少し前にある企業経営者がX上にポストした「高卒採用を増やしたいんだけど、現状の異様な高卒新卒採用ルールを変更してほしい。学生の職業選択の自由を奪っている」という投稿が注目されている。高卒予定者の採用の主なルートである学校斡旋では、三者協定によって、学生は原則1度に1社しか応募できず(地域による)、内定後の辞退は認められず、学生と企業の直接交渉は禁止されているといったルールがあり、応募する会社が学校主導で決められるケースが多いといわれている。こうしたルールが存在することのメリット、そして弊害は何か。専門家の見解を交えて追ってみたい。
企業による高卒人材の採用意欲は高い。今年3月に卒業した高卒者の求人倍率は全国平均で3.98倍(文部科学省調べ)と過去最高を更新。25年春入社の高卒者についても、10月24日付「日本経済新聞」記事によれば、採用計画人数の充足率が75.7%と80%を割っており、売り手市場になっている。なかでも工業高校の卒業予定者の人気は高い。23年卒の工業高校の求人倍率は全国平均で20.6倍(全国工業高等学校長協会の調査による)、5年制の高専は24年春入社の求人倍率は20倍であり(国立高等専門学校機構の調査による)、進学者等を除く就職希望者の就職率は99%を超える。
大企業も積極的に高卒人材を採用する。日経新聞記事によれば、25年春の採用計画人数は日本製鉄グループが545人、三菱電機が250人、JR西日本が230人となっている。
「文系学部の場合、MARCHレベル以上の大学であれば就職の選択肢は広がるので行ってもよいといえるが、下位の大学だと就職は厳しくなるのが実情。就職や生涯賃金という面に限って考えれば、工業高校や高校の工業系コースから大手企業に就職したほうが良いということはあるかもしれない」(転職支援サービス会社社員)
高卒採用ルールのメリットとデメリット
そんな高卒採用では前述のルールが存在する。特に1人1社応募ルールや学校主導によって就活が進むという慣例によって、新卒者と企業のミスマッチが生じ、それが高卒新卒者の入社後3年以内の離職率が4割という高い数字につながっているという指摘もある。ちなみに採用スケジュールも厳格に決まっており、例年、7月1日に求人情報が解禁され、7~8月に職場見学が行われ、9月5日から学校側から企業へ応募書類の提出が開始。企業は面接後1週間以内に採用結果を通知するのが慣例となっており、9月末までに6割ほどの高校生の内定が出る。
このようなルールが存在する理由は何なのか。UZUZ COLLEGE代表取締役の川畑翔太郎氏はいう。
「よく言われている10代の学生を保護するという目的も確かにあるとは思いますが、地域から若者を流出させたくないという意図もあるのではないでしょうか。大卒新卒の就活と同様に企業も学生も自由に活動できる形態が広まると、就職情報サイトに募集を掲載できるような大企業や急成長の企業が有利になり、大都市に所在する企業が地方企業より少しだけ高めの給与を提示すると、高卒新卒者がごそっとそちらに流れていく可能性があります。地方の企業・経済界がそのような事態を防ぐために、地元の高校と密接に結びついてベルトコンベヤー方式で若者を高校から地元企業に送り出す仕組みになっている印象を受けます」
三者協定によるルールが存在することによる企業側・学生側のデメリットは何か。
「学生は学校から提案された数社のなかからしか選ぶことができず、かつ内定後の辞退は許されないというのは、選択の自由を奪われています。それが入社後の高い離職率に表れています。また、大都市にある企業が地方を含めて全国から幅広く高卒予定者を採用しようとした場合に、このルールの存在が障壁となってしまいます」
では、企業側・学生側のメリットはあるのか。
「地元企業は高校との採用協定により毎年一定の人数の採用を確保することができます。一方、学生側は選択の自由が制限される半面、大卒新卒の就活のように自分で就活のノウハウや企業情報を調べて、数多くの企業にエントリーして書類提出、筆記試験、面接をこなさなければならないという非常に重い負荷を回避できます」
(文=Business Journal編集部、協力=川畑翔太郎/株式会社UZUZ COLLEGE代表取締役)