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ニトリ、36期連続・増収増益に黄色信号…懸念材料が浮上、業績拡大に陰りか

文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授
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ニトリの店舗

 ここへきて、ニトリのビジネスモデルは大きな転換点を迎えている。これまで、同社はコストの安いアジア新興国で家具を生産し、それを国内で販売するビジネスモデルを確立してきた。原材料調達、製品の製造、運送、販売までのサプライチェーンを確立、強化した。それによって、同社は価格競争力を高めた。国内に加えて中国や米国などでも事業を展開した。円高が進んだことも同社の業績拡大に大きく貢献し2022年2月期まで35期連続で増収増益を達成した。しかし、円安の進行などにより、業績拡大の勢いが弱まる恐れが高まっている。

 そして今、同社は日本を代表する家具小売企業から、世界経済のダイナミズムとしての役割期待が高まるアジア市場有数の家具小売企業への飛躍を目指している。背景の一つに、インドやアセアン地域への直接投資が増え、中長期的な経済成長期待が高まっていることは大きい。東南アジア地域を中心に需要を優位に取り込むために、ニトリは構造改革を加速させている。それがどのように業績の拡大に寄与するかが注目される。

収益の不安定化懸念高まるニトリ

 ニトリは自社のビジネスモデルを製造物流小売業と定義している。同社は消費者が買ってもいいと思う価格から逆算し、コストと品質に見合った資材を調達する。資材はアジア各国にある工場(委託先を含む)に直送される。完成した家具などは、ニトリが自前で構築した物流システムによって日本に向けて出荷されてきた。ニトリは物流拠点の増設とその機能強化などによって一連のサプライチェーンを強化した。

 それを支えた要因の一つに、世界経済のグローバル化がある。1990年代初頭、冷戦の終結によって世界各国の国境のハードルは下がった。クロスボーダーでのヒト、モノ、カネの移動が活発化した。企業は、最も生産コストの低い場所でモノを作り、需要が旺盛でありより高い価格で販売できる市場で供給する体制を構築しやすくなった。

 それに加えて、1985年のプラザ合意以降、円の為替レートはドルに対して上昇傾向で推移した。円高の進行は日本の輸入物価を押し下げる。例えば1ドル=200円の時、100ドルの製品の輸入代金は2万円だ。円高が進み1ドル100円になれば輸入代金は1万円に低下する。ニトリは似鳥昭雄会長の判断で巧みに円高に対応した。ニトリはグローバル化の加速を追い風に、売り上げの増加とコスト削減の取り組みを強化し、「お、ねだん以上。」の価値観、満足感を創造した。

 しかし、ここにきて同社を取り巻く事業環境は大きく変化している。その一つとして、世界経済の状況はグローバル化から脱グローバル化に転じた。背景には、米中の対立、コロナ禍の発生、ウクライナ危機など複合的な要因が重なる。感染対策のための移動制限、ウクライナ危機後のロシアからのエネルギー資源などの供給減によって、世界的に供給体制は不安定だ。中国以外の国と地域で物価は高騰し、企業のコストは増加している。コンテナ輸送料金上昇などコストプッシュ圧力は想定されたよりも強い。円安も逆風となり、2022年度第2四半期、ニトリの連結営業利益は前年同期を下回った。

アジア新興国における事業運営体制強化

 海外でコストを抑えて新しい家具などを生み出し、国内需要を取り込むというニトリの事業運営体制は転換点を迎えている。成長を加速するために、ニトリは思い切って事業運営戦略を転換し始めた。それが中国を含むアジア新興国地域への出店強化だ。2021年度決算資料では2025年度までに中国、台湾、東南アジアなど海外店舗数を280にする計画を示した。2022年度第2四半期の決算資料では、米国事業の撤退も表明された。同社のアジア市場重視姿勢は鮮明だ。

 背景の一つには、インドとアセアン各国における急激な経済構造の変化がある。中国からインド、マレーシア、タイ、ベトナムなどに生産拠点をシフトする各国の主要企業が増えている。米中対立や台湾問題の緊迫化、先行き不透明なゼロコロナ政策などを背景に、アップルはインドでのiPhoneやiPadの生産を増やしている。マレーシアでは車載用など半導体生産能力向上を目指して日米欧などの企業が直接投資を行っている。当該国の雇用基盤は強化され、中長期的に所得は増加するだろう。それに伴って人々は価格が低く、より品質の良い家具を求めるようになる。また、先行きの不透明感は高まっているものの、中国は世界最大の消費市場として重要だ。

 対して、日本の消費環境は不安定な状況が続く可能性が高い。現在の物価上昇ペースをもとに考えると、2023年の春先頃まで日本の物価は上昇しそうだ。ウクライナ危機がどう落ち着くかは見通しづらい。想定される以上に世界の供給網の不安定な状況は続き、企業のコストプッシュ圧力は高止まりする恐れがある。一方、過去30年程度にわたって日本の賃金は伸び悩んできた。10月まで7カ月連続で日本の実質賃金は前年同月を下回った。日本の個人消費の回復ペースはかなり緩慢にならざるを得ないだろう。

 外国為替市場では米国の金融引き締めペースの鈍化などによって徐々にドル高・円安傾向の調整が進みつつあるが、ニトリにとって国内事業をメインにして高い成長を目指すことは容易ではない状況が続きそうだ。

高まる構造改革の加速期待

 国内外でニトリは構造改革を加速させなければならない。ポイントは、コスト削減の徹底強化と、新商品開発の加速だ。アジア新興国での事業運営体制の強化には、サプライチェーンの再構築とデジタル化による業務運営のスピードアップが欠かせない。そのために設備投資などは増加すると予想される。中長期的なアジア新興国経済の成長によって、人件費も増加するだろう。そうした環境変化に対応して価格競争力を高めるために、ニトリは生産拠点を再編し、より低コストで最終目的地に商品を届ける体制を整備しようとしている。具体的に、海上輸送ルートの最適化、港湾施設から物流施設までの輸送コストの圧縮が強化されている。ニトリは陸揚げされたコンテナをそのままトラックに乗せて運ぶコンテナドレージの範囲拡大と、物流施設のDXの加速や梱包方法の見直しなども行っている。店舗運営に関しても、国内ではセルフレジ導入などによる省人化が進められている。

 一方、島忠のPB商品を含め、新商品開発は加速されなければならない。アセアン地域などの新興国の消費者にとって、日本企業の手掛ける商品は安心、信頼できる商品として憧れの対象になってきたといえる。相対的な経済成長期待の高さを背景に、ニトリのライバルであるイケアもアジア新興国での成長戦略を強化している。ニトリはよりスピーディーに新商品を開発して新しい需要を生み出し、デジタル技術を活用したマーケティング戦略の実施によって消費者のニーズを取り込まなければならない。

 2022年度第2四半期の業績説明資料において、ニトリは2023年3月期の増収増益予想を維持した(決算期の変更により、今期は2022年2月21日から2023年3月31日まで)。それは、コスト削減と商品開発の加速などによって収益力を早期に引き上げるという経営陣の決意表明に見える。ニトリ経営陣はこれまでの成功体験に浸ることなく、構造改革をさらに強化しようとしていると言い換えてもよい。同社の構造改革が今後の業績にどういった影響を与えるか、より多くの注目が集まるだろう。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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