匹敵する巨大なものとなった。

 個人だけではなく法人の物流関連、自動車関連、気象情報、銀行関連、交通関連など、かなり幅広く影響があったようだ。

 ニュースを見ると、メンテナンスの一環として、モバイルコアネットワークと全国各地の中継網をつなぐコアルーターのうちの一拠点で、旧製品から新製品へのアップデートをする際に、通信トラフィックルート変更を実施するVoLTE(ボイスオーバーLTE)交換機でアラートが発生したとのことだ。

 これを聞くと、通常のシステムメンテナンスではなく、旧製品から新製品にルーターを交換するシステムアップデートだ。それは、私たちの家にある小さな家庭用ルーターを交換するのとはわけが違う。ルーターといえどインフラ用途なので、それなりの規模のコンピューターを設置して入れ替えるという大掛かりな作業が必要となる。

 今回、音声通話ができなくなったことが、3Gサービスの停止と何か関係があるのではないかと指摘する向きもあったが、それと今回の通信障害は関係がない。通信品質を保つためのプロトコル上の仕組みと別の課題が裏に潜んでいる。

KDDI発表への違和感

 KDDIの発表資料によると、メンテナンスの一環としてトラフィックルートの変更を実施中に設備障害が発生。音声トラフィックがルート変更されずに、通信断が発生したという。

 通信インフラ上のルーター交換時は、家庭用ルーター交換のように電源を落として交換するというわけにはいかない。通信を阻害しないように既存ルーターの動作を維持しながら流れてくる通信パケットを、新ルーターへ流れるよう変更して、既存ルーター電源を落とさないといけない。

 KDDI側の発表資料を見ると、

1.「トラフィックのルート変更を実施中に、一部音声通信が不通になる」という事件が起こっている。

2.すると「このVoLTEの通信が15分間ほど遮断された」というのが、ここでの説明なのだ。一般の方が混乱するのは、たった15分間遮断されただけだったら、なぜ2日間もほとんど電話が繋がらなかったのかという点だ。

3.その答えが、「輻輳」なのだ。このルート変更の切り戻しを行ったが、アクセス集中で通信しづらい状況が継続し、輻輳が発生したと説明している。

輻輳が発生する仕組み

 輻輳とは、1カ所に何かが集中して混雑する状態のことをいう。電話網やイベントで、災害時に発生する通信量により、通信が成立しなくなる現象の通信分野における用語である。かつて、3G時代に“パケ詰まり”と呼ばれた現象のことだ。

 昔、山手線のある列車に乗って、皆で電車の中でスマホをいじっていると、ある区間になると通信が必ず途切れる地点があった。その時、皆でスマホを使って基地局Aと通信しているか、一つの基地局による電波のカバレッジ(カバーできる範囲)は限られている。

 基地局Aの電波が途切れるころに、新しい基地局Bの電波を掴んでおくのが移動体通信端末であるデバイス側の仕事である。インフラ側は何をしているかというと、スマホの識別番号を基に、基地局Aから基地局Bに裏で通信を切りかえて、基地局Bから端末にデータを送るわけである。

 これをハンドオーバーと呼んでいるが、基地局の切り替えに300ミリ秒から400ミリ秒かかる。その切り替えの瞬間に、デバイスから発信されるパケットを受け止める基地局が無い時間帯が数百ミリ秒発生する。そうすると、受信側デバイスが送信元に「また、パケットを送ってください」と再送要求をかけ、送信側が何度もパケットを送信するので、回線容量がパンクしてしまう。

 VoLTEは規格上、通信の品質を保つために自分たちがつくったデータの“パケット小包”を相手に送ったあと、受信側は、送信元のパケットを受け取れなければ再送請求をかける。

 送信側が再送信請求を受け取って、またパケットを送るので、一度通信が切れてしまうと送信側と受信側で「パケット送った」「パケットが届いていない」「もう一回送った」「それも届いていない」というやりとりを行う。これが、ただでさえ混み合っている通信回線の許容量を超えてしまう原因である。

KDDIの説明で、辻褄が合わない点

 KDDI発表は一部、辻褄が合わない部分があることは否めない。

 VoLTEのトラフィックのルート変更を実施中に切り替えがうまくいかず通信が不通になり、切り戻しを行ったら輻輳が発生した。そこで、この輻輳を制御するために、流量制限を行った。

 流量制限というのは、道路に例えると交通制限である。制限なしにデータを受け入れてきたのを、交通制限をして道路交通の流れを規制するのと同じ状態である。

 ここまでは、手順として理解できる。だが、その後、加入者データベースがデータ不一致となって、修正を実施していると説明されている点が奇妙なのだ。

 輻輳が発生して加入者のユーザーデータベースも壊れたかのような説明は、整合性が取れない。ルーターの輻輳が崩壊したのと、データベースが同時に壊れたという2つの事象は、同時期に発生した別個のトラブルである。

 本事象を道路交通に例えると、首都高速と東名高速を繋ぐ東京インターで、旧料金所を残しながら新料金所を増設し、車両の流れを新料金所へ誘導した。

 だが、新料金所のゲートが開かなかったので渋滞が発生、渋滞回避のために自動車を旧料金所に再誘導した。そうしたところ、全料金所のETCシステムと車両に設置したクレジットカードの認証が取れず、一切のETCが使えなくなったという説明で納得できなかった人も少なくない。

 常識で考えて、ルーター上で輻輳が発生しても、加入者データベースが「不一致」となることはありえない。さまざまなデバイスから飛んでくる個々の加入者データが全て壊れていたということは考えにくいので、なんらかの原因でインフラ側の加入者データベースに不具合が起こった可能性が高い。

「経産省が責任をとれ」との声が上がったワケ

 今回、通信障害が発生した頃、「電力不足のせいだ」という声が一部のエンジニアの間やSNS上で上がっていた。

 皆さんもご経験があると思うが、パソコンで扱っていたデータが壊れる瞬間というのは、おおよそ「バッテリー不足で電源が落ちた」タイミングだろう。

 6月30日に政府は電力ひっ迫注意報を解除しているが、7月1日の通信障害が起こる少し前に東京電力が各電力会社に電力供給を要請している。事件が起こったころの東京は猛暑だったことを勘案すると、深夜とはいえエアコンの利用率が高まり電力の需給が再度ひっ迫したのではないか。

 電力需給ひっ迫から供給する電圧が下がれば、精密機器に影響を与える。電圧を整える変圧器も電圧降下の影響を受けるので、データセンター内の電源関連設備も影響を受けるだろう。

 変圧器を通じて不安定な電力供給を受けた精密機器も影響を受ける。コンピューターを含む精密機器は許容電圧のレンジが狭いため、電圧降下の影響を受けやすい。

 電圧降下に弱いのは、メモリ上のデータである。だからこそ、エンジニアたちは「電力不足で加入者データベースが破損したのではないか」と疑っているわけである。事件が起こったあの日は、猛暑で電力がひっ迫していた。そして、通信障害のトリガーとなったのが、コアルーターの入れ替えではないか。

 通信インフラ事業者が利用するコアルーターは、通常のルーターとは比較にならないほどの電力を消費する。しかも、コンピューターのスイッチを入れる際の起動時電力は、通常の電力消費量の倍以上に達するわけである。

 無論、精密機器側は、「電圧降下発生」などのアラートは出さないので、いろいろな機器が不具合を起こしたなかで、サーバー内の加入者データベースが知らぬ間に破損していたとすれば、「加入者データベース不一致」という現象が発生したことにも筋が通る。

 それなら、KDDI側の辻褄合わない説明に対して、「もしかして、電源設備が原因ではないか」という声が通信エンジニアの間から上がったのもおかしくはない。

 通信業者側から沸々と湧き上がる不満は、通信障害で全社を挙げてエンジニア総動員で復旧に当たっている最中に、ど素人の総務省官僚が来て、国民の怒りの矛先が総務省に向かないようにするために原因究明の最中のKDDIに対して記者会見を求めた点である。

 しかも、電力供給に問題があったことを指摘することすら許されずに、全責任をKDDIが負うことになったのだから、エンジニアたちの間で政府に対する不信感が高まった。

 そのうえ、総務大臣がKDDIに対して行政処分を行うと発言したものだから、SNS上では「だったら、電力不足の責任を経産省が取れ!」という声が高まったのだ。

 一番の問題は、この国の電力不足問題が、政治家の太陽光か原発かの利権争いから始まったということだろう。

(文=深田萌絵/ITビジネスアナリスト)

深田萌絵/ITビジネスアナリスト

深田萌絵/ITビジネスアナリスト

早稲田大学政治経済学部卒 学生時代に株アイドルの傍らファンドでインターン、リサーチハウスでジュニア・アナリストとして調査の仕事に従事。外資系証券会社を経て、現在IT企業を経営。

Twitter:@@MoeFukada

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