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楽天モバイル、独自衛星通信で対抗…スターリンク3社横並びに挑む勝算と財務リスク

2026.06.28 06:00 2026.06.27 23:50 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岡崎大輔/工学博士

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●この記事のポイント
ドコモ・KDDI・ソフトバンクがスターリンクに横並びで依存する中、楽天モバイルだけがAST SpaceMobileと組み、市販スマホで動画・通話も可能なブロードバンド衛星直接通信を2026年Q4に商用化する。総務省1500億円補助金の争奪、財務改善の兆しと有利子負債1.6兆円という光と影を多角的に考察する。

 2026年春、日本の通信市場で象徴的な出来事が起きた。NTTドコモが4月27日、ソフトバンクが4月10日、それぞれイーロン・マスク率いるスペースXの衛星ブロードバンド「スターリンク」を活用したスマートフォン直接通信サービス(「docomo Starlink Direct」「SoftBank Starlink Direct」)を相次いで開始したのだ。すでに2025年4月に先行していたKDDIの「au Starlink Direct」と合わせ、大手3社がそろってスターリンクを採用するという、日本の通信史上でも珍しい”横並び”の構図が出来上がった。

 この動きに加わらなかった唯一のキャリアが、楽天モバイルだ。楽天は2020年から出資・提携してきた米新興企業「AST SpaceMobile(ASTスペースモバイル)」と手を組み、「Rakuten最強衛星サービス Powered by AST SpaceMobile」として2026年第4四半期(10〜12月)の国内商用サービス開始を目指している。地上での基地局整備でシェア争いに苦しんできた楽天モバイルにとって、この衛星通信戦略は単なるエリア補完策ではなく、競争の次元そのものを変えようとする大きな賭けだ。はたして、これは勝算のある合理的な判断なのか。あるいは財務的な重荷が増す新たなリスクなのか。最新のデータをもとに多角的に検証する。

●目次

スターリンク陣営の「強さ」と「弱点」

 まず、3社が採用したスターリンク陣営の現状を整理しよう。KDDIのサービスは開始から約1年でユニークユーザー数400万人を突破し、対応端末も89機種・1100万台以上に広がった。テキストメッセージや位置情報共有から始まり、データ通信へと順次拡張している。2026年1月には北海道での遭難者がこのサービスを通じて救助につながったという事例も報告され、”命をつなぐインフラ”としての存在感を示し始めている。

 実績面での優位性は明らかだ。しかし、3社が同一のプラットフォームを採用したことで、通信インフラの観点からひとつの課題も浮かび上がった。通信業界専門家から「3社が同じ衛星サービスを採用したことで”単一障害点”が生まれた面も否めず、今後は複数回線のバックアップ確保が重要になる」との指摘がある通り、国家のデジタルインフラをスペースXという一民間企業に依存する構造は、経済安全保障の面でも無視できないリスクをはらんでいる。

 加えて、ビジネスモデルの面でも課題がある。ソフトバンクの宮川潤一社長自身が「衛星通信サービスだけで差別化することは難しいのではないかと考えている」と認めている通り、3社はいずれもスターリンクを”借りている”立場であり、価格交渉力やサービス仕様の変更において、常にスペースX側が主導権を握る。実際、現時点でのStarlink Directは当面無料・テキスト中心のサービスにとどまっており、収益化の見通しも含めて不透明な部分が残る。

楽天の「独自網」が持つ技術的優位性

 こうした状況に対し、楽天が採用したASTの技術は異なるアプローチを取っている。最大の特徴は「市販のスマートフォンをそのまま使って、ブロードバンド通信が可能」な点だ。

 テニスコートの半面(64平方メートル)に相当する巨大アンテナを搭載したASTの低軌道衛星「BlueBird」は、通常のLTEスマートフォンと宇宙から直接通信できる設計になっている。スペースXのStarlink Directも同様のコンセプトを持つが、楽天・ASTのサービスが狙うのは”テキスト送受信”を超えたブロードバンド通信だ。2025年4月の国内実証実験では、福島県と東京都間で市販スマートフォン同士のビデオ通話に成功。達成した通信速度は14Mbpsで、動画のストリーミングが可能な水準だ。三木谷浩史会長兼社長は「ブロードバンドで面積カバー率100%を実現する」と宣言しており、テキスト中心の競合との差別化を鮮明にしている。

 衛星部品の約50%が日本製である点も特記に値する。「外資のプラットフォームを借りる」のではなく、部品調達から運用管理まで一定の国内自律性を持つインフラとしての性格を、ASTとのパートナーシップが実現しているわけだ。

国策の風を読む三木谷氏の戦略眼

 楽天の衛星通信戦略をさらに後押しするのが、日本政府の動きだ。総務省は2025年度補正予算に「自律性確保に向けた低軌道衛星インフラ整備事業」として1,500億円を計上し、スマートフォンと衛星が直接つながる通信網を国内で運用・管理できる形で整備する事業者を支援する方針を打ち出した。補助の対象は衛星の調達・打ち上げから地上設備整備にまで及び、採択されるのは1社のみとされている。

 政府がこの事業を推進する背景には、明確な経済安全保障上の論理がある。「日本国内で運用・管理される独自のインフラを持つことで、サービスの自律性を確保する必要がある」(総務省・宇宙通信アドバイザリーボード資料より)という姿勢は、スターリンクだけに依存することへの危機感の裏返しでもある。

 この文脈で見ると、楽天・ASTの「国内自律型インフラ」としての性格は、補助金獲得において強みになりうる。ただし、KDDIも「すでに動いているサービスという実績」を最大の武器として同補助金(J-LEO)の獲得を狙っており、採択結果は2026年6月末をめどに出る見通しだ。三木谷氏が”国策の風”を読んで早期から出資・提携を積み上げてきた戦略的判断は、単なるビジネス嗅覚を超えたものと評価できる。

財務の現実——楽天の「サイフ事情」

 一方で、楽天グループの財務状況は依然として予断を許さない。2025年12月期の最終損益は1778億円の赤字で、7期連続の最終赤字となった。有利子負債は2025年第3四半期時点で約1.6兆円に上る。2026年以降の5年間(2026〜2030年)で1兆円を超える社債の償還が予定されており(2026年分だけで約1625億円)、財務的な綱渡りが続いている。

 明るい材料もある。楽天モバイルは2025年12月に契約回線数が1000万回線を突破し、2025年度通期のEBITDA(償却前営業利益)が288億円の黒字を達成した。2026年1〜3月期には、携帯事業への本格参入後初めて四半期ベースの営業黒字を計上(303億円)し、赤字幅は前年同期比7割縮小という改善トレンドにある。

 しかし、2026年度はネットワーク強化のために2000億円超の設備投資を計画しており、「モバイル事業が自立する前にキャッシュが枯渇しかねない」(証券アナリスト)との懸念は根強い。加えて楽天は、2026年4〜5月にかけてASTの保有株式を大量売却(3100万株超から約1551万株へほぼ半減)し、数百億円規模の現金を確保したとの報道もある。この動きは財務の安定化が目的とみられる一方で、ASTへの持分が薄まることによる戦略的関与の変化も注視が必要だ。

 情報通信の専門家で工学博士の岡崎大輔氏は次のように語る。

「楽天の戦略は整合性がある。地上でのインフラ整備コストを将来的に衛星で圧縮するというロジックは合理的で、長期的な損益分岐点の引き下げにつながりうる。ただし、ASTの衛星打ち上げスケジュールや技術の成熟度にはまだ不確実性があり、商用化が軌道に乗るまでの時間軸をどう乗り切るかが最大の課題だ」

残された課題——スピードと不確実性

 楽天・ASTが直面する課題のひとつは、スピードだ。ASTは2026年までに45〜60基の商用衛星(BlueBird)を軌道投入する計画を掲げており、資金確保の見通しも示されている。しかし、KDDIはすでに400万人超のユーザーを抱えてスターリンク陣営で先行しており、2026年内にドコモ・ソフトバンクが加わることで「スターリンク陣営3社」のユーザーベースは一気に拡大する。後発の楽天が「ブロードバンド品質」という技術的差別化で巻き返せるか、実際に使われるサービスになるかは、サービス開始後の品質・価格・普及速度にかかっている。

 また、技術面での課題も残る。衛星ダイレクト通信は屋外の開けた場所が前提で、森林や谷あいでの通信品質には制約がある。現時点でのStarlink Directでも通話やウェブブラウザ利用には一定の制限があることが実証レポートで確認されており、「圏外をなくす」というコンセプトの実用水準をユーザーがどう評価するかは未知数だ。

日本の通信勢力図を変えるか

 地上の基地局整備ではプラチナバンドの取得(2023年)以降も3社に後れを取り続けた楽天モバイルにとって、衛星通信は「同じ土俵での競争を避け、次元を変える」という意味で戦略的な意義を持つ。山間部・離島・海上の通信空白を”宇宙からの補完”で埋めることができれば、「地理的エリアカバー率100%」という既存キャリアが提供できていない価値を訴求できる。

 3社が同一ベンダーのサービスに乗り、差別化の余地が限られる状況では、楽天の独自路線はリスクであると同時に、数少ない「非対称な競争」の機会でもある。J-LEO補助金の採択、ASTの衛星打ち上げ計画の遂行、そして楽天グループ全体の財務回復——これら三つの歯車が同時に回ったとき、三木谷氏の「宇宙からの逆転」というシナリオは現実味を増す。

 いずれにせよ、2026年第4四半期のサービス開始は、楽天モバイルにとって単なる新サービスの開始ではなく、日本の通信競争に新しい軸を持ち込むかどうかの試金石となる。地上での戦いを宇宙に持ち込んだ三木谷氏の判断の是非が明らかになるのは、それほど遠い未来の話ではない。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岡崎大輔/工学博士)

公開:2026.06.28 06:00