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牧野知弘「ニッポンの不動産の難点」

節税目的のワンルームマンション投資の恐ろしい罠…日本中で大量の物件が滞留

文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役
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ワンルームマンション(「gettyimages」より)

 節税目的の不動産投資というと、タワマン投資に代表されるような相続税対策がよく話題になるが、収入が高い層には、不動産を購入することで所得税を節税しようというニーズがある。日本は所得税率の累進性が高いため、一定以上の所得になると稼ぐ割には実入りが少ないという不満が出る。これを不動産投資をすることで見かけ上の赤字所得をこしらえて、所得を下げ、結果的に節税しようというものである。

 この目的に叶った投資がワンルームマンション投資である。節税効果という意味ではワンルームでなく、1LDKでも2LDKの部屋でも構わないのだが、効率が最も良いのがワンルーム投資だ。

 まず、ワンルームは1戸あたり面積で6坪から8坪程度、投資総額も1000万円台から2000万円台が多く、サラリーマンでも多少高給取りであれば手が出る範囲になる投資物件だ。また、ワンルームは1LDKや2LDKに比べて面積当たりの投資効率が高い。東京都心であればワンルームの賃料単価は坪当たり1万2,000円から1万5,000円程度。これがファミリー向けになると賃料単価が下がってしまう。面積の拡大に家賃が比例してくれないからだ。つまりワンルームマンションは収益性もファミリータイプに比べて高いといえるのだ。

 また、ワンルームは同じように節税したいサラリーマンが世の中に存在し続ける限り、運用したのちいざ売却しようというときにもマーケットで流通するのではないかという思惑もあり、手頃な節税手法として定着したのだった。

 不動産投資をして赤字をつくるとはどういうことかといえば、ワンルーム代金のほとんどを借入金で買って、金利を経費計上する。建物の減価償却を経費計上する。テナント確保等でかかる経費、修繕費などを経費計上するなどして赤字所得をつくり、所得税を節税するのがその手法だ。

 所得が高いほど、現在の所得に赤字所得をぶつけることで節税効果が高くなる。平成バブル期には、不動産は一方的な値上がりをしていたこともあり、売却すれば大きな利益も取れるという期待も相まって、サラリーマンの課長、部長クラスの間でワンルーム投資はブームになった。当時のサラリーマンは大抵の会社が副業禁止だったが、なぜかワンルームなどに投資して運用しているのは副業とはみなされないために大勢が手を出したのだ。

リセールバリューの下落

 しかし、不動産投資にあたっては多くのチェックポイントがある。ワンルームの場合は需給バランスと投資家の懐具合だ。郊外の田園地帯で、テナントなんてあまり見込めないような場所で相続税対策だけに目が眩んで投資したアパートオーナーがその後、同じようなアパートが周辺に林立してテナントを奪われ、空室に苦しんだことが、実は現在、ワンルーム投資の世界でも起こっているのだ。

 東京都内では豊島区の池袋や大塚などでこうした節税ニーズをとらまえたワンルームマンションが平成バブル期などに大量供給されている。当時のワンルームの企画は部屋も5坪から6坪程度と狭く、水回りであるバス、トイレ、洗面が一室に詰まった3点ユニットバス。ところがその後こうした狭小ワンルームに関しては、開発の際に行政から認められなくなり、その後に建設されるワンルームは部屋も広くなり、トイレとバスが分離するタイプがあたりまえになる。棟数が増えるにしたがってテナントの審美眼も磨かれ、平成初期のワンルームは賃貸マーケットでの競合で負けるようになる。

 テナントが入らなければ、赤字は膨らんで節税効果は増す一方、いつまでも空室では借入金の返済が覚束なくなる。仕方がないので賃料を下げる。フリーレント(賃料免除期間)を長くする。こうなってくると節税効果はともかく、不動産投資としては完全な失敗となる。マーケットの変化に追随できない、収益は下がる、小さなワンルームは時代のニーズに合わないということで排除され始めると、マーケットでのリセールバリューは当然のことだが下落する。

 運用損に加えて売却損まで負わされるのでは、節税効果どころの騒ぎではない。今、そうしたワンルームが池袋や大塚に限らず全国に多数滞留している。滞留、という意味は「売却もままならず放置プレー状態にある」ということだ。

 不動産投資においては売却という出口が塞がれてしまうと、抱え込むしかなくなってしまう。十分な賃料が享受できるのであればまだしも、続々と建設されるワンルームマンションとの競合では、その商品力で分が悪いので家賃は下がる。外国人がワンルームに5人も6人も、などと報道されるのがこうしたサラリーマンたちが買い求めたワンルームである場合が多いのだ。

マンションのスラム化はワンルームマンションから始まる?

 さらにやっかいなのは、彼らの節税対策には期限があるということだ。サラリーマンであるからには、いつまでも高給が保証されているわけではない。役職定年などを迎えると、給料は従来の6~7割、会社によっては半分以下に自動的に下げられてしまう。そうなると、せっかく不動産所得の赤字が作れても、控除する給与所得が少なくなってしまえば節税効果など雲散霧消してしまう。これでは何のために節税対策をしたのか目的をも失ってしまう。

 現在こうした出口を失ったワンルームマンションが大量に滞留している。それにもかかわらず相変わらず大量のワンルームマンションが供給されている。なかにはローンが返済できなくなる、管理費、修繕維持積立金の滞納、未納の事例が頻発しているマンションも多くなっている。

 では新しいワンルームマンションなら大丈夫かといえばそうではない。最近、都内で続々竣工している賃貸ワンルームマンションの多くがテナント付けで苦戦が目立つようになっている。若い人が集まらないのだ。都内に転入する人口の激減と若い年代の人口そのものが減少しているのがその背景だ。また最近竣工するものは土地代が高いのに加え、建築費が高騰している煽りを受けて、賃料水準を引き上げないと投資商品として魅力度が下がってしまう。そのため強気の賃料設定に頼るケースが増えている。テナントがこの動きについてきてくれればよいが、彼らにだって財布の限界がある。募集をしてもテナントが集まらないという悪循環が都内のいたるところで見受けられる。

 実は都心部におけるマンションのスラム化について、私は意外と遠くない未来、この取り残されたワンルームマンションから始まる気がしている。この所有者の間で相続が頻発する頃には、相続登記をしない、管理組合には届け出ない、管理費は払わない、大規模修繕などに応じない、いつのまにか外国人に売られていたなど、さまざまな事象が勃発することだろう。

 節税だけが目的の不動産投資の未来は暗いのだ。

(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

牧野知弘/オラガ総研代表取締役

オラガ総研代表取締役。金融・経営コンサルティング、不動産運用から証券化まで、幅広いキャリアを持つ。 また、三井ガーデンホテルにおいてホテルの企画・運営にも関わり、経営改善、リノベーション事業、コスト削減等を実践。ホテル事業を不動産運用の一環と位置付け、「不動産の中で最も運用の難しい事業のひとつ」であるホテル事業を、その根本から見直し、複眼的視点でクライアントの悩みに応える。
オラガ総研株式会社

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