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零細の爪楊枝メーカー、アマゾン上で悪質な無在庫販売業者と激闘→撃退した顛末

佐藤勇馬
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※画像:菊水産業株式会社「きくすいネットショップ」より
※画像:菊水産業株式会社「きくすいネットショップ」より

 老舗の国産爪楊枝メーカー「菊水産業」(大阪府河内長野市)が、Amazonで無在庫販売による悪質な「相乗り出品」の被害に遭い、3日間の激闘の末に悪質業者をすべて撃退したことが話題を呼んでいる。同社代表の末延秋恵さんを取材し、撃退までの道のりと悪質業者を駆逐した方法について聞いた。

 Amazonは、すでに販売されている製品と同一の商品を別の業者が出品する場合、同じページで販売できる「相乗り出品」という仕組みがある。販売許可の証明書などは求められないため、悪質な業者が「相乗り出品」で模造品を安価に販売したり、売り切れた人気商品を高額転売したりといった事例が続発し、正規メーカー側はもちろん、消費者にとっても困った問題となっていた。

 先日、この被害に遭ったのが1960年創業の国産爪楊枝メーカー「菊水産業」だ。同社は2021年に祖父たちが守ってきた会社を末延さんが「4代目」として受け継いだが、就任から1カ月足らずで事務所や作業場などが全焼する火災被害に巻き込まれ、復活を目指したクラウドファンディングが大きな話題になったことで高品質な製品にも注目が集まった。今回、悪質業者からターゲットにされたのは、同社の人気商品「純国産しらかば楊枝 約300本入」(価格:税込550円)だった。

 被害を察知するまでの経緯について、末延さんはこのように語る。

「普段からコンスタントに売れる商品なのですが、お客様からうれしい問い合わせをいただき、8月18日にX(Twitter)でその話を紹介したところ、かなり話題にしていただいたおかげで注文が一気に入りました。爪楊枝の外箱の在庫が少なくなり、店の在庫数とネット販売の在庫数を調整しながら対応していたのですが、20日の朝には各ECサイトで売り切れになりました。しかし、ふと見たら売り切れになっているはずのAmazonで別の業者が予約販売をしていて、確認してみると菊水産業のページに相乗り出品されていることが分かりました。別ページで転売されているなら違反報告ができるのですが、相乗り出品されているのは正規の当社のページなので、このページを違反報告してもいいものなのか分からず、何もできずに時間が過ぎていきました」(末延さん)

 最初に相乗り出品してきた業者は定価の3倍以上となる税込1800円で予約受付し、時間が経つにつれて相乗り出品が4社にまで増加。だが、これは単なる「転売」ではなかったようだ。

零細の爪楊枝メーカー、アマゾン上で悪質な無在庫販売業者と激闘→撃退した顛末の画像1
※別の事業者によって3倍以上の価格で予約販売されていた

「売り切れる前に大量に購入し、在庫を確保している可能性も否定はできませんが、この商品を同じ方が大量に購入した形跡はありませんでした。これは、在庫がないのに勝手に予約を取っているのかもしれないと。そうであれば、より問題だなと思いました」(同)

 メーカーに在庫がないのに「無在庫販売」しているとなれば、入荷のアテすらないのに予約受付している可能性が高い。このような場合、模造品を送り付けてくるケースもあり、購入してしまった人が憤慨して正規ページに低評価レビューをつけたり、メーカーに苦情を入れたりするなど多方面で被害が生じる。

 末延さんがAmazonのカスタマーセンターに問い合わせると、「菊水産業も予約販売の形を取ってください」と言われたそうで、その通りに予約販売に切り替えたという。ところが、普段は15分ほどで済むはずの処理が反映されず、ほどなくカスタマーセンターから「価格の誤設定が検出された」として出品を停止したとの連絡があった。

「カスタマーセンターに電話で聞くと、高額出品された別の事業者の商品を予約注文した人が数名いたそうで、そちらが適正価格と判断され、正規の価格は『安すぎる』として却下されたみたいでした。解決には、在庫がある別の販売サイトの商品URLが必要と言われたのですが、どのサイトも在庫がなかったので、自社のECサイトで予約販売ページを用意しました」(同)

 そうしている間にも悪質業者による相乗り出品は続いていた。別の企業アカウントから助言を受け、末延さんは対策に乗り出した。

「被害のことをつぶやいていると、同じく転売に悩んでいる国華園(※西日本最大級の園芸センターなどを運営)さんからアドバイスをいただき、Amazonの商品写真の2枚目くらいに注意喚起の画像を載せると被害防止になると教えていただきました。ひとまず自分たちでできることはこれしかないと思い、画像を作って掲載しました」(同)

零細の爪楊枝メーカー、アマゾン上で悪質な無在庫販売業者と激闘→撃退した顛末の画像2
※注意喚起のために掲載した画像

 画像は注意喚起になるが、悪質業者は依然として予約販売をしている状況。注意の画像を見ずに注文してしまう人がいるかもしれず、不安な状態が続いた。そこで、末延さんはついに業者との「直接対決」に挑む。その時に心強い味方となってくれたのが、大阪を拠点に展開するセレクトショップ「nakota」の代表取締役・吉田真太郎さんだったという。

「吉田さんは以前からプライベートでも仲良くさせてもらっていて、火災被害に遭った時もたくさん助けてくれました。今回の被害についても、ダイレクトメールでいろいろと教えてくれて、相乗り出品している事業者に送るメールの内容も考えてくれました」(同)

 具体的な撃退方法は、相乗り出品している業者に対し、商品画像の無断使用は法律に触れる可能性があること、そして無在庫販売はAmazonの規約で禁止されていることを、毅然とした態度で通告するというもの。末延さんによると、「21日の17時半にメールを送ると22日の午前中には3社消えてました。そして午後になるくらいには全員いなくなりました」とのことで、効果テキメンだったようだ。在庫状況を誰よりも知るメーカー側からの通告となると、相手は言い逃れが難しく、それも大きなポイントになったとみられる。

 苦心の末、ついに悪質な業者を一掃した末延さん。価格の誤設定だとAmazonに誤解されて予約販売できなくなっていた問題についても、8月27日に菊水産業の公式アカウントで予約販売が可能になったと報告された。 今回の一件を経て、末延さんはAmazonに対してこのような思いを明かした。

「Amazonさんは、たくさんセラー(販売者)さんがいるので、きっと日々このような問題がたくさん起こっているのではないかと思います。もちろん証拠の確認は大切ですし、私が主張したようなことを嘘で言って騙そうとする悪い事業者もいると思うので、判断に困るのも分かります。私たちのような零細中小企業にとっては、ネット販売も重要な販路の一つです。何か商品を開発した時、自社のECサイトでいきなり販売しても、広く知られることもなければ売れることもまずないです。小さなメーカーにとって、Amazonさんは挑戦できる場所ですので、とても感謝しています。しかし、中には今回のように困った事業者がまぎれていることがあり、弊社の商品に相乗り出品していた事業者さんについては評価がかなり悪く、一方的にキャンセルをしたりもしていましたので、そういう事業者さんについてはしっかり排除してほしいと思います」

佐藤勇馬/フリーライター

佐藤勇馬/フリーライター

SNSや動画サイト、芸能、時事問題、事件など幅広いジャンルを手がけるフリーライター。雑誌へのレギュラー執筆から始まり、活動歴は15年以上にわたる。

Twitter:@rollingcradle

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