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江川紹子の「事件ウオッチ」第209回

江川紹子が斬る【旧統一教会と自民党】内閣改造ではごまかせない! 本当に必要なのは党内調査だ

文=江川紹子/ジャーナリスト
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岸田首相
旧統一教会との関係に関して野党が党内調査の結果を発表するなか、内閣改造で高まる批判をかわす狙いがあるとされる岸田首相だがーー。(写真=gettyimages)

 安倍晋三元首相殺害事件が起きて1カ月。政治と旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)を巡る闇の広さと深さを改めて思い知らされている。事件は、この教団が信者に法外な献金を求め家庭を崩壊させたことが、そもそもの原因と言える。

 ところが、自民党や安倍氏を支持してきた論者たちは、教団への憤りを示すでもなく、「信教の自由」を悪用する活動への対策に乗り出そうとするでもなく、できるだけ問題には触れまいとし、さらには擁護する。そんな態度からは、安倍氏本人だけでなく、その周辺はまるごとずっぽり、旧統一教会と政治を巡る闇の中にいるのではないか、とも思えてくる。(編註:肩書は8月9日時点のもの)

教団との関係について開き直り、果ては擁護までする自民党議員の面々

 政界と旧統一教会の関係は次々に明らかになってきている。

 選挙運動を手伝ってもらっていた岸信夫防衛大臣は、「旧統一教会が社会問題となっていることを認識していた」と、悪びれる様子もなく認めた。

 教団関連団体のイベントの実行委員長を務めたこともある二之湯智・国家公安委員長(当時)は「平和の運動で名前を貸してほしいと言われて貸しただけ」と居直った。

 岸政権では、末松信介・文科相も旧統一教会関連団体にパーティ券を購入してもらったことが明らかになっているほか、萩生田光一・経産相、野田聖子・少子化担当相、山口壮・環境相、小林鷹之・経済安全保障担当相、山際大志郎・経済再生担当相などが、イベント出席や祝電など、濃淡様々な“お付き合い”が発覚している。

 その濃さから言えば、やはり自民党清和会(安倍派)が目を引く。同派前会長で、現在衆院議長を務める細田博之氏は、2019年に現在の教団トップである韓鶴子総裁を迎えて行った関連団体のイベントでスピーチ。韓総裁の名を挙げてイベントの意義を称賛し、「安倍総理にも報告する」と述べていた。

 しかし、メディアの取材から逃げ回る、あるいは証拠と思われる文書などがあっても関係を認めない議員もいて、その闇の広さと深さは未だはっきりしない。立憲民主党や日本維新の会は、自ら調査を行ったが、最も関係している政治家が多い自民党は、議員個人の問題に矮小化し、調査・公表には消極的だ。

 茂木・自民党幹事長は、「党としては一切の関係を持っていない」と繰り返すが、関係のある国会議員は80人前後に上るとも言われる。その関係には濃淡があるとはいえ、これだけの議員が社会的に問題のある集団と付き合っているとすれば、党内の倫理はどうなっているのか、という話である。党内に“カルト汚染”が相当に進んでいるという危機感を持ち、血相を変えて対策に奔走しなければならないはずだ。それをしないのは、カルトが党内に浸透することを放置しているとしか言いようがない。

 教団と関係を認めた議員の中には、すぐに関係を断つと明言する者もいたが、開き直ったり、教団を擁護したりする人もおり、多くは今後の関係が不透明だ。

 たとえば、たびたび関連団体のイベントで挨拶し、やはり選挙運動の手伝いも受けていた工藤彰三・衆院議員。「破壊的なカルトや反社(反社会勢力)と認定されている団体なら付き合わないが、決してそういうわけではない」と教団を擁護した。

 旧統一教会は、オウム真理教の事件が発覚する以前から反社会性が指摘され、「破壊的カルト」の代表格にあげられている集団だ。工藤氏が知らないはずはあるまい。

 旧統一教会被害者からの相談に乗っている全国霊感商法対策弁護士連絡会は、全国会議員に宛てて、2018年と翌年の2回、旧統一教会のイベントに出席したり、選挙での支援などを受けたりしないよう要請する要望書を送った。2019年の要望書には、教団がいかに「破壊的」で「反社会的」であるかが具体的に綴られ、関連団体が翌月予定する大がかりなイベントに出席しないよう求めていた。

 しかし工藤氏は、それを無視して出席。韓総裁の名前を挙げて、活動を絶賛するスピーチを行った。

 工藤氏は、今後も付き合いを続ける意向を示していたが、後に「これだけ大騒ぎになったので、今後しっかり検討する」と発言をぼかした。「大騒ぎ」が収まれば、関係を続けるつもりなのだろう。

 関連団体と自民党国会議員らでつくる「日本・世界平和議員連合懇談会(平和議連)」の会長代行、奥野信亮・衆院議員の発言にも驚かされた。同氏はネットメディアの取材に、「何が問題なのかわからない」と開き直り、「家庭がしっかりすることが、世界平和につながると思っている。山上容疑者は家庭がしっかりとしていれば、こういうことは起こらなかったのではないか」(AERA.dotより)と語った。

 家庭が世界平和の基礎と言うのであれば、法外な献金を求めてあちこちの家庭を壊している旧統一教会に厳しい批判が向けられるべきではないのか。奥野氏の、何があっても教団の問題には目をつぶる、という態度は、もはや信者のそれに近いのではないか。ここまで関係が深まった政治家や論者は、いったいどこまで広がっているのか、気がかりだ。

巧妙な教団の“草の根”政治活動、機能しなかったジャーナリズム

 旧統一教会は、1959年に日本に進出してまもなく政治との関わりを持った。当時は安倍元首相の祖父、岸信介首相の時代。学生運動や労働運動などが盛んな1960年代に、その対抗勢力として、教団の反共イデオロギーと憲法改正の主張は、右派陣営に歓迎されたのではないか。教団の存在をカムフラージュする団体をいくつも作り、その主張を浸透させていく草の根の政治活動によって、地方政治から国政に至るまで、両者の関係はより密接になっていった。1980年代には、国家機密法制定を求める決議を全国各地の地方議会で次々に実現させ、その影響力を見せつけた。

 1992年に芸能人の入信や合同結婚式参加、脱会宣言などが、テレビのワイドショーや週刊誌で盛んに報じられ、旧統一教会の問題は社会に周知された。しかし、1995年に地下鉄サリン事件が起きて、オウム真理教に社会やメディアの関心は集中。オウム事件が一段落した後も、旧統一教会関連の話題がマスメディアに載ることはほとんどなくなった。

 そのため、ほとんど報道に接してこなかった若い世代は、旧統一教会と聞いてもピンとこない人が多い。ジャーナリズムの問題として、私自身もこれには責任を感じている。

 チェックの目が少ない中で、政治家も旧統一教会と関係を深めていくことに、さほど躊躇しなくなっていったのかもしれない。昨年9月、安倍元首相が関連団体のイベントにビデオ出演して、韓総裁に「敬意」を表し、その活動に賛同する旨の演説を行ったのにも、これくらいやってもメディアに取り上げられて社会問題化することはないと、高をくくっていたからではないか。実際、新聞・テレビは静観するばかりだった。

 今回の参議院選挙では、井上義行議員のように、その関係をほとんど隠そうともしないで選挙戦に臨んでいる者もいた。井上氏は、信者であることは否定したが、「賛同会員」になっていることを認めている。

 旧統一教会は、日本を「エバ国家」であり、戦前の償いも込めて「アダム国家」韓国に貢がなければならないという、特殊な教義を持つ。安倍氏を初めとする右派系の国会議員が、こうした組織のトップを絶賛し、その広告塔になっているのは、日頃の言動と矛盾している。国民の目を欺く不誠実な対応と言わなければならない。

 同じことは、教団関連の様々なイベントに招かれたり、教団系のメディアで言論活動を展開している保守系知識人についても言える。そのうえ、そこで受け取った講演料や稿料の原資は、人の不幸につけ込み、家庭崩壊を招く苛烈な献金だった可能性がある。心が痛まないのだろうか。

速やかな党内調査のうえ、カルト集団との関係を断ち切れ

 旧統一教会が政治への関与に力を入れ、政権与党に浸透していくのは、彼らが言う「地上天国」の実現に、自民党政治家が役に立つと確信しているからだろう。しかも彼らは、“政教一致”という効率的な形で、それを行おうとしている。

 韓総裁は、2019年10月のイベントでのスピーチで、「政治と宗教は1つにならなければなりません」と言い切った。“政教一致”で自分たちの価値観を形にしようとする手法は本来、憲法で「政教分離」を謳っている日本の政治には相容れないはずだ。ところが、このスピーチに拍手を送っていた細田氏が、今や衆議院議長を務めている。

 教団にとって、国会議員から挨拶やスピーチなどを通じて、団体の活動にお墨付きを与えてもらえるのは、対外的にはイメージアップの広告となると同時に、内部の自信拡大につながる。

 政治や行政に関する情報収集にも役立つだろうし、その他教団の利益をもたらしてくれる役割も期待しているだろう。

 米国で脱税の罪で1年以上服役しており、日本への入国資格のない文鮮明教祖が1992年に来日できたのは、当時は「政界のドン」として隠然たる力を誇っていた金丸信・自民党副総裁の斡旋により、法務大臣特別許可という超法規的措置が発動されたからだ。

 2015年に教団が法人名を「世界平和家庭連合」に変更した際にも、文科相だった下村博文・衆院議員の意向が働いたのではないか、という疑惑が持ち上がっている。下村氏は「今となったら責任を感じている」としつつ、「大臣の立場で直接、政治的な指示をしたわけではない」と疑惑を否定。一方、当時文部次官だった前川喜平氏は野党合同ヒアリングで「下村氏の意思が働いていたのは100%間違いない」と断言した。

 これについては、政府の側が関連公文書を適切に開示し、真相解明に努める必要があろう。

 岸田首相は、閣僚人事において旧統一教会との関係を考慮する意向を示している。しかし、自民党総裁として、党内調査には依然として言及しない。このままでは、問題は外から見えにくい形で党内に潜伏するだけではないか。

 政権与党にカルト的価値観が浸透し、内側からむしばまれているとすれば、それは日本の民主主義にとって危機的状況と言えよう。岸田氏は、「日本の民主主義を守り抜く」と言ったからには、速やかに党内調査を行い、こうした集団との関係を断ち切るよう主導していくべきだ。

(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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