なぜ三菱地所はバリ島に145億円を投じた?国内モールとの差異とサステナブル型リゾート商業

●この記事のポイント
三菱地所がバリ島スランガン島の経済特区クラクラ・バリに145億円を投じ、大型ラグジュアリーアウトレット「Sira Village Grand Outlet Bali」を2026年7月開業。約130店舗、BCA Green Mark GOLD取得予定。国内モールとは異なるサステナブル型リゾート商業戦略を読み解く。
インドネシア・バリ島南部のスランガン島。かつて静かな漁村だったこの島の一角に2026年7月31日、バリ島初となる大型ラグジュアリーアウトレット「Sira Village Grand Outlet Bali」が開業した。手がけたのは三菱地所と現地デベロッパーのPT Bali Turtle Island Development(BTID)。総事業費は約145億円、開業時点でテナント数は約130店舗にのぼる大規模商業施設である。
観光地として既に成熟したバリ島に、なぜ今、大規模な商業施設を新設するのか。国内では少子高齢化が進み、大型商業施設の新規適地も限られつつある中、三菱地所はなぜ海外、それもリゾート地という特殊な市場に大型投資を続けるのか。本稿では、このプロジェクトの背景にある事業構造を、国内アウトレット事業との対比から読み解く。
●目次
- バリ島…世界の観光客と東南アジアの富裕層が交差する結節点
- 国内モールと何が違うのか——「モノ消費」から「リゾート体験型モール」への進化
- 環境保護と地域共生をどう両立させるか
- 三菱地所の今後の展開…「海外で稼ぐ」ポートフォリオの完成形
バリ島…世界の観光客と東南アジアの富裕層が交差する結節点
三菱地所がバリ島進出の足がかりとしたのは、2023年12月に開業した「The Grand Outlet – East Jakarta」に続く、インドネシアでの第2弾プロジェクトという位置づけだ。ジャカルタが「地元消費」を主軸とする都市型アウトレットだったのに対し、バリ島案件は世界中から観光客が集まるリゾート地という、まったく異なる商圏構造を前提にしている。
バリ州観光局系の統計によれば、2025年にバリ島を訪れた観光客は総数約1,630万人で前年をやや下回ったものの、内訳を見ると海外からの訪問客は約705万人と前年から75万人増加している。一方で減少したのはインドネシア国内からの旅行者(約928万人、前年比85万人減)であり、バリ島の観光需要が「量」から「質」、すなわち滞在日数や消費単価の高い海外客・富裕層シフトへと構造変化していることがうかがえる。インドネシア政府が2026年から観光客に一定の経済力証明を求める方針を打ち出しているのも、同様の「量から質へ」という政策の流れに沿ったものだ。
加えて、インドネシア経済そのものの拡大も見逃せない。IMFの推計(2026年4月時点)では、インドネシアの実質GDP成長率は2025年に5.11%、2026年も4.95%前後の高い伸びが見込まれている。人口2億7千万人を抱える同国では中間層以上の消費者層が着実に拡大しており、ジャカルタなど大都市の富裕層がバリ島でのラグジュアリー消費を担う「近隣富裕層」としても期待される。
立地面の優位性も明確だ。施設はバリ・ングラ・ライ国際空港から車で約15〜20分。しかも政府が観光・クリエイティブ産業の振興拠点と位置づける経済特区(KEK)「クラクラ・バリ」(スランガン島498ヘクタール)の中に立地し、今後30年で総額約950億円規模の投資と約10万人の雇用創出が計画されているエリア開発の中核施設という性格を持つ。マリーナや教育施設、金融拠点など周辺のインフラ投資が進めば、アウトレット単体の集客力を超えた「エリア全体の価値向上」という副次効果も見込める構造だ。
「東南アジアの商業施設開発において重要なのは、単体施設の採算だけでなく、政府主導の経済特区開発とどこまで一体化できるかです。クラクラ・バリのように国家戦略特区の枠組みに商業施設を組み込めれば、周辺インフラ投資の恩恵を受けながら長期的な資産価値の上昇を取り込める。日本のデベロッパーが個別の海外出店から一歩進み、エリア開発のパートナーとして現地政府・企業と組む事例として注目しています」(戦略コンサルタント・高野輝氏)
国内モールと何が違うのか——「モノ消費」から「リゾート体験型モール」への進化
国内のアウトレットモールは、近隣住民の休日需要や国内旅行者を主な顧客としてきた。実際、三菱地所グループが運営するプレミアム・アウトレットは、日本経済新聞の報道によれば2025年度も施設売上高が過去最高を更新するなど、国内客に支えられた収益基盤は依然堅調だ。ただし人口減少下では、新規の大型出店余地は都市圏を中心に限られつつあり、既存施設の単価向上や体験価値の強化が成長の主軸になりつつある。
これに対しバリ島案件が想定する客層は、世界各地からの観光客とインドネシア国内のアッパーミドル層という「デュアルターゲット」だ。単一の国内商圏に依存する国内型モールとは、そもそもの需要構造が異なる。
商品構成(MD)や空間設計にも違いが表れている。国内アウトレットが在庫処分的な性格を色濃く持つのに対し、バリ島の施設は世界の主要ブランドとローカルブランドが混在する「ブランドのプロモーション拠点」としての性格を強く打ち出す。テナントにはケイト・スペード、カルバン・クライン、ラコステ、トミー・ヒルフィガー、アディダス、プーマ、ナイキなど国際ブランドが名を連ねる。
建築面でも、バリの伝統的な村落(ヴィレッジ)を着想源とした低層・オープンエア型の設計を採用し、施設に滞在すること自体が観光コンテンツとなるよう設計されている点が特徴的だ。「買い物のための立ち寄り先」ではなく「滞在目的地」として機能させる狙いがうかがえる。
「海外のアウトレットモール開発で成否を分けるのは、現地の生活文化とどれだけ調和した空間をつくれるかです。バリの伝統集落を意匠に取り入れる手法は、観光客にとっての『体験価値』を高めると同時に、現地社会からの受容性も高める効果が期待できます。単なる商業施設ではなく、目的地そのものとして機能させる設計思想は、成熟した観光地でこそ有効な戦略でしょう」(同)
環境保護と地域共生をどう両立させるか
熱帯気候のバリ島で商業施設を運営する上で避けて通れないのが、冷房負荷とエネルギー消費の問題だ。同施設では、風向きを考慮した建物配置と敷地内の水景配置によってプロムナードを自然に冷却する設計を採用し、空調依存度の低減を図っている。建材面でも、現地産の火成岩やカリマンタン島産木材、再生材などローカル・サステナブル素材を積極的に採用している。
こうした取り組みの延長線上にあるのが、シンガポール発の国際的な環境認証「BCA Green Mark GOLD」の取得予定という事実だ。同認証はアジアで最高水準とされるグリーンビルディング基準の一つであり、グローバルブランドが海外出店を判断する際、ESG対応の有無が実質的な出店基準になりつつある中で、テナント誘致上の強みにもなり得る。
地域社会との関係構築も設計思想の柱に据えられている。伝統的な建築様式を取り入れることに加え、現地雇用の創出や地域の経済循環への貢献が、経済特区全体の開発方針とも整合する形で位置づけられている。
「新興国のリゾート開発では、短期的な収益性と長期的な環境・社会コストのバランスが常に問われます。国際認証の取得を単なる広報材料ではなく、テナント誘致条件としても機能させる設計は理にかなっている。ただし認証取得後の運用実態が伴わなければ意味がないため、今後は開業後のエネルギー消費実績などの開示も期待したいところです」(同)
三菱地所の今後の展開…「海外で稼ぐ」ポートフォリオの完成形
インドネシアでの第2弾出店という位置づけは、単発の海外進出ではなく、同国内でのドミナント戦略・知名度確立を狙ったものと読み取れる。東南アジア市場では三井不動産をはじめとする国内大手デベロッパー各社も海外事業を強化しており、競争は今後さらに激しくなる見通しだ。その中で三菱地所は、現地パートナーであるBTID社との共同開発(出資比率50対50)や、グループ会社である三菱地所設計による一貫したデザイン力を、他社との差別化要素として位置づけているとみられる。
一方で課題も残る。為替変動リスクは海外事業に共通する不確実性であり、現地の法規制や政治・治安情勢の変化も長期投資の前提を揺るがしうる。気候変動による異常気象や、それに伴う観光需要の変動リスクも、リゾート型商業施設特有の経営課題として無視できない。インドネシア政府が2026年から観光客への経済力証明を求める方針を示すなど、観光政策自体が流動的である点も、今後の来館者数予測に影響しうる要素だ。
日本のデベロッパーが国内で培ってきた「丁寧な街づくり」の思想と、比較的高い環境配慮基準は、新興国のリゾート開発において一定の差別化要素になり得る。今回のバリ島プロジェクトは、単なる海外出店ニュースとしてではなく、人口減少が続く国内市場からグローバルインバウンド需要と現地富裕層消費を組み合わせた新たな収益モデルへの転換を試みる事例として捉えることができる。
もっとも、こうした海外リゾート商業モデルが本当に「勝ち筋」となるかどうかは、開業後の稼働率や販売実績、そして為替や現地政策の変動にどう対応していくかによって初めて評価が定まる。今後の三菱地所の動向、そして東南アジア各国での同業他社の展開状況は、日本の不動産デベロッパーがグローバル市場でどのような立ち位置を築いていけるかを占う重要な試金石となるだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=高野輝/戦略コンサルタント)
【主な参照データ】
三菱地所「バリ島初 インドネシア第2弾大規模ラグジュアリーアウトレットモール事業(仮称)『The Grand Outlet – Kura Kura Bali』着手」(2023年12月18日付プレスリリース)
三菱地所「バリ島初の大規模ラグジュアリーアウトレットモール『Sira Village Grand Outlet Bali』開業」(2026年7月31日付プレスリリース)
日本経済新聞「三菱地所、バリ島で大型アウトレットモール開業 事業費145億円」
日本経済新聞「三菱地所系アウトレット、25年度の施設売上高が最高 国内客けん引」
The Bali Sun「Mitsubishi Estate Looks To Make Bali Indonesia’s First ‘Shopping Island’ In New Tourism Zone」
IMF World Economic Outlook(2026年4月版、インドネシア実質GDP成長率推計)
バリ州観光局系統計(2025年バリ島訪問者数、SNS上の報道引用値)










