工業高校・高専の卒業者を対象とする求人倍率が過去最高水準の高さとなる一方、文系の大卒者への採用ニーズ低下が指摘されており、企業の人事担当者からは「受験勉強をがんばって早稲田大学文学部に入るより、工業高校に入るほうが、就職面では有利ではないか」という声も聞かれる。すでに事実上、大学「全入時代」に突入したともいわれるなか、今後、特に上位校以外の私立大学の文系学部学生は就職で苦労するとの見方もあるが、実態はどうなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
全国工業高等学校長協会の調査によると、2020年度の全国の工業高生に対する求人倍率は15.4倍と過去最高を記録。5年制の高専の学生への求人倍率は20倍以上であり(23年1月25日付「FNNプライムオンライン」記事より)、30倍以上の高専も存在する。一方、25年卒の大学生・大学院生を対象とする求人倍率は1.75倍(リクルートワークス研究所「第41回 ワークス大卒求人倍率調査(2025年卒)」より)。今年3月1日時点の内定率は40.3%で、理系が47.8%なのに対し文系が36.8%と、約10ポイントの開きがある(就職みらい研究所「就職プロセス調査(2025年卒)『2024年3月1日時点 内定状況』」より)。ちなみに同調査によれば、24年卒の大学生・大学院生の昨年12月1日時点の内定率は文系が94.0%、理系が98.1%となっており、大学・大学院の9割以上の学生は就職できているとみられる。
「大学生・大学院生への求人倍率は、東京大学をはじめとする国立大学や早稲田大学・慶應義塾大学などの難関私立大学から、偏差値下位の大学まですべての大学が含まれる。多くの業界で人手不足が進行しており、特にインバウンド需要の増加で流通業などが大量に人を採用していることもあり、『選ばなければ、どこかには就職できる』という言い方が正しい。学生に人気の大手メーカーや金融、大手IT企業の内定者はMARCH以上の学生で占められているのが現状であり、従来と変わらず応募者のなかから厳選して採用しているため、狭き門であることは変わっていない。MARCHより下位の大学、特に文系学部の学生の就活は厳しい状況といえる」(大学関係者)
企業の本音としては理系学生が欲しい
まず、高卒者の就職状況はどうなっているのか。株式会社UZUZ COLLEGE代表取締役の川畑翔太郎氏はいう。
「従来の高卒の就職は、学校推薦で就職先を選ぶのがほとんどで、1人1社しか受けられないといった慣習が存在しており、大学新卒のような豊富な選択肢が高校新卒にはありませんでした。そのため、ミスマッチが生じやすく、3年以内の離職率は37%と大卒(32.3%)よりも高い状況となっています。一方、労働人口の減少に伴い、特に中小企業がこれまで以上に大卒者を採用しにくくなり、高卒者の採用にも力を入れるようになりました。こうした高卒の採用ニーズの高まりを受け、ここ数年、民間企業が相次いで高卒予定者の就職支援サービスに参入し、特に理系の専門知識を持つ工業高校・高専の学生は争奪戦になっています」
大卒者の就職状況はどうなっているのか。
「大学生・大学院生対象の大卒求人倍率はここ数年上昇傾向にあります。ただ、少子化で若者の数が減っているのに対し、求人数はほぼ一定もしくは増加しているので、増えて当たり前です。採用においては、もともと文系学生へのニーズは高くはなく、企業の本音としては理系学生が欲しい。ですが理系ではなくても就ける仕事は多く、最終的には大半の文系学生も就職できています」(川畑氏)
企業の採用ニーズという面でみると、文系の大卒より工業高校卒のほうが高いといえるのか。また、極論として「早稲田大学の文学部卒より工業高校卒のほうが就職で有利」とはいえるのか。
「早大の文学部レベルであれば、就職先の選択肢はかなり広くなるので、行ってよいと思います。ただ、文系の学生に対する企業側の評価は『仕事に直接役に立つわけでもないことを4年間学んでいた』といったものなので、下位レベル大学の文系学部になると就職は厳しいものになります。企業としては、そのような大学生よりも、4歳も若くて理系の知識もある工業高校卒の学生や専門学校の学生のほうを採りたいと考えてもおかしくはありません。
就職面でも経済的コスト面でも、ただ大学に4年間通うというのは、ある意味ではリスクであり、コスパの良くないことだと言えます。現在では正社員と同じくらいのレベルの仕事をして給料をもらいながら大学に通うというスタイルも可能になっており、そのような就活で評価されるキャリアを積みつつ学費も稼げる形態を検討してみてもよいかもしれません」(川畑氏)
(文=Business Journal編集部、協力=川畑翔太郎/株式会社UZUZ COLLEGE代表取締役)